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 二階の入院室に行くと、室内は空のケージが増えガランとしていた。


『優香、久しぶりだな!嬉しいよ!一人は寂しくってさ』


「テリー、ごめんね。でもみんなが退院出来るのはいいことなんだよ。テリーだって、あと数日もすれば退院出来る」


『……そうだよね。優香がいない間、次々に退院したから、入院室の雰囲気悪くてさ。あの二匹、ずっと黙ってるし』


 ヨークシャーテリアの視線の先には、シャムとアメリカンショートヘア。


 二匹は狭いケージではなく、フェンスで囲われた広いスペースの中で疼くまっていた。


 胸元が突然光った。眩い光にテリーが『うわぁ!』と叫び声を上げた。自分でも何が起こったのかわからず、胸元に視線を向ける。


 エメラルドグリーンの光を放ったのは、首に付けているネックレスのチェーンに通しているサファイアのリングだった。


 フェンスの中で疼くまっていた二匹が瞬時に顔を上げた。


 その鋭い眼光に、背筋が凍る。


 二匹が立ち上がる。顔は猫のように毛は生えているが、二足で立ち人間の姿をしている。いつも疼くまっていたから、立ち上がった姿を見たのは初めてだった。細身だが筋肉質で、二匹の身長は目の前でグングン伸び百九十センチはあると思われた。


 二匹はサファイアの放つ光を何故か恐れ、フェンスを楽々飛び越え脱出を試みたが、首に付けたリードがサークルに固定されていて、ガチャンと音を鳴らし逃げることは出来なかった。


「暴れないで。何もしないから、お願い」


『どうしてをお前が持っているのだ』


って?サファイアのリングのこと?これは……矢吹君が」


『ヤブキだと!?やはりお前は……ヤブキの……』


 二匹は矢吹君を知っているかのような口振りだった。


「矢吹君のことを知ってるの?話を聞かせて」


『……そのサファイアを首から外せ』


「どうして?これは矢吹君が私にくれたものよ」


『外せというのがわからないのか!』


 アメリカンショートヘアが上着の胸ポケットに手を入れた。


 ――その時……入院室のドアが開いた。


「優香ちゃん、随分騒がしいわね。どうかしたの?」


 藤崎先輩が入室し、サファイアが放っていた光が消えた。


「……藤崎先輩!二匹が話してくれたんです!」


「話?やだ。フーフー威嚇してるだけでしょう。この一週間大人しくしていたのに、どうしたのかな?あらやだ。暴れてフェンスから飛び出したのね」

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