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 ギダ殿下とアリシアを助けるために、約束してしまったエルフの王女との婚約。


 ナギは耳元で「僕が何とかするから、とりあえず今日は逢って欲しい」と、囁いた。


 エルフ王と魔術師パギが共にマントを広げた。俺とナギはそのマントに包まれる。


 黒とコバルトブルーに包まれた闇の世界。


 ――ほんの数秒の出来事だった。


 エルフ王と魔術師パギがマントを広げると、そこはエルフの湖畔だった。


 美しい空の色、コバルトブルーの湖。

 緑豊かな森と、色とりどりの花々。

 花の蜜を求め蝶や蜜蜂が飛び交い、鳥が囀る。


 まるで絵画の中に吸い込まれたようだ。


 エルフの住む湖畔には、人族が足を踏み入れることはなかった。


 だが、五十年前エルフの湖畔に一人の美女が迷い込む。ルギという名の人族だった。


 エルフと恋をしたルギはやがて女の赤ちゃんを生んだ。その赤ちゃんこそが、エルフ王妃マギであり、ナギの母親だ。


 ルギはマギをエルフ王に嫁がせ、この美しい湖畔を人族の楽園にしようと考えた。


 エルフ王は怒り、ルギをエルフの湖畔から追放した。森に迷い込んだルギは獣族に殺されてしまったとされているが、その遺体は発見されなかった。


「……美しい。ルギが人族の楽園にしたいと思ったのも無理はない」


「シーッ、タカそんなことを言ってはダメだよ。お祖母様のように追放されてしまう」


「この湖畔をエルフから奪うつもりはないから安心して」


 エルフ王の城は丸太造り、城内に入ると木の爽やかな香りが鼻を擽る。木を生かした造りになっていて自然そのものだった。


 木の幹から一人の女性が姿を現す。

 水色の髪色をした、美しい女性。


「お父様お帰りなさい」


「……優香?」


 ナギも優香そっくりだが、その女性も髪色を除けば優香と見間違うほどだった。


「お父様お帰りなさい」


 さっきまで木の幹にいた女性が、俺の背後に立っている。


「お父様お帰りなさい」


 二階から降りて来た女性も、優香と同じ容姿をしている。


 な、なんなんだ?

 瞬間移動しているのか?


 エルフは魔術が使える。

 瞬間移動しても不思議はない。


 そのあとも、同じ言葉が六回繰り返された。


「……ナギ、俺の目がおかしいのか。優香が九人いる」









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