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「そうなんだ。お友達も一緒なの?」
「……いや、一人だよ」
「一人なんだ。矢吹君、元気そうだね。優香が首を長ーくして待ってたんだからね」
美子が私を見て笑った。
首を長ーくしていたなんて、キリンじゃないんだから。
私は緊張しすぎてガチガチに固まっている。冷凍庫の氷よりもガチガチだ。
「あっ、そーだ。私、急用思い出しちゃった。ごめんね、優香、もう行かなきゃ」
「えっ、えー……っ!?」
美子、ミエミエの嘘はやめてよ。
やだ、置いて行かないでよ。
二人きりになったら、もっとテンパッて泡吹いて、ひっくり返るかも。
「じゃあね、矢吹君。優香のこと宜しくね。渋谷のカラオケ『pK』って店、二時に予約してるから、二人で使っていいよ」
「ありがとう」
美子はニヤニヤ笑いながら、ゲームセンターを出る。美子があんなに意地悪だとは思わなかった。
「上原?大丈夫?」
矢吹君が私の顔を覗き込む。
そんなに至近距離で見つめないで。
もう気絶しそうだよ。
「だ、だ、大丈夫だよ……」
矢吹君の顔が急接近しただけで、カーッと前身が火照る。まるで火が点いたみたいだ。
「上原は変わらないね。田中さんは凄く大人っぽくなってて気付かなかったよ。上原は、あの時のままだね」
「……私は成長してないって、言いたいの?」
「逆だよ。嬉しかったんだ。一年前の上原、凄く可愛かったから。全然変わってなくて、嬉しかった」
「嘘だ。矢吹君笑ってるし。私のことまだ子供だと思ってるんでしょう」
向きになる私。笑ってる矢吹君。
ちょっと悔しい。
「予約してあるなら、カラオケ行こうよ。カラオケなら二人きりになれるし、ゆっくり話も出来る」
「ふ、二人……きり?」
「うん。二人きり」
――矢吹君と別れたあの日……。
矢吹君と交わした熱いキスを思い出し、私の笑顔は引き攣っている。
――
矢吹君は一人だと言った……。
凪は海外に残ったのかな。
日本には戻らなかったのかな。
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