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 ベッドルームのドアを開ける。


 うわっ、広いっ!?

 ダークブラウンのフローリング。広さは十五畳はある。


 やはり黒と白でコーディネートされていて、白いクロスに黒の遮光カーテン。


 黒のベッドカバーが掛かったダブルベッドに、白いクッションと枕。


 インテリアは輸入家具やアンティーク調の白いペガサスの置物。


 矢吹君はやっぱり俳優なんだ。

 私の部屋とは全然違う。

 大人だし、お洒落だし、セレブだし。


 昂ぶっていた気持ちが、現実へと引き戻される。寝室に置かれた白いソファーに座り、テレビをつけた。


 矢吹君はテレビの中の人なんだよ。

 だから、深入りしない方がいいのかな。


 暫くして、ベッドルームに矢吹君が入ってきた。矢吹君は黒のバスローブ。少し濡れた髪が妙に色っぽくて、目のやり場に困る。


「テレビ見てるの?見たい番組あった?」


「別に……」


 別に見たかったわけじゃない。

 どうしたらいいのか、わからなかったから。


「洋楽は好き?」


「うん……」


「好きなミュージシャンがいるんだ。かけてもいい?この音楽を聴くと国を思い出す。穏やかな気持ちになれるんだ」


 国……?

 海外の国かな?


 矢吹君にとって外国が母国で、日本は外国なのかな。


 矢吹君はテレビを切り、部屋の照明を落とし海外のミュージシャンのCDをかけた。歌詞の意味はわからないけど、静かなメロディーが室内に流れる。


 薬指のサファイアが輝きを放つ。まるで夜の湖のような深みのあるブルー。矢吹君の薬指のリングも星みたいにキラキラと煌めいている。


 一瞬、ペガサスの置物が翼が動いた気がした。


 ダメだ……。

 幻覚まで見え始めてる。


 どーしよう……。

 ドキドキしてきた。


 矢吹君が私の隣に座る。

 ズンッと沈んだマット。


 思わず瞼をギュッと閉じた。








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