第13話 ストリップマインドの刑

 こう見ると人間って何なんだろうと思うことはある。


 目の前には延髄を金属ケースで保護された生首がちょうど十一ある。皆一様にガムテープを口につけてうーうーと唸っていた。ある意味ちょっとしたホラーだ。


「ハッハッハ。おもしろ。なぁカウボーイ達。悔しくないの? 見た目男子高校生ハイスクールボーイのボディに負けて悔しくないの?」


 兵士達が皆一様に悔しそうに体……いや、顔をよじる。ちょっとだけ可哀想だが、そもそも俺達の命を狙ってきたのだ。命があるだけ感謝して頂きたいものだ。


 さてお待ちかね。現役時代も「趣味が悪すぎる」と皆から顔をしかめられた、朝桐マコトによる拷問ショーの開幕だ。


 あ、ちなみに今は戦場にいるわけでもないし、イリナが見ている手前グロテスクな事はしないので安心して欲しい。


 もう既に彼らの体には、十八禁表示もお似合いの凄惨な末路を送ってもらっている。首だけの彼らはもう痛みとかそういうのは無縁に近いが――はてさて、精神の方はどうだろうか。


「えーとじゃあそこの君。君に発言を許す」


 口元のガムテープを剥がす。頭をジャーヘッドでキメた青目のナイスガイは、こちらを睨みつけたままだんまりを決め込んだ。


「この期に及んで男を立てても無意味だ。もう少し整った顔の使い所を学びな坊や」 


 抵抗できないジャーヘッドの首元に無線端子を差し込む。


 武器庫に隠れているイリナへ無線を飛ばす。ボイスチャットの音声を全員に聞こえるように設定した。


「さてイケメン君。君のお名前言えるかな?」


「……」


「所属は?」


「……」


「目的とかはどうだ」


「……」


「はあ。まぁそうなるわな。イリナ、やってくれ」


『イエス、マスター……三、二、一。突破。プライバシー保護プロテクト解除及び解析を完了。二九日前の朝刊の一面記事の内容を忘却しました』


「そのくらいならいいだろう。彼の経歴を読み上げろ」


『イエス、マスター。彼の名はエドワード=フォレスト。年齢は二十五歳。妻子持ち。アラバマ州出身で両親は農家を営んでいます』


 エドワードの顔色が変わった。他の隊員もピタリと止まる。


 それもそうだろう。絶対安全と言われたプライバシー保護プロテクトをあっさりと解除されてしまったのだ。こうなるともう彼らの正体は丸裸だ。


 俺はニヤァと笑い、イリナに指示を飛ばす。


「よしイリナ。彼の恥ずかしいところを話してやれ。なるべくきれいな声で、詩を朗読するようにだ」


『イエス、マスター。ええと……はぁ、これでしょうか。彼はどうやらアニメーション方面への


 エドワードの目が見開いた。


 すぐに同僚へ首を向け、違うんだ、デタラメだと叫ぶ。しかしそれも虚しく、同僚たちの彼を見る目がみるみるうちに変わっていった。何か思い当たることがあるのだろうか。


 欧米人は日本人とは違い、ジェンダーフリーではあるものの性的趣向に関しての恥はことさらウエイトが重い。加えてHENTAIの名で知られるジャパニーズデジタルポルノに趣味をもっていたのであれば尚更だ。


 というかイリナの能力は本当にすごい。


 これではプライバシーなど皆無じゃないか。


 無論、思考の奥底まで入り込むなんてことはできないだろうが……彼女が覗く脳内アプリのメモ帳やタスク表に、ほんの少しでもやましいことが書かれていたのならもう終わりだ。どんな防護壁を組み込もうと彼女は幽霊のようにそれを通り抜けてしまう。


 ……。


 俺も気をつけておこう。


 そんな俺の心配事など露知らず、イリナは淡々と彼の脳内のメモ帳を読んでゆく。


『彼はこの日本で仕事を終えたら休暇申請を取得し、家族旅行と偽ってセミプロの書いた漫画……『ドージンシ』というものを複数購入する計画をたてています。それも高級品の紙媒体でです。脳内ストレージのメモ帳に数多くの店をピックアップしている履歴が――』


