第15話
ウサギ頭の男はある二階建の一軒家の前に立っていた。
その片手には携帯電話。
そうだ、ここで間違いない…はずなのだが。
偶然だろうか誰かの家への『仕事』なんて受け取ったことがない。
携帯電話と逆の手に持った斧を弄ぶ。
考えていても仕方がない。
斧を片手に玄関でチャイムを鳴らしてみる。
誰も、出ない。
ウサギ頭で二階部分をじっと伺っている。
カーテンが揺れた。
なるほど、居留守というわけか。
こそっと中庭にもぐりこみ、勝手口を見つけドアノブをゆっくり回す。
ここにも鍵がかかっているか。
いや、自分も勝手口があるなら鍵はかけておくだろうが。
その時だった。
—ドンッ
何かの衝突音がして思わず折部はうさぎのように中庭の草むらへ身をひそめる。
どうやら、二階でなにかしているようだ。
こんなところでもたもたしているわけにもいくまい。
脱兎のように駆け抜けて、目の前にある比較的大きい窓にすっと手をかけてみる。ここも施錠済み。
カーテンもなにもないところで中を見るに、おそらく風呂だろうか。
おそらくもう全部鍵はかけてあるのだろう。
ここしかあるまい。多少手荒ではあるが。
大鉈の柄の部分で窓ガラスを極力音を出さないように少し割る。
そしてそこから手を差し入れ、鍵を開ける。
窓をがらっとあけて入ると、湯を溜めていた風呂桶に足をとられよろめく。
一人用とは思えない少々大きめの風呂のおかげで角で打たずに済んだのが不幸中の幸いだ。
しかしその入水音は思いの外響いたらしく、すぐに1つ足音が近づいてきた。
溜められていた水からようやく身を起こした折部の目の前に一人。
「て、てめえ!」
これは、こいつは、白鐘帯の住民か。
刃物を持って襲いかかってきたその男の腕を捉える。
そしてその腕と顔を捕まえると折部は足元へ叩きつける。
そこはもちろん風呂桶の底。
あがくその男の頭を足でおさえつけそのまま沈めておく。
全身びしょ濡れで、あまりいい気分ではない。
濡れた衣服が身につく感覚はいつだって気持ち悪いものだ。
やがて男が抵抗をやめ死んだことを確認するとそのままリビングのほうへ向かう。
リビングにも、誰もいない。
なら好都合と折部は二階への階段を見つける。
そしてその階段へ足をかけると、死角にひそんでいた男が一人襲い来る。
今度は木の角材らしい。
折部はその縦の一振りをギリギリ避けると、
振り下ろされた資材を踏みつけ床へめりこませる。
そして押さえつけるように踏んだまま男の手首ごと大鉈で切り落とす。
悲痛な叫び声がするより前にその首も断頭台のごとく切り落とした。
ごろごろところがる首と噴き出た血がまた折部を濡らす。
そして二階の、寝室の方向へ足を向ける。
さきほどからやけにこの一室だけどんちゃんとうるさい。
折部は寝室の前で礼儀正しく一礼すると、コンコンとノックする。
ドアが開くとまばゆい室内灯が目に入ってくる。
と同時に出てきた女の喉元から血が噴き出る。
折部が突きつけた斧の刃が彼女の首を貫いて串刺し状態になっている。
黄色だったうさぎの頭に朱色の線が描かれる。
引き抜くとずるりと倒れる女の後ろには怯えた男がいた。
こいつも、『ガキ』ではない。
今回はこの現場には『ガキ』はいないようだが。
男は怯えたのも一瞬、次の瞬間には包丁を手に折部へ襲いかかってきた。
今確実に少しだけ見えている首筋をねらってきた男に対して確信を得る。
逆手持ち。この男は、人殺しに慣れている。そういう手つきだ。
包丁を持った手を片手で受ける。
男がいくら押し進めようとも、折部の片手はそれを許さなかった。
そして折部は逆の手で男を殴り飛ばす。
勢いで後ろに倒れていく、その近くのベッドにダンボールからのぞいた…マスク。
それは折部のウサギの頭と似たぬいぐるみのキリンを模した頭だ。
男を片足で踏みつけて押さえつつ、衝撃で朦朧としている男の頭にマスクをはめる。
そして目一杯上へと振りかぶり、その人間とぬいぐるみの間を切り落とす。
見事に分かれた人間の首から下と、ぬいぐるみの頭。
それを見届けるとウサギの頭の男もその家から去っていく。
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