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 ドスンドスンと足音が近付く。


 美咲は周囲に大勢の人がいたにも拘わらず、形振り構わず俺に縋りつき傷口を手で押さえた。


「いてて……」


 俺の傷口を広げる気か……。


 美咲の制服が、俺の血で赤く染まる。

 婦人警官の制服を着たまま、何やってんだよ。


 また警察署長に、厳重注意だぞ。


「恵太大丈夫なん?恵太大丈夫なん?恵太、恵太、しっかりしーや!恵太死んだら許さへんからな」


 何度も何度も俺の名前を連呼しながら、美咲はオイオイ泣いている。


 まるでバナナの叩き売りだな。


 美咲はこんな状況でも、俺を笑わせてくれる。だんだん痛みが薄れてきた……。


「だ……いじょうぶや……」


「恵太……死んだらあかんで……」


「生……きてるて……」


 その直後、俺は意識を手放した。


 ――美咲……


 薄らぐ意識の中で……


 俺……わかったんだ。


 俺が……好きなのは……


 美咲なんだ……ってこと……。


 このまま死にたくねぇよ……。


 美咲……。


 ◇


 その後、俺は病院で緊急手術を受けたらしい。


 出血多量でかなりの輸血を必要としたらしいが、幸い、美咲や小川巡査、山田巡査と同じ血液型だったため、直ぐに血液の提供を受けることが出来た。


 サバイバルナイフの刺し傷も、運よく内臓への損傷は免れていた。


 麻酔が覚め朦朧とした意識の中で、重い瞼を開けたら、美咲が泣きながら俺の手を掴んでいた。でっかくでぷよぷよしていて、柔らかな手だ。


「恵太のあほ、心配で……ご飯も喉を通らんかったんやで」


 美咲は、しゃくり上げて泣いている。

 それは、ご飯が喉を通らなかったから、泣いているのか。


 俺は右手を伸ばし、美咲の頭を撫でる。


「心配させてごめんな。俺……美咲の事が……好きやねん。傍にいてくれて、ありがとう」


 ――優香……


 ごめんな……。


 俺は……美咲が……好きだ。


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