#12 彼女の気持ちを変えたのは
「今日集まってもらったのは、ほかでもない。今後の君たちのことで大事なお願いがあるからなんだ」
競技場の一件から一週間と少し経った頃、私たち三人はスグロ先輩から呼び出されて、放課後SF研究部の部室に集まった。
あれから、ノリちゃんとコボリくんは一度デートしたらしい。まだ正式に付き合ってはいないけれど、まあ、あとはなるようになるだろう。
「今後の私たちのことって?」
相変わらずぬるいコーヒーをちびちびと飲みながら、リンコがやる気なさそうに先輩に尋ねた。
「とりあえず、これに名前を書いて」
私たちの前に、A4サイズの紙が配られた。
「なんですか、これ」
「見ての通り、入部届けだよ」
「はあ?」
リンコがすっとんきょうな声を上げた。
「あのぉ、つまりSF研究部に入部しろってことですか」
ノリちゃんも戸惑っている。
「ちょっと、冗談でしょ」
「冗談じゃないよ、リンコくん。本気だよ」
私たちは顔を見合わせた。
「文化会に所属する部が存続するには部員が最低五名必要なんだ。現在、部員は二名。このままだと、今年度でうちは廃部になってしまう」
「先輩、もしかして、はじめからそのつもりでノリちゃんの依頼を受けたんですか」
私の質問に、スグロ先輩はとぼけた表情で首をかしげた。
「はじめからって、どこから?」
「ええと、それは……」
リンコがスグロ先輩に尋ねる。
「あの、さっき部員が二名っていいましたよね。先輩以外の部員って、図書委員の……」
そのとき、部室のドアが開いて、以前図書室にいた女の人が入ってきた。
「ごめんね、スグロくん。勧誘はどうだった?」
「ちょうどよかった。レイコさん、新入部員三人確保しましたよ」
レイコさんと呼ばれた図書委員の人は、手を胸の前で打ち鳴らして喜んだ。
「ほんとに? すごいじゃない」
「改めて紹介します。部長のカンバラレイコさん」
スグロ先輩が立ち上がって、レイコさんを紹介した。
「図書委員と二足のわらじだからあんまり顔を出せなかったけど、二学期からはこちらに専念できる予定なの。みなさん、よろしくね」
レイコ先輩はいかにも図書委員という感じの、落ち着いた人だった。彼女は私たちに微笑んで、ぺこりとお辞儀をした。
ふとリンコをみると、いつの間にかペンを取り出して、いそいそと入部届けに自分の名前を記入している。
「え。ちょっと、リンコちゃん。何してるの?」
ノリちゃんが驚いて、リンコの手元を覗き込んだ。
「何って、見ればわかるでしょ」
私とノリちゃんは顔を見合わせた。
ノリちゃんは肩をすくめると、鞄の中から筆箱を取り出した。
こうして私たちは、なし崩し的にSF研究部に入部することになったのだ。
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