女の勘
「まあここからは憶測だけどね。今展開した内容も、一番合戦さんの目的が、三六〇年越しの復讐と仮定した場合、辻褄が合わない部分を列挙しただけで。でもここからは、完全に私の勘。まあどうだろ。女の勘なんて言葉もあるし、そんな体で聞いて貰えたら。まだ九鬼くんより私の方が、一番合戦さんと付き合い長い状態だしね」
豊住さんは存外冷めた調子で、でもどこか得意げに言った。
犬と狐という事で、僕より優位に立てている状況が嬉しいのだろうか。
「でも真面目な話、屋上でのあの態度の理由は、それぐらいしか思いつかない。ただ喧嘩して、仲違いしたかっただけにしか。元とは言え、相手は自分を追い込んだ枝野の傘下だよ? それも下っ端じゃなくて側近級の。私だったら殺す。あの屋上で殺してる。でもしないでわざわざ情報だけ垂れ流すという事は、それぐらいしか見当がつかない。にしても割に合わない行為だけどね。正体を晒して、その上から煽って。どれだけ嫌われたかったんだか。九鬼くんには赤嶺さんだっているのに。余裕とも……取れるのかな。それだけのハンデを与えても勝てるという。いやだから、そこで遊ぶ理由が分からない。あれだけ効率的に事を運ぼうとする人が。となると、その行為には何か裏がある。でもやっぱりあんな話聞いて得するの、あの人と敵対する人ぐらいでしょ?
「何でそんな事」
「まあ九鬼くんもちょっと考えてみなって。いい? 一番合戦さんは今の所、自分にとって不利になる事しかやってない。自分を赤猫と明かし、
「……誰の味方にもなってない?」
豊住さんの話を聞いて、思いついた事を言ってみる。
「僕を野放しにしていたら、赤嶺さんにも話が伝わるって絶対分かるし、赤嶺家は炎刀型の名門で、火の専門家……。銀って人にも困らせるような事やってるし……。……誰の味方にもなってない所か、全員敵に回して孤立してる?」
「うん。そうなんだよね」
豊住さんはあっさりと頷いた。いつの間にか猫背になって、呆れ顔で頬杖をついている。
「孤立したいようにしか見えない。それも最悪な状態で。まあ明暦の大火から今年で丁度三六〇年目だし、大したハンデにはならないかもしれないけれど。それにしたってまあー器用じゃなさ過ぎる。ていうかもう馬鹿過ぎて笑えない。ねえ九鬼くん。一番合戦さんが、見境の無い人間嫌いではないのは分かるよね?」
既に煩い蝉達が、一層大きな声で鳴き始めた。
まるでこれから話す先を拒むような態度に、豊住さんは頭上の木々を、面倒そうに一瞥する。
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