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 入院中のミニチュアダックスは、診察の結果、退院が決まった。


「チョコよかったね」


 私はチョコの頭を撫でる。チョコはちぎれんばかりに尻尾を振り、私の唇を舐めまくる。


「きゃあ―……ちょ、ちょと待って」


 毛むくじゃらで獣耳と尻尾はあるから人外ではあるけれど、顔はアイドルみたいに可愛い。そんなチョコに熱烈なキスをされ、思わず腰が引ける。


『んっあ……優香、めっちゃ好き。また来るから、その時は俺とデートして』


「くすっ、ここは病院だよ。もう来なくていいのよ」


『だってさ、ここに来ないと優香に逢えねぇじゃん。いちごのパンツ、なかなか刺激的だったし。今、俺達キスしたしな。もう恋人だよ』


「はっ?キス?あれは挨拶のキスだよ。元気が一番だから、ワクチン注射以外ここには来ないと約束してね」


『つまんねぇの。俺、毎週ワクチン打ちまくろうかな?』


「……もう、何言ってるの」


 チョコが可笑しくて、口元が緩む。

 かめなしさんに毎日迫られているから、これくらいでは驚かないけれど、動物に好かれるのも困りものだ。


 インターホンが鳴り、婦長から飼い主が迎えに来たとの連絡が入る。


「飼い主さんがお迎えに来たよ」


『うわっ!真美ちゃんだ!逢いたかったよ!真美ちゃーん!』


 小さな女の子とその母親が、チョコを迎えに来た。


 チョコは女の子に飛び付き、ペロペロと顔を舐めまくる。その光景は異様ではあるけれど、ミニチュアダックスにしか見えない女の子は「キャッキャッ」と歓声を上げている。


「やっぱり、家族に逢うと嬉しいんだね」


 元気になったペットと、飼い主のこんな光景を見るのが、私は何よりも嬉しい。


 病気や怪我によっては、哀しい再会になる場合もあるから……。


 チョコは家族に抱きかかえられて、無事退院した。チョコが退院し、急に静かになった入院室。みんな寂しいんだよね。


 入院中の動物が寂しがらないように、私は笑顔で話し掛ける。


 ふと……

 背中に視線を感じ振り向くと、そこにはシャムとアメリカンショートヘアのゲージがあった。

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