オガワスズコ(高1・秋) Girls Just Want To Have Fun
#1 私が抱えているやっかいな問題は
「最初にいっておく」
例によって、スグロ先輩は人差し指を立てて、こういった。
「世の中に全く同じ恋愛は存在しない。世の中に全く同じ人間が存在しないように、同じ恋愛なんてない。
だから、恋愛にセオリーなんて存在しない。ハウツー本なんて嘘っぱちだ。
誰が誰をどんなふうに好きになるか? そんなものは千差万別。本人でさえ自分の気持ちを正確に把握できないんだ。
決して誰も正しい道を指し示すことなんてできない。そんなことできるわけがない」
「なんかそれって、先輩のやってることと矛盾しません?」
「しない。僕が口を挟んでいるのは高校生の他愛のない『レンアイ』ごっこに対してだよ。今、僕がいってるのはそれとは違う。全身全霊を込めて挑む『恋愛』のことだ」
「じゃあ、先輩は本気の恋愛に対してアドバイスはしないということですか」
「そういうわけじゃないよ。もしも相談を受けたら、もちろんアドバイスはする。でもこの場合、僕にいえることはほとんどない。
自分の気持ちを信じること。誰に何といわれようと。それぐらいだ。
自分が本当に好きな人を、好きだといえないことほど不幸なことはない。
他人に理解されないから、自分の『好き』を好きだといえないことは、不幸なことだよ。
これは何も恋愛に限ったことじゃないけどね」
スグロ先輩は腕を組んで私をじっとみつめた。
「さあ。それで君はどうするつもりだい、リンコくん」
話は二週間前にさかのぼる。ホントはもっと前にさかのぼらなきゃならないんだけど、とりあえず、二週間前のことから始める。
九月の第一週目。
一ヵ月後に学園祭を控えて、校内はなんとなく浮き足立った雰囲気が続いていた。そして、我が一年三組も、初めての学園祭に向けた準備に追われていた。
うちのクラスの出し物は、話し合いの結果、喫茶店に落ち着いた。なんて無難な。こんなことなら話し合いなんかしなくたってよかったじゃん。私は気が抜けてしまった。でも、せっかくだからなんか変わったお店にしようよといってみたら、じゃあ、フリーマーケットを併設しよう、ということになった。
まあいいんじゃない?
そう、そこまではよかった。
問題は、実行委員の選出だった。うかつだった。SF研究部がほとんどまじめに活動していないことはみんなに知れ渡っている。うちのクラスは全員がなんらかの部に所属していて、みんなそれなりにちゃんと活動している。
なんでみんなそんなにまじめなの?
と、今さらそんなことをいっても仕方がない。「リンコのいる部ってそんなに忙しくなかったよね」――と誰かがいうと、そうだそうだとあちこちから賛同の声が上がり、気が付けば実行委員長は満場一致で私に決定していた。めんどうくさいことは嫌だけど、ぐずぐずとごねるのはもっと嫌だ。ようござんす、やらせていただきましょう。もちろん、イサミとノリちゃんを巻き込むことは忘れなかった。
こうして実行委員はSF研究部の面々――私とイサミとノリちゃん――が独占することになった。
ノリちゃんは六月から正式にコボリくんと付き合い始めた。コボリくんは卓球部で放課後は必ず部活がある。彼と会う時間が減ってしまうから、ノリちゃんはあまり乗り気じゃなかったけど、友情をおろそかにするほど肝が据わっているわけでもない。女の子の付き合いはやっかいなのだ。
イサミは相変わらずクールに私に付き合ってくれている。まじめな彼女がどうしてちゃらんぽらんな私と一緒にいてくれるのか、よくわからない。そのよくわからなさがまた彼女のいいところなんだけど。それにしても、イサミはちょっとまじめすぎる。昨日のことだってそうだ。
「だめだよそんなの」
その日は、学園祭のクラス実行委員の打ち合わせという名目で私たち三人は『シカゴ』にいた。SF研究部に入部してからも、私たちは相変わらず下校途中にしばしば『シカゴ』に寄り道をしていたから、まあいつものことなんだけど。
「実行委員は四人って決まってるじゃない」
イサミは私にいった。
「別にいいじゃん、この三人で。あとは適当に誰かの名前を借りればいいんじゃないの」
「そうだけど……。それに、本当は男女ふたりずつって」
「イサミは堅苦しく考えすぎだよ。あとで、男子の名前二人分適当に借りとくからさ。それでいいんじゃない」
「でも、みんな一応分担があるんだから、その人たち、兼任になっちゃうよ」
「いいの、いいの。そういう面倒なことは男どもに任せちゃえば。こういうのはね、女の子が楽しそうにしてなきゃだめなのよ。女の子が楽しまなきゃ、うまくいかないものなの」
正直いって、私にとっては学園祭よりも毎日の部活動のほうがよっぽど重要だ。別にSF研究部の活動を積極的にやろうとしているんじゃない。そもそも、この部はまともな活動はしていない。SF研究部というくらいだから、SFを研究する部だと思っていたら大間違い。それらしいことをしているのはスグロ先輩ひとりだけで、私たちはただ単に本を読むだけだ。もちろん私たちにSFを研究しろといわれても困るから、それについては文句はない。
文句は――じゃなくて問題は、レイコ先輩だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。