 侮蔑も何もない無機質な、それでいて詩を朗読するようなイリナの美声。それを聞き、エドワードは青筋をたてて叫び声を上げた。


『マスター、彼の趣向はどうやら少年のようです。いろんなジャンルを抑えていますが、その中でも力づくで強姦するストーリーの割合が――』


 エドワードは英語で殺してくれ、頼むから殺してくれと泣き叫ぶ。


 だが俺は笑いながらただ見るだけ。周囲の仲間たちはドン引きしつつも、イリナの能力に恐れをなしていた。


「続けろイリナ。ジャパニーズボーイズラブにご熱心なエドワードくんはまだ俺たちに心を開いてくれないようだ。寂しいものだなぁ」


『イエス、マスター』


 エドワードの目が充血し、首を振って抵抗をしている。


 そんな彼へ侮蔑の視線を強める同僚たち。


 この有様はまさに地獄の釜の中のようだが、腹の底から笑える。


 しばらくイリナが朗読すると、あまりの恥ずかしさにエドワードは失神してしまった。


「おやおや、世界最強の兵士とあろうものが情けない。さて次だ。どんどんいこう」


 俺は無線端子を取り出して、隣の兵士の首元に挿す。挿された兵士は怖い話のあとの子供のようにガタガタと震えていた。


「やめてほしかったら、ちゃんと自己紹介をしろ。そして君たちが持つネタを洗いざらい吐け。簡単だろう?」


 挿された兵士が喚き散らそうとするが、ガムテープで塞がれた口からはくぐもった悲鳴が聞こえるだけだ。剥がそうと思ったが、やっぱりやめた。


「あーでもな、しばらくは俺の気が晴れるまで楽しませてもらおう。いたいけな女の子を攫おうとした挙句、人様の家を散々壊しやがって。どうしてくれんだよ。土建屋の竹さん、忙しいから中々予約とれないんだぞ。建物をぞんざいに扱ってると小言バンバン言われるし。そのストレス発散の補填もしてもらうからな」


 持っていた『コンバットプレデター』でゴン、と兵士の頭を叩く。彼はもう涙目になっていた。


「イリナ、彼の恥ずかしいところを読み上げろ。ママが子供に童話を読み聞かせるようにだ。うんと感情を込めてやれ」


『イエス、マスター。



 ◇



 四人目が白目を剥いたところで、残り全員がようやく白旗を上げた。屈強、誠実、愛国心の塊の反動による特殊性癖の数々に、流石の俺もドン引きしていた。


 馬専門のって何だよ。そもそも他にも分野があるの?


 なんでが兵士になっているんだよ。普通に問題になっているだろ。


 マジモンのって本当にいるのか。都市伝説だと思ってた。


 変態達の赤裸々な性癖に、流石のイリナも後半は引いていた。


 少女の「うわ……」とか「なんで……」という純粋な侮蔑が混ざると、大抵の連中はそこで気絶した。次にこの力を使う際には、是非とも優先して燃料にしてもらいたい記憶だった。



 まぁ、それはそれとして。



 どうやらここにいるのは比較的練度の低い新米達ブラボーチームらしい。『重要参考人のイリナを奪還せよ、障害は全て排除しろ』と言われていただけだそうだ。


 相手が街のトラブルバスターと聞いてトレーニング気分だったようだが、相手が悪かったとしか言いようがない。勿論、市街戦や野戦に持ってこられたなら解らなかったが、。蜘蛛の巣の中で果敢にその主を殺せる虫はそうそういないのと同じだ。


 ちなみに自己紹介をしてみたら、皆一様にうなだれていた。ロートルだが、まだまだ名前が使えるらしい。嬉しいやら悲しいやら。


 もちろん、練度の高いチームアルファチームもこの国に潜入しているが、彼らはドクターを追いかけるのに手一杯だというのだ。


 そうだろうな、とは思う。


 俺もドクターと追いかけっこをしろと言われたら、


 


 イーストアメリカ州中央情報局ECIAもそれを十分に理解していて、だからこそのこんなチーム分けなのだろう。


 とりあえず彼ら新米達ブラボーチーム全員の脳核を保護用救急ケースに入れておく。戦場ではよーくお世話になったので、これは売れるだろうと思っていたが一つも売れず倉庫でホコリを被っていたものだが、こんな時に役に立つとは。


 僅かな慈悲で変態四人を隔離して同じケースに入れてあげたが、他の連中は皆一様に疑心暗鬼になっているに違いない。いい気味だった。



 ――それはそれとして。


 厄介なことに、連中は暗殺者ヒットマンの事を全く知らなかった。



 予想通りというかなんというか。実働部隊が信じられなかった上層部は秘密裏に暗殺者ヒットマンを雇ったのだろう。あるいは、ウルフパック本隊アルファチームの方がバックアップの意味で頼んだのかもしれない。


