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Subject Re10: 無題
本当にひどいわね。それは怒るわよ。
でもちゃんと謝ったのでしょ。
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中崎は舞子の勤める病院の検査室のリーダーだった。
大学病院からの転職で、舞子より勤務年数は少ないが年齢は一回り上だった。妻と二人の娘がいるという話だったが、プライベートなことはほとんど口にしない。
もっともそれは舞子をはじめとする他のメンバーも同じで、仕事中の雑談や勤務外の付き合いもあまりない職場だった。
中崎は穏やかで思慮深い性格で、多忙な検査室の仕事を、メンバーに適切に割り振りながら、手際よく業務を進めていた。
舞子はこの有能な上司を信頼していたが、ふとしたことで異性として惹かれるようになった。
妻子のある男性が相手なので、好意以上の思いにならぬよう、自分の心にブレーキをかけていた。彼の声や笑顔を楽しみ、また仕事で信頼されることを励みにして、日々の暮らしの憩いにしていた。
舞子は数年前に、学生時代からの恋人に裏切られる形での別れを経験し、それ以来恋愛を避けていた。中崎への思慕は自分の中に「ときめき」という感情がまだ残っていたのだと、軽い驚きを伴う喜びを感じさせるものだった。
ある日の昼休み、舞子は午前の検査が計画通りに終わらず、ひとり検査室で作業を続けていた。ようやく終わって医師に送られるデータをパソコンに入力していた時、画面を閉じる前に、ふと小さな誘惑にかられた。中崎が打ち込んだ別の試験シートを覗きたくなったのだ。ただ試験結果が数値で表示されているだけで、そこにはなんの感情も入り込むことはない。それを見たからといって、中崎の何がわかるわけでもなかった。ただ見てみたかったのだ。
そこで舞子は違和感を覚えた。この結果はおかしい。たまたま舞子の前に中崎が同じ装置を使用していて、リセット前の数値を覚えていたので気が付いたのだ。
医師は検査室のデータを信頼して患者への投薬や治療方針を決める。小さなミスが医療事故に繋がりかねない。舞子は装置の問題のファイルを開くと、目的のシートを探した。
―――――やっぱり違う。
明らかなミスだった。
舞子は正しい数値を入力すると、上書き保存した。
中崎に確認するべきかどