#4 四人目のメンバーは

 そうこうしているうちに、学園祭の準備はどんどん進んでいった。

 結局、実行委員はちゃんと四人選出しなければならなくなって、私たち三人以外からもうひとり選ばなければならなくなった。この際、女子でもいいということになって、四人目の実行委員はミチルに決まった。眼鏡をかけたおとなしい子だ。

 さっそく私たちはミチルを交えて『シカゴ』で作戦会議を始めた。

「出し物なんだけど、どうするよ?」

「やっぱり、バザーみたいなのにする?」

「なんか、ろくでもないものばっかり出てきそう」

「そうだよね。いまひとつぱっとしないんだよね」

 そんな私たちのやりとりをミチルは黙って聞いていた。

 まあ、仕方がない。そのうち徐々に慣れていってもらうしかないか。

「ねえ、ミチルちゃんって、もしかして絵が得意なんじゃない?」

 おとなしいミチルを気遣って、ノリちゃんが話しかけた。私は気に入った人にしか積極的になれないけれど、こういうところはノリちゃんは大人だ。

「ど、どうして……」

 突然の話題にミチルはあたふたしている。

「いつもノートに絵を描いてるでしょ」

 そうなの? ノリちゃん、よく見てるなぁ。

「ごめんね。見るつもりじゃなかったんだけど、このあいだたまたま目に入ったから。すごくうまいなぁって思ったの」

「う、うまくなんかないよ」

 ミチルは慌てて首を振る。

「美術の時間のスケッチもミチルちゃんすごくうまかったよね」

「へぇ。そうなんだ」

 知らなかった。もちろん、イサミもそんなことはまったく気付いていないみたいで、ポカンとしている。イサミは一見しっかりしているように見えて、実は抜けたところがある。特に、自分に関心のないことには、あまり注意が向かない。私も人のことはいえないけど。

「よかったら、ノート見せてくれないかな」

「でも……」

「お願い」

 出た。ノリちゃんの必殺の笑顔だ。最近特に磨きがかかっている。コボリくんはいったいこれまでに何度この笑顔でお願いされたのやら。

 ミチルが開いたノートを見て、私は思わず声を上げた。

「うまい!」

「ほんとだ」

 イサミも感心している。私はノリちゃんに尋ねた。

「でも、ノリちゃん。ミチルちゃんの絵と学園祭とどういう関係があるの」

「だからね、みんなで漫画同人誌を作るの。それをお店で売る。どうかな?」

「えー。私、漫画なんて描いたことないよ」

 漫画どころか、私の美術の成績は悲惨な状態だ。自慢じゃないけど、絵の才能はまったくない。

「教えてもらうのよ、ミチルちゃんに。イサミちゃん、どう思う?」

「いいかもしれない」

 え。イサミがあっさりと答えたので驚いた。

「イサミ、漫画なんて描いたことあるの」

「ない」

「だよねー。ミチルちゃん、漫画ってそんなに簡単に描けるようになるものなの?」

「うーん。みんなが思っているより、難しくはない、かも」

「どう?」

 ノリちゃんがイサミに笑顔を向けた。イサミがうなずいて、私を見た。

「わかった。やってみますか」

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