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「軍隊のだいげんすい?なんやそれ?迷彩服を着ていたから、戦闘マニアだったのかな」
矢吹君の表情が変わった。
「犯人はまだ捕まってないんだよな。中原、獣のマスクを着用していたのは、一人だけか?他に仲間はいなかったか?ゴリラじゃなくて、豹やライオンとかさ。もしかしたら大元帥は猫に姿を変えてるかもしれない」
「猫?お前、まだ猫パンチに拘っているのか。しつこいぞ。猫のマスクとかテーマパークかよ。あり得ねぇから」
「……そっか、もしかしたら、また大阪に現れるかもしれない。十分気をつけてくれ」
「矢吹君はほんまに優しいんやね。犯人を逮捕するんが、うちらの仕事や。これ以上、被害者を増やすわけにはいかへん。恵太の仇はうちが打つ。必ず捕まえたるからな」
彼女がドンッと胸を叩く。
本当に頼もしい。
矢吹君は刑事が事情聴取するように、恵太を襲った犯人のことを聞いていたが、「これ以上、部外者には話せない」と、恵太は口を閉ざした。その眼差しは、以前のヘタレな恵太ではなく、警察官の眼差しだった。
美咲さんのリクエストで、恵太が学生の頃の話をした。幼稚園、小学生、中学生、高校生、大学生……。話をしながら、私達はこんなに長く同じ時を過ごしていたのだと、改めて感じた。
「恵太、そろそろ帰るね」
「そうか。もう東京に帰るのか。矢吹、優香の事を頼んだぞ」
恵太が矢吹君に、もう一度念を押した。
矢吹君は笑いながら、恵太に視線を向けた。
「わかってる。全力で守るよ」
「え〜なぁ〜。優香ちゃんは、え〜なぁ〜。恵太もうちの事、矢吹君みたいに、全力で守ってくれるん?」
「……美咲の方が、俺より力あるやろ」
「アホ、女は好きな人に守られてなんぼや」
恵太が苦笑いしながら、美咲さんを見つめた。その眼差しは、私に向けられた眼差しとは異なる。信頼しきっている眼差しだ。
人を好きになるって……いいな。
素直にそう思えた。
「恵太、またね。美咲さん、恵太のことを宜しくお願いします。恵太は泣き虫で、弱虫で、すっごく気が小さいとこもあるけど、誰よりも思いやりがあって、優しい人から……」
「優香、泣き虫で弱虫は余計だろ」
恵太の瞳が潤んでいる。
ほら、もう泣いてる。
やだな。永遠の別れでもないのに、目頭が熱くなる。
「優香ちゃん、恵太のことは、うちに任せてや。絶対に、幸せにするし」
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