#2 何をいいだすんですか先輩は

「ノリちゃん、何読んでるの」

 スグロ先輩が話しかけてきた。

 私は読んでいた本の扉のページを先輩に見せた。

「『ボクの女に手を出すな』かぁ。懐か――いや、いいね。映画、観た?」

「はい。去年、コボリくんと」

「彼とはうまくいってる?」

「はい、おかげさまで」

「それはなにより」

「先輩は?」

「え。僕、こっちでは誰とも付き合ってないよ」

「こっちでは?」

 先輩はたまにヘンなことを口走る。

「ああ、いや、なんでもない。とにかく僕は誰とも――」

「そうじゃなくて、本。何読んでるんですか」

「あ、そうか。そうだよね」

 先輩は読んでいた本の表紙を私に見せた。

「『マイナス・ゼロ』。面白いですか」

「うん。傑作」

「もしかして、またタイムスリップものですか」

「うん」

 これもまたつい忘れてしまいそうになることだけど、私が今いる部屋はSF研究部の部室で、私はSF研究部に所属していて、つまり本来であれば、私は今SFを研究していなければならないということになる。

 でも、一年生部員の私たち、私とリンコちゃんとイサミちゃんは、まじめに部活動をしたことは一度もない。

 まあ、少なくとも私とイサミちゃんは部室にいるときはなるべく本を読むようにはしている。イサミちゃんは教室でも本を読んでいるくらいの本好きだけど、SFを読んでいるところを見たことはない。リンコちゃんに至っては、本を読んでいるところ自体見たことがない。

 三年生で部長のレイコ先輩もよく本は読んでいるけど、どうもSFじゃないみたい。というわけで、まじめにSF小説を読んでいるのはスグロ先輩だけ。スグロ先輩はなぜかいつもタイムスリップものを読んでいる。

 それにしても、スグロ先輩は何者なんだろう。

 私とコボリくんの一件のあと、スグロ先輩は三件の恋愛相談を受けている。詳しいことは教えてもらってないけど、どれも成功したみたい。いったいどうしてそんなに的確なアドバイスができるのか不思議だ。まるでこれから起こることがわかっているみたいだ。私のときも、まるでタカナシ先輩とユウコ先輩が付き合うことをあらかじめ知っているかのようだった。

 スグロ先輩はもしかして――。

 そのとき、部室のドアが開いて、リンコちゃんが入ってきた。

「ちわーす」

 あれ、イサミちゃんがいない。

「イサミちゃんは?」

「なんか風邪ひいたみたいで、今日はもう帰るって」

「そういえば、鼻声だったね」

「だって寒いもん」

 リンコちゃんはコーヒーを作り始めた。

「どうしたんですか、先輩」

 ふと見ると、スグロ先輩はいつのまにか読んでいた本を閉じて、じっと考え込んでいる。

「ああ、いや。リンコくん、カグヤさんの風邪はひどいの」

「熱もあるみたいでしたから、明日休むかもしれませんよ」

 コーヒーを紙コップに注いで、リンコちゃんはいつもの席についた。

「イサミに何か……」

 スグロ先輩は私たちを交互に見た。

「実はふたりに折り入って話がある」

 なんだろう、改まって。

「今、例の相談をひとつ受けているんだけど、これで最後にしようと思ってる」

 私とリンコちゃんは顔を見合わせた。

「ただし、ちょっと事情があって、今回僕は依頼に集中できなくなる可能性がある。それに、依頼の内容自体が難しくて、正直いって自信がない。だから、依頼解決の協力をふたりに頼みたいんだ。どうかな。興味ある?」

「あります」

 と、私とリンコちゃんは同時に答えた。もしかしたら、スグロ先輩の謎が解けるかもしれない。

「イサミには、このことは?」

 リンコちゃんがたずねた。

「彼女はたぶん断るよ。僕のやっていることにあまり肯定的じゃないから。一応僕から話はしておく」

 確かに、イサミちゃんはスグロ先輩の恋愛相談には否定的だった。

「それと、もうひとつ。ふたりにお願いがあるんだ」

 スグロ先輩は身を乗り出した。

「今から約一ヶ月後の二月十一日、その日は水曜日だけど、建国記念日で学校は休みだ」

 先輩が何をいいたいのかわからなかったけど、とりあえず私とリンコちゃんはうなずいた。

「二月十一日、その日は終日、カグヤさんと行動を共にしたいと思ってる」

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