16

 北川動物病院を出ると、すでに陽は落ち外は薄暗い。街灯の明かりだけが、朧気に歩道を照らす。


 バスに乗り込むと、早く帰宅したくて気持ちはソワソワしている。


 かめなしさん、一年前と同じなのかな?

 猫は人間よりも歳を取るのが早い。三歳だから、人間に例えたら二十八歳くらい。

 立派な青年だ。


 そう考えただけで、可笑しいよね。

 かめなしさんが一年で私よりも年上になったなんて……。


 バスを降り自宅まで歩く。玄関のドアを開けたら、かめなしさんがいつものように玄関フロアに座って私を出迎えた。


『おかえり、優香』


「ただいま、か、め、な、し、さ、ん」


 やっぱり……

 かめなしさんだ。


 ブラウンの髪、キリッとした涼しい目元。瞳もブラウン。鼻筋はスッと通り、唇は薄くイケメンだ。高身長のスレンダーな体にフィットした白いスーツがよく似合っている。そして首には、猫のかめなしさんと同じ青い首輪をつけている。


 外見はちっとも変わってない。

 年上とは思えない。

 かめなしさんは他の猫みたいに一気に歳を取らなかったのかな?


 思わずニヤケる。

 人の姿をしたかめなしさんに逢えて嬉しかったから。正確にいうと人ではなく、猫耳男子だけどね。


『な、なんだよ?薄気味悪いなあ』


「薄気味悪いとは失礼ね」


『だって本当だろう。ニヤニヤして気持ち悪い……。えっ……!?今、俺の言葉に反応したのか?ま、また聞こえてんの!?嘘だろっ!?』


「うふふ、全部聞こえてるよ」


『どうして?階段から落ちてないよな?』


「それが、落ちたんだよねぇ。動物病院の階段から」


『嘘っ!?それで、また聞こえんの?俺のこと、見えてるのか?』


「うん。かめなしさん、一年前と変わらないね」


『ええー!?俺、超嬉しいかもっ!』


「私も嬉しいよ。でも、困ったことに全部聞こえるんだよ」


『全部って?なにが?』

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