 どちらにしろ、外部エージェントに頼むということはイーストアメリカ州中央情報局ECIAは本当に焦っているのだろう。


 ただ本来なら禁じ手だろうが、この日本という国に対してはその選択肢はベターかもしれない。なぜなら、これ以上この国での増員を出すことが難しいからだ。


 今の日本という国は外圧に対してけっこうであったりする。半世紀以上前に米帝の前身の言いなりになった結果、


 三百年ほどかかってようやく傀儡という立場を理解した我が国は、昨今において形の強気外交をするようになる。


 今回も非正規の作戦群を展開しているということは即ち、彼らはこの国で米帝人だという事をバレるのがとてもマズいからだ。


 己の国の利益のために民間人の家を襲撃し、武力行使をしたということが日本政府の耳に入れば、政府は嬉々として米帝に経済の混乱をチラつかせ、米帝に対して政治的アドバンテージを取ろうと考えるはずだ。


 それどころか、外交カードハートのエースを作るために非正規部隊を白日のもとに晒そうとするはずだ。その上暗殺者ヒットマンも雇ったという事実もあれば、その外交カードは輸出関税を数年フリーにさせるほどの鬼札ジョーカーになる。


 そんなことになればセントラルアメリカ州もウエストアメリカ州も手のひらを返したように日本側について、イーストアメリカ州は完全孤立と相成るわけだ。


 ドクターの逃避行はその辺りも計算していての、あえてのこの『平和な国』を鬼ごっこの遊び場として選んだのだろう。



 以上のことを鑑みると。



 ウルフパックの増援部隊襲撃はおそらく二、三日無い。


 暗殺者ヒットマンも騒ぎを恐れ、しばらくこの区画にすら近づかないはずだ。




 つまり、だ。


 今夜くらいは家にいても安全だろう。



「マスター、これからどうするんですか?」


 家に戻ると、玄関横の武器部屋からイリナがひょっこり顔を出してきた。


「……寝るか」


 急にやってくる倦怠感。大体、今日は殆ど戦っていた気がするし、その上イリナとの出会いが衝撃的すぎた。


 すぐにでもベッドへダイブしたいが、流石に丸腰では何かあった時に不便だ。気合を入れて最低限のトラップの準備をしなければならない。


「イリナ、先に寝ているんだ。シャワーもあるから浴びたければ適当に浴びればいい」


「イエス、マスター。シャワーいただきます」


 といってすぐに服を脱ごうとするイリナ。俺は慌てて彼女をバスルームに押し込むと、ドキドキしつつ外に出た。


 危ない、死ぬところだった。


 チラリと見えたイリナうなじ。この部分は俺の大好きな妹ポイントの一つだ。無防備に見せたあの素肌。かかる髪は金髪なので梓とまではいかないものの、彼女は彼女なりの艶やかなラインを生み出している。


 疲れた体に僅かな気力が湧き上がる。


 ドラム缶を片付けて、散らかった場所を適当にホウキがけしておく。三階以降にワイヤートラップ、そして二階の踊り場にはやむを得ず、これまた倉庫でホコリを被っていた自動迎撃砲台セントリーガンを置いた。


 正直、レトロなトラップを信条とする俺にはあんまり似合わないものだが――これ、実は商品だったものなのだ。


 売れるかな、と思って防犯警報機をカスタムしたものだが、作り終わった段でようやくこの商品が法律に抵触しているものと気付き、泣く泣く倉庫行きになっていた。そろそろ分解しようとしていたものだが、こんな所で役に立つとは。さっきもそうだったが、物は大事にとっておくべきだと痛感する。


 12.7ミリの機関銃が物々しい自動迎撃砲台セントリーガンも、上からダンボールを被せれば単なる箱だ。


 軍用サイボーグにインストールされているトラップ発見アプリで電子走査されればすぐに見つかるが、逆に索敵カウンターとしてその電子走査を感知した時点で階段を破壊するぐらい大暴れするように設定しておいた。


 階段を昇ることさえできなくなれば、それはそれで時間稼ぎになるだろう。そのうえ起動条件これに限定しておけば、一般人が迷い込んだ時も大丈夫なはずだ。


 何個かの余っていたトラップをアクティブにした後、俺はあくびをしながら家に戻る。穴だらけになったリビングに憤りを感じつつ、もう限界なので寝室に入った。


 自慢のキングサイズのベッドの上では、シャワーからあがったイリナが下着のまま寝息を立てて寝ていた。


 普段なら『妹に似ている女が半裸』という時点で心臓発作を起こして卒倒しそうになるのだが、もうそんな冗談を言ってられる余裕もなかった。


 適当に服を放って下着になる。出会って間もない男女二人が下着姿でベッドの上というのもどうかと思うが、他人が見ているわけではないのでどうでもいい。


 イリナはベッドの真ん中を占領しているのでなるべく端っこで横になる。すぐに眠気が襲ってきて、そのまま視界がフェードアウトした。



 ああ、言うのを忘れていた。



 明日はちゃんと言おう。



 おやすみ、イリナおかえり、梓

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