27

「そうなんだ。お友達も一緒なの?」


「……いや、一人だよ」


「一人なんだ。矢吹君、元気そうだね。優香が首を長ーくして待ってたんだからね」


 美子が私を見て笑った。

 首を長ーくしていたなんて、キリンじゃないんだから。


 私は緊張しすぎてガチガチに固まっている。冷凍庫の氷よりもガチガチだ。


「あっ、そーだ。私、急用思い出しちゃった。ごめんね、優香、もう行かなきゃ」


「えっ、えー……っ!?」


 美子、ミエミエの嘘はやめてよ。


 やだ、置いて行かないでよ。


 二人きりになったら、もっとテンパッて泡吹いて、ひっくり返るかも。


「じゃあね、矢吹君。優香のこと宜しくね。渋谷のカラオケ『pK』って店、二時に予約してるから、二人で使っていいよ」


「ありがとう」


 美子はニヤニヤ笑いながら、ゲームセンターを出る。美子があんなに意地悪だとは思わなかった。


「上原?大丈夫?」


 矢吹君が私の顔を覗き込む。

 そんなに至近距離で見つめないで。

 もう気絶しそうだよ。


「だ、だ、大丈夫だよ……」


 矢吹君の顔が急接近しただけで、カーッと前身が火照る。まるで火が点いたみたいだ。


「上原は変わらないね。田中さんは凄く大人っぽくなってて気付かなかったよ。上原は、あの時のままだね」


「……私は成長してないって、言いたいの?」


「逆だよ。嬉しかったんだ。一年前の上原、凄く可愛かったから。全然変わってなくて、嬉しかった」


「嘘だ。矢吹君笑ってるし。私のことまだ子供だと思ってるんでしょう」


 向きになる私。笑ってる矢吹君。

 ちょっと悔しい。


「予約してあるなら、カラオケ行こうよ。カラオケなら二人きりになれるし、ゆっくり話も出来る」


「ふ、二人……きり?」


「うん。二人きり」


 ――矢吹君と別れたあの日……。


 矢吹君と交わした熱いキスを思い出し、私の笑顔は引き攣っている。


 ――なぎはどうしたのだろう。

 矢吹君は一人だと言った……。


 凪は海外に残ったのかな。

 日本には戻らなかったのかな。


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