#6 よみがえった記憶は

 二件目の依頼はコミヤマの一件からすぐあとに訪れた。

「なあ、スグロ。実はお前に会いたがってる奴がいるんだけど」

 高校一年の一学期――元の時間線で――クラスの男子のなかでポーカーが流行った時期があった。そしてこの世界でもやはりポーカーが流行り、その日、俺はコミヤマと二人の男子生徒、タナカとマナベの四人でトランプを片手に机を囲んでいた。

「ん。誰だ」

 親の俺はカードを皆に配りながら、コミヤマに尋ねた。

「二組の奴なんだけど、ほら、この前のミシマさんのことを話したらさ、ぜひ紹介してくれって」

「ふうん。何枚だ?」

「うーん。三枚」

 コミヤマが手元のカードから三枚捨て、俺はカードの山からコミヤマに三枚手渡す。

「うまくやったよな、コミヤマ。あ、スグロ、俺も三枚ね」

「まったく。ミシマさんってさ、よく見たら結構可愛いじゃん。俺は二枚。サンキュ」

 俺はタナカとマナベにカードを渡す。

「まあ、なんていうの。俺の隠れた魅力っていうかさ。やっぱ、わかる人はわかるんだよな、そういうのってさ」  

 コミヤマは上機嫌で机の上にチップを五枚置く。

「よくいうよ。スグロが全部お膳立てしてくれたくせに」

 といいながら、タナカもチップを五枚机の上に乗せた。

「げ。なんで知ってるんだ」

「皆知ってるって。あれ、出どころはタバタさんだな」

「だな」

 マナベがうなずきながらチップを五枚置く。

「じゃあ、俺は、一枚だ」

 と、最後に親である俺は手札から一枚捨て、カードの山から一枚引く。そして、チップを場に五枚。ゆっくりと手札を机の上に伏せると、さらに五枚のチップを置いた。

「降りた」

「俺も」

 コミヤマとタナカが手札をさらす。二人ともワンペアだ。

「んで、その二組の奴ってのも、スグロに恋愛相談を持ち掛けようとしてるのか」

 マナベがコミヤマに尋ねながらチップを五枚追加する。これで俺とマナベの一対一の勝負となった。

「まあ、そういうこと。どうする、スグロ」

 コミヤマが俺を見る。

 コミヤマの一件で、人間関係を変えることができるということはわかった。これ以上過去の出来事を変える必要があるのかどうか、俺は迷っていた。

「ちょっと考えさせてくれ」

 俺はさらに十枚のチップを場に置いた。

 マナベは一瞬躊躇したが俺に対抗して十枚チップを追加した。

「なあ、スグロはカード何枚変えた?」

 小声でコミヤマがタナカに尋ねている。

「一枚だ」

「ふうん」

 俺は表情を変えず、自分のチップの山をすべて場に置いた。

 おおーっ、とコミヤマとタナカが声を上げる。

「勝負に出たな、スグロ」

「どうすんだよ、マナベ」

 しばらく迷っていたが、結局マナベは「降りた」といって、カードを机の上に置いた。

 コミヤマたちがブーイングを起こす。

「なんだよ、チキンかよ。情けねぇな」

「勝負しろよ、マナベ」

「うるせぇなぁ」

 そういいながらマナベが手札を開くと、ツーペアだった。

 俺は自分の手札を表に向けて机の上に置いた。

「げっ」

「マジかよ」

 コミヤマとタナカが覗き込んだ俺のカードはノーペアだった。

「あー。やっぱハッタリだったか」

 悔しがるマナベをよそに、俺は机からチップを回収しつつコミヤマを横目で見た。

「いいよ。会おう」

「え」

 きょとんとしているコミヤマに俺はいった。

「二組の奴。俺に会いたがってるんだろ」

「あ、ああ――」

 口を開きかけたコミヤマを、俺は遮った。

「名前はいうな。俺も知ってる奴か」

「いや。俺の小学校からの連れで、お前は名前はくらいしか知らないと思う」

 コミヤマと小学校が同じだということは、俺とも同じのはずだ。たぶん同じクラスになったことはないんだろう。 

「わかった。こっちはいつでもいい」

「そっか。スグロ、サンキューな」

 過去の出来事を変えることは、どんなことであれ恐らく無駄にはならないはずだ。とりあえず会うだけでも会ってみよう、そう俺は判断した。

 しかし、生まれ変わってまでマッチングサービスをやる羽目になるとは。これも何かの因果だな。

「それにしても、相変わらず勝負師だな、スグロは」

 親が変わり、タナカがカードを集めながらいった。

「まあな」

「スグロは表情が読めないからなぁ」

 マナベは頭の後ろで手を組むと、椅子に背を預けて天井を見上げた。

「そういうの、あれだろ。なんていうんだっけ、ほら」

 言葉が出てこず困っているコミヤマに、マナベが助け舟を出した。

「ポーカーフェイスか、コミヤマ」

「そう、それそれ」

「それそれって、お前。ポーカーやってんだからすぐ思いつけよ、それくらい」

「お前さ、もうちょっとボキャブラリーなんとかしないと、早々にミシマさんに愛想つかされるぞ」

 タナカも呆れている。

「そ、そんなことねぇよ。なんたってほら、文芸部だし。最近本だって結構読んでるんだぜ。なあ、スグロ――って、あれ、どした?」

 俺は途中から彼らの会話をほとんど聞いていなかった。

 ポーカーフェイス。

 その言葉を聞いた瞬間、俺は固まっていた。

 そうだ。

 前に俺はポーカーフェイスっていう子供に会ったことがある。

 どこだ。

 どこで会った。

 それはとても重要なことだったはずだ。

 俺たちが囲んでいる窓際の席からは校庭が見下ろせる。ふとそちらへ視線を向けた先、校庭の真ん中に小学生くらいの男の子がこちらを見上げて立っていた。

 あいつだ。

 ガタン、と椅子を蹴倒して、俺は思わず立ち上がっていた。 

「スグロ?」

「どうした? 下痢か?」

 三人が俺をぽかんと見上げている。

 次の瞬間、俺は駆け出していた。

「悪い! コミヤマ、チップはやる」

 教室を飛び出すと、俺は一目散に階段を駆け下りて、上履きのまま校庭に転がり出た。

 男の子はちょうど校門から外に出ようとしているところだった。

 ちらりとこちらを振り返ったその横顔を見たとき、俺はすべてを思い出していた。

 踊り場だ。

 そこで俺はあいつに会った。

 ポーカーフェイスと俺が呼んだ少年。

 俺は死んで踊り場へ行き、そして――。

 待ってくれ!

 俺は心の中で叫びながら後を追った。

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