第6話 総務課
開け放たれたカーテンの向こうには、緑に覆われた中庭が広がっていた。それは三方向を白い建物に囲まれていて、地面は芝生に覆われている。中央には一本の木が立っており、その木陰に腰掛けて本を読んでいる者や、近くに置かれたベンチに座っている者、そのまま芝生に寝転がっている者もいた。
まるで学校のようだ、と結衣は思った。
ただ、結衣の通っていた学校とは違う点がある。
それは皆が身につけているものだった。ある者は背中に剣を背負っている。ある者はローブに身を包んでいる。プレートアーマーを大事そうに磨いている者もいるし、一心不乱に剣を振っている者もいる。
「あの、これは……?」
フィーネが微笑みながら答える。
「ここは王立勇者育成専門学校。数ある鏡面世界の中でも、数少ない教育機関なの」
「えええ!? 勇者を育成? っていうか、勇者って育成されるものなんですか!?」
結衣は目を丸くする。フィーネは当然というように答える。
「だって、訓練積まないと、危ないじゃない?」
「ま、まぁ……そりゃそうなんですけど……」
やっぱり、このお姉さんはちょっとずれている気がする。結衣は少し不安になったが、今はそのずれているお姉さんが、唯一の頼りだ。
「さぁ、校内を案内するから」
フィーネは結衣の気も知らない様子で、彼女の手を引き部屋を出た。
部屋を出ると、そこは一本の長い廊下だった。床は清潔に磨かれていて、チリひとつない。廊下の窓からは外の世界が一望でき、結衣たちがいるのは建物の三階くらいだということが分かった。すぐ下には大きなグラウンドが、その向こうには体育館のような建物がある。
学校の外は山や平原が多いが、少し離れたところに巨大な中世風なお城と、それを取り囲むように城下町が広がっていた。
それらは十分広大な広さだったが、それ以外にはあまり手が入れられている様子もなく、森には木々が生え茂り、草原などにも舗装された道路などはなさそうだった。
「おっきなお城でしょう?」
相変わらずのんきに解説しているフィーネ。その横を完全武装した屈強な戦士が通り過ぎ、逆の方からは空中を浮遊している魔術師のような者もいた。
フィーネは学校について、説明を始めた。
「ここはトラッドメル王国という国なの。さっきも言ったけど、数ある鏡面世界の中でも特殊な国で、『勇者』を育成して、他の鏡面世界に派遣するのが、この世界のお仕事なの」
「勇者が派遣だとは思いませんでした」
せめて正社員だったらよかったのに、と勘違いしている結衣。構わず説明を続けるフィーネ。
「そうそう、そういうこと。そして、その王国の直轄教育機関が、ここ『王立勇者育成専門学校』なの」
フィーネは少しだけドヤ顔で締めくくったが、結衣はそんなに感銘は受けていなかった。
それでも結衣は思った。
「そうか、私も一生懸命修行して、いつか……」
結衣は周りの勇者候補たちに感化され、心を踊らせる。
やがてフィーネは、校舎の入り口にあるカウンターに結衣を連れて行く。その隣にはひとつのドアがあった。
「結衣ちゃん、ここが今日から私たちが働く職場です」
そのドアの上には「王立勇者育成学校総務課」というプレートが掲げられていた。
「えっ? そうむ……か?」
結衣は呆けたように呟く。
「そうよ、王立勇者専門学校総務課。これがあなたと私がこれから働く場所」
「えっ? あの……私、勇者……」
「そ・う・む・か!」フィーネがニコリと笑う。
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