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 大人になっても……

 新しい家族が出来ても……

 おじさんやおばさんになっても……。


 私達は……

 ずっと……

 親友だよ……。


「なぁ~恵太ぁ〜!何してんねん?はよこっちに来てんか」


 美咲さんが恵太に叫んでる。

 東京で聞くと、関西弁は迫力あるな。


「ほら、呼んでるよ。未来の奥さんが」


「……うわ、今、何て言った!まじかよ~。やっぱ俺、美咲なの?くぅ……なんで美咲やねん」


 恵太がガックリと項垂れた。


 美咲さんはドッスンドッスンと地面を鳴らし、恵太を手招きしている。


 幸福を背負った可愛い招き猫だ。


 ◇


 チャペルに入った私は一番後列の端に座った。恵太と美咲さんは私の前列に座った。


 演奏が流れ、チャペルのドアが開き美子と父親が入場した。父親は緊張した面持ちで、美子とバージンロードを歩いている。


 神父様の前で待っている榊さんに、父親は深々と一礼をした。


 その目には涙が光る。


 美子も……ウエディングベールの下で泣いてる。


 幸せなはずなのに……

 両親との別れに、私も目頭が熱くなった。


 ――『汝……


 健やかなる時も病める時も……』――


 神父様が宣誓文を読み上げる。

 神聖な言葉が、心にスーッと浸透していく。


 ――『永遠に愛することを……


 誓いますか……』――


「はい、誓います」


「はい、誓います」


 二人が顔を見合わせて、微笑んだ。


 指輪の交換をして……


 榊さんが美子のウェディングベールを持ち上げた。


 涙を浮かべて微笑んでいる美子に、榊さんがキスをした。


 すごく……優しくて……


 すごくすごく……神聖なキス。


 美子の頬に、大粒の涙が零れ落ちた。

 宝石みたいに、キラキラ光る涙の雫。


 私の頬にも……涙が零れ落ちた。


 ――美子……


 幸せに……なってね。


 ポトンと、右手の上に涙が零れ落ちた。

 矢吹君から貰ったサファイアのリングは、もう……右手の薬指にはない。


 ――ふと……

 脳裏に過ぎったんだ。


 同じような光景を……

 目にしたことがある。


 純白のウエディングドレスを……

 私……以前着たことがある。


 そんなはずはないのに……

 フラッシュバックのように、ウエディングドレスに身を包んだ自分の姿が、脳裏に浮かぶ。


 私を見つめていたのは……だれ?

 白いタキシードを着ていたのは……だれ?


 瞼をギュッと閉じると、黒いシルエットには獣耳。


 ハッと瞼を開き、首を左右に振る。

 

 きっと……

 あれは夢だ……。


 シャム猫が白いタキシードだなんて。

 アニメじゃないんだから。


 幸せそうに見つめ合う美子と榊さん。


 ――純白のウエディングドレス……。


 私は……誰の為に……


 着るのかな……。


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