喚くのはここまでだ
「当時
「あ、ああうん……。ごめんね? 無理言って」
「まあ
少しだけ拗ねた口調だった。
「意味が無い事は無いよ」
我が儘を通して貰ったのだから、せめてこれぐらいははっきり言う。
「心配してくれるのは誰だって嬉しい事だし、直接力になれなくたってやれる事もいっぱいあるし、人って結構単純で、そういう言葉だけでも十分嬉しいものなんだよ。思ってくれてるってそれだけで」
「後輩に無理をさせておいて、一体何を言うのですかね」
花は呆れていたが、笑っているのは声で分かった。
「神刀はどうなさいますか。状況が状況なら、私から当代様に話を通します」
「いや、いいや。あった方がいいのかもしれないけれど、時間無いし」
「何でそんな直前に連絡をされるんですかね全く……。――では、助広兄様」
「うん」
「ご武運を」
僕は電話を切ると、携帯をズボンのポケットにしまった。
これで、一番合戦さんが赤猫である事と、当時の戦いの事実が証明された事になる。
……本当に強いんだな。一番合戦さん。
赤猫になったばかりの当時でも、枝野組を圧倒して。そして本当に、辛い思いをしたんだろう。
勝手に分かった気になるなんて、失礼にも程があるけれど。
小さく息を吐くと、足元を見る。
「……知ってたでしょ。一番合戦さんが赤猫だって」
「確かに猫
影の奥から、黒犬は言った。
「化け猫山猫
「……ご尤もだよ。赤嶺さんがいる今だって、洒落にならないぐらい劣勢なのに。いつから知ってたの?」
「二月ぐらいから怪しいとは思ってた」
「あっそ」
まあ本当に、黒犬を責めた所で何にもならないのでいいのだが。寧ろ今まで黙ってくれていて、ラッキーと言っていい。
今この状況、赤嶺さんと豊住さんが味方になっているこの時でこそないと、下手に暴いて、どう動かれていたか。僕を半百鬼にさせてしまった事に責任を感じて、また三六〇年前みたいに、自殺されていたかもしれない。
……今まで一番合戦さん、何を思って過ごして来たんだろう。
僕には申し訳無いと感じているのを、黙っていても分かる。いやもうこんなの、事実を知った以上、君が気にする事なんかじゃないのに。
あの時君が怒鳴ってまで言ったように、何も出来ないんだから引っ込んでいればよかったのに、僕が勝手に君と先輩を重ねて、少しでも楽になりたかっただけなんだから。
豊住さんの言う通りだ。
僕、全然君の事を知らなかったよ。
「カッコ悪いなあ……」
「あ?」
聞き返されて、口に出ていたのに気付く。
でももうそんなの、気にしている場合じゃなかった。
豊住さんの妹さんが待っている方へ振り向くと、大股で歩き出す。
ペースはどんどん上がっていって、妹さんの所まで行く頃には、肩で風を切っていた。
「……九鬼様?」
彼女が怪訝そうに尋ねるのと同時に、アスファルトを蹴り上げる。
路地は相変わらずあみだくじみたいに入り組んでいて、それでも大通りを目指して駆け出した。
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