67

「きゃああ――!」


 周辺から悲鳴が聞こえ我に返る。

 足元には血溜まりができ、赤い血が車道へと流れた。


 慌てて傷口をハンカチで押さえたが、白いハンカチは直ぐに真っ赤に染まった。


 ――誰か……

 助けて…………。


 声を発したくても、声にならない。

 ザワザワと周囲に人が集まり始めた。


「大丈夫ですか?誰か……救急車を!」


 痛みで……意識が……薄らいでいく……。


 薄らぐ意識の中で……


 俺の頭に浮かんだ顔は……


 優香ではなく……


 美咲の顔だった……。


 ――美咲……


 すんげぇ痛てぇよ……。


 我慢できねぇよ……。


 巡回中だった小川巡査が、交番に戻って来た。自転車を投げ捨て俺に駆け寄る。


「中原!どうした!何があったんだ!中原―!」


「お……がわじゅんさ……」


 小川巡査は直ぐに山田巡査に連絡を取る。スーツ姿の男が『犯人が逃走した』と証言し、小川巡査は警察署に応援を頼んだ。


 大丈夫だ……。


 痛みがわかるから……


 俺は……まだ生きてる。


 でも、血が……止まらないよ。


 交番に山田巡査が戻ったのとほぼ同時に、警察署から警察官が駆けつけた。


 救急車も到着し、タンカに乗せられ運ばれる。偶然居合わせた報道関係者が俺を撮影している。


「恵太ぁ―!恵太―!死んだらあかんで――!」


 遠くで、美咲……の声がした……。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る