第179話 懐かしい記憶3
「……そやつがお主の弟子か?」
一人の老人からフランがそう尋ねられた。
謁見の間にフランと共に入ると、そこには四人の人物がいた。
一人は、重厚な鎧を身に纏った、騎士のような姿の青年。
一人は、魔術師然とした灰色のローブを着た、老齢の女性。
一人は、獰猛な野生を隠そうともせずに、こちらを睨み付ける、人狼。
そして最後の一人が、優しげな微笑みを浮かべた老人だ。
フランに話しかけたのは、最後の一人である。
彼女は答える。
「ええ、そうですよ。ゲゼリング老。といっても、まだまだ修行不足ですが……」
「さようか? しかしこの間は南方で随分な活躍をしたそうではないか。やはり、屍祖ライドーの系譜は皆、優秀じゃ。わしにも一人、弟子を紹介して欲しいくらいじゃて」
屍祖ライドー、とはフランの師であり、俺が学ぶ死霊術の開祖だ。
また、剣術の方の開祖でもある。
あまりにも何でも出来過ぎて恐ろしくなってくるくらいに万能の人で、未だに存命だ。
ただ、年齢を理由に官位からは降りている。
戦時中であるためそれでも陛下から指示されて戦場に出向いているらしいが、基本的には隠居されている。
年齢はともかく、実力的には俺は当然のこと、フランですら未だに叶わないと言わしめる強大な魔族だ。
「それは正直、難しいですね。私にしろ、師にしろ、弟子は探そうと思って探したわけではないですから……」
フランがゲゼリング老にそう答えたのは、俺の場合、フランがたまたま気まぐれで弟子にしただけであるからで、またフランについても屍祖ライドーによって同様に拾われたに過ぎないと話を聞いた記憶がある。
つまり、どうしても自らの技術を受け継がせたいから、それに足る才能の持ち主を求めた、というわけではないということだ。
たまたまある程度継げるだけの才能を持っていただけで。
それでも、フランはライドーの全てを継げていないし、俺にしても全く師匠方には及ばない。
死霊術師の道は遙か遠い。
しかも俺の場合、師匠方はどちらも不死化しているわけで、二人が成長を止めるとか、死ぬとか、そういうことは期待できない。
永遠に追いかけ続けるしかない人たちなのだった。
「それでそれだけの器を見つけるとは、運の良い奴らじゃて……。その弟子もすでに強力な死霊と契約していると聞いたぞ?」
「ええ。それでこの間の戦果を上げて……師として大変誇らしく思います」
と、フランが弟子自慢をしかけたので、これはここで言っておかないと勘違いされる、と思った俺は勇気を振り絞って口を挟む。
フランとゲゼリング老の会話に口出しするのは本来、命を失う覚悟が必要だ。
方や俺の師であり、方や四天王の一人であるからだ。
そう、ゲゼリング老は、魔王軍最高幹部である、四天王の一人。
この場にいる他の者たちも四天王だ。
しかし、フランはそうではない。
俺は、師が四天王になれる実力の持ち主であると思っているし、実際、以前、陛下から薦められたこともあるらしいのだが、断ったようだ。
その理由は、死霊術の奥義を究めるためには、官位は邪魔になるからと……。
陛下の推挙に対し、もの凄く不遜な理由で断ったものだ、と思うが、それでも許されたのは、フランは四天王にならないにしても、ライドーと同様、陛下の命令に従い、戦場に出ているからなのだろう。
「少しお待ちください。師よ」
「なんだ? アインベルク」
「私の戦果は、私のみの力によってなされたものではありません。死霊との契約も、師のお力添えがあってもの。私はまだ、未熟者でございます」
「……まぁ、そういう部分があるのも確かだな」
人前と言うこともあり、師弟としての格好をはっきりさせて会話をする。
これを聞いたゲゼリング老は俺に言う。
「それはどういうことじゃ? 差し支えなければ教えて欲しいのじゃが」
この言葉を聞いた俺は、師に視線を向けた。
話しても良いか、というアイコンタクトだ。
これに師が頷いたので、俺は言う。
「私の力はまだ、初歩的な死霊術を扱えるようになった程度です。しかし、確かに先ほどダッツ閣下がおっしゃられたように、数体の強力な死霊を手駒として抱えております」
「……初歩、とな? それでは大した死霊は扱えないはずじゃが……はて」
「まさにその通りなのですが……」
その先もいいのかな、と思って師に視線を向けると、ここで師が口を開いた。
「まぁ、そこから先については我が死霊術の秘奥と言っておきましょう。同志とはいえ、全てを話すわけにも参りません。もちろん、ゲゼリング老がその技術の全てを教えてくださるというのであれば私としても吝かではないのですが……」
「ほほっ。そういうことなら、これ以上尋ねるのはやめておこうかのう。しかし……
「……はい」
「どのような方法によったにせよ、お主が立てた戦果は戦果じゃ。自慢せよとは言わぬが、卑下する必要はないぞ……そうじゃな。気が向いたら、いずれわしの城にも足を運ぶといい。その気があるなら、我が奥義も叩き込んでやろう」
「……ありがとうございます。いずれ、必ずお尋ねいたします」
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