#7 一目惚れする瞬間は
「ねえ、どう思う?」
私たちはSF研究部の部室を出たあと、帰り道で意見をいい合った。
「どうって……」
まだなんともいえない。そういうと、リンコもうなずいた。
「そうだね。とりあえず、また話をきいてみるしかないか。ね、ノリちゃん」
「え。うん、そうよね」
何かを考え込んでいるようで、ノリちゃんはどこか上の空だった。
三日後、SF研究部の部室で、私たちは前と同様先輩とテーブルを挟んで座っていた。
「ヒヤマさん、宿題はやってきた?」
「はい」
「それで、想像できたかな」
「なんとなく、ですけど……」
「オッケー。ところで、ヒヤマさんはサカイユウコさんと知り合いなんだよね」
「はい。そうですけど」
「ユウコさんに紹介して欲しい人がいるんだ。お願いしてもいいかな」
「それは、どういう……」
「みんな、ちょっと今から付き合って」
私たちは先輩のあとについて部室を出た。先輩は校舎の外に出て、グラウンドに向かった。放課後のグラウンドでは、体育会系の部活が行われている。スグロ先輩が手を挙げると、サッカー部の男子部員がこちらにやってきた。
いかにもサッカー部といった感じの、爽やかそうな人だ。
「サッカー部副部長のタカナシくん」
タカナシ先輩が手を挙げた。
「やあ、よろしく」
「こちらは、一年のヒヤマさんと、オガワさん、それにカグヤさん。で、ヒヤマさんがサカイユウコさんの知り合いなんだ」
タカナシ先輩は、ノリちゃんの前に出て、頭を下げた。
「ありがとう!」
突然のことに驚いて、ノリちゃんは一歩後ずさった。
「ずっとサカイさんに声かけたかったんだ。でも全然接点がなくて。本当にありがとう! 友達からでかまわないから」
「え、あの……」
「じゃあ、タカナシ、日時はまた追って知らせるよ」
スグロ先輩はタカナシ先輩の肩をぽんぽんと叩いた。
「スグロ、恩に着るよ」
「まだどうなるかわからないよ。だから、礼はうまくいってからにしてくれ」
「うん。でも、とにかくありがとう。じゃあ、俺、部活に戻るわ」
軽く手を振って、タカナシ先輩はサッカー部の練習に戻っていった。
「どういうことなんですか」
私はスグロ先輩を見た。
「ヒヤマさんの紹介で、サカイユウコはタカナシと会って、知り合いになる。そして、サカイユウコは、たぶんタカナシと付き合うことになる」
「どうしてそんなことが……」
スグロ先輩はいたずらっぽく笑うと、人差し指を立てて、口の前に持ってきた。
「企業秘密ですか……」
「まあね。でも、十中八九そうなる。僕にはわかるんだ」
結局、スグロ先輩のいう通りになった。
ノリちゃんは、ユウコ先輩にタカナシ先輩を紹介した。
――あ。この人今、一目惚れした。
タカナシ先輩と初めて会ったユウコ先輩を見て、ノリちゃんはそう思ったそうだ。
数日後、スグロ先輩を通じて、ふたりが付き合うことになったと、私たちは知らされた。
「なんでわかったんですか、ふたりが付き合うことになるって」
リンコがコーヒーサーバーから紙コップにぬるいコーヒーを注ぎながら、先輩にたずねた。放課後、SF研究部の部室に集まるのが私たち三人の日課のようになっていた。最近では、リンコが勝手にコーヒーを入れている。
「だって、お互いに好みのタイプだからだよ。相性もばっちりだ。僕が太鼓判を押す」
「でも、スグロ先輩はユウコ先輩とは面識がないんですよね」
先輩はにやにやと笑うだけで何もいわない。
「それに、これがいったいノリちゃんのこととどういう関係が……」
「そう。実は、ここからが難しいところなんだ。じゃあ、次の指示を与えるから、よく聞いて――」
コボリくんに恋の相談をすること。
それが、スグロ先輩がノリちゃんに与えた指示だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。