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 水飛沫とともに現れたのはコバルトブルーのマントに身を包んだエルフ王と、黒いマントに身を包んだ白髪の魔術師の姿だった。


 エルフ王は巨体を揺らしながら、ナギに視線を向ける。ナギとは似ても似つかぬ大きな鼻と尖った長い耳。どうやらナギは、人間の血を引くエルフ王妃に似たようだ。


 千年以上も生き続ける魔術師パギの顔には深い皺が刻まれ、魔術師というよりも童話に登場する魔女のようだった。


 ナギを昏睡状態に貶め、ナイトを猫に変えてしまった憎き魔術師。


「ナギ王子、魔術が解けたようじゃな。これはこれは国王陛下、タカ王子も御息災でなによりじゃ」


 魔術師は不気味な笑みを浮かべた。


「我らをこのような場所に呼び寄せるとは、何ごとじゃ。おや、このような場所にしかばねが二つ」


 魔術師はギダ殿下とアリシアに視線を落とす。


「これはこれは美しい屍じゃ。まるで眠っているようじゃなぁ」


「パギに頼みがある。二人はまだ体温がある。パギの力で生き返らせてくれませんか。そうすれば、僕に魔術をかけたことを許してやる」


 ナギは凛とした態度で、パギに命じた。


「ふっふっふっ、このわしにそのような生意気な口がようも聞けたものじゃ。エルフ王の王子は女のような顔をしておるが、なかなかしっかりしておるのぅ」


「……っ、お、女のような顔とは、余計なお世話だ!僕の顔はお母様に似ているが、れっきとした男なんだからな!」


 魔術師は含み笑いを浮かべながら、ギダ殿下とアリシアに視線を向けた。


「魂はまだここにある。肉体に戻りたいとわしに懇願しておる。さて、エルフ王よ。どうすればよいかのぅ。彷徨える魂をあの世に送るもよし、この屍に戻すもよし」


 エルフ王が俺に視線を向け、太い指で俺の顎を持ち上げた。


「そなたがタカ王子か。よい青年だ。ギダ殿下とアリシアを生き返らせて欲しいのなら、ひとつだけ条件がある」


「……条件?」


「わしには九人の王女がいるが、みな結婚はしておらぬ。ギダ殿下は生前、タカ王子とエルフの王女を結婚させたいと申していた。

 ギダ殿下とアリシアを生き返らせたいのなら、我が姫、第一王女と婚約するのだ」


「……第一王女と!?」


「お父様、アギお姉様とタカ王子を政略結婚させるおつもりですか!?タカ王子には心に誓った人が……」


 ナギはエルフ王に詰め寄った。

 

 


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