57
ふわっと矢吹君の両腕に包まれた。
それだけで、キュン死しそうだった。
矢吹君は座っていた私を抱き上げた。
驚いた私は閉じていた瞼を開く。
「やっと、俺を見てくれた」
唇が触れてしまいそうな至近距離に、矢吹君の優しい顔があった。
恥ずかしくて、矢吹君の首にギューッとしがみついた。
「首を絞めたら、く、苦しいよ」
矢吹君が苦痛に顔を歪め呻いた。
「……ご、ごめんなさい」
「ククッ、冗談だよ。ガチガチに緊張してるからちょっとふざけてみただけ。本当はギュッとされたら嬉しいよ」
矢吹君は私の額にチュッとキスをした。
「……矢吹君の意地悪」
本当に苦しんでると思ったんだからね。
でも……矢吹君の冗談で、体の力が抜けたんだ。
ゆっくりベッドの上に下ろされて、矢吹君は私に優しいキスを落とした。
その大人なキスに……
一年前のあの日のキスが蘇る。
矢吹君は……
どうしてこんなに落ち着いてるの?
私はまだ……
心の準備が整っていないのに。
もしかして……
また……別れるつもりなのかな。
だからこんなに……
優しいの?
どうしよう……
涙が溢れてきた。
別れるつもりなら……
抱かないでよ。
「泣かないで。抱けなくなっちゃうだろう」
矢吹君は笑いながら、私の涙を指で拭った。
「だって……矢吹君がまたいなくなっちゃうんじゃないかって、また消えちゃうんじゃないかって……ふえっ」
私……なに言ってるんだろう。
自分でも恥ずかしくなるくらい、言ってることがグダグダだよ。
大人になった私を見て欲しいのに。
子供みたいに、泣いてばかりでみっともない。
矢吹君は私の頭を優しく撫で、微笑みかける。
そして……私の唇を優しく塞いだ。
「逢いたかったよ。ずっと、優香を抱きたかった」
耳元で囁かれた甘い言葉は、未経験の私には刺激的過ぎて。呼び方が『上原』から『優香』に変わったことで、トクントクンと鼓動は速まる。
矢吹君のキスは首筋に移動し、チクンと痛みが走る。私の洋服も慣れた手つきで、脱がしていくんだ。
矢吹君の腕の中……
初体験の不安も緊張も、次第に解けていく。
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