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北川動物病院を出ると、すでに陽は落ち外は薄暗い。街灯の明かりだけが、朧気に歩道を照らす。
バスに乗り込むと、早く帰宅したくて気持ちはソワソワしている。
かめなしさん、一年前と同じなのかな?
猫は人間よりも歳を取るのが早い。三歳だから、人間に例えたら二十八歳くらい。
立派な青年だ。
そう考えただけで、可笑しいよね。
かめなしさんが一年で私よりも年上になったなんて……。
バスを降り自宅まで歩く。玄関のドアを開けたら、かめなしさんがいつものように玄関フロアに座って私を出迎えた。
『おかえり、優香』
「ただいま、か、め、な、し、さ、ん」
やっぱり……
かめなしさんだ。
ブラウンの髪、キリッとした涼しい目元。瞳もブラウン。鼻筋はスッと通り、唇は薄くイケメンだ。高身長のスレンダーな体にフィットした白いスーツがよく似合っている。そして首には、猫のかめなしさんと同じ青い首輪をつけている。
外見はちっとも変わってない。
年上とは思えない。
かめなしさんは他の猫みたいに一気に歳を取らなかったのかな?
思わずニヤケる。
人の姿をしたかめなしさんに逢えて嬉しかったから。正確にいうと人ではなく、猫耳男子だけどね。
『な、なんだよ?薄気味悪いなあ』
「薄気味悪いとは失礼ね」
『だって本当だろう。ニヤニヤして気持ち悪い……。えっ……!?今、俺の言葉に反応したのか?ま、また聞こえてんの!?嘘だろっ!?』
「うふふ、全部聞こえてるよ」
『どうして?階段から落ちてないよな?』
「それが、落ちたんだよねぇ。動物病院の階段から」
『嘘っ!?それで、また聞こえんの?俺のこと、見えてるのか?』
「うん。かめなしさん、一年前と変わらないね」
『ええー!?俺、超嬉しいかもっ!』
「私も嬉しいよ。でも、困ったことに全部聞こえるんだよ」
『全部って?なにが?』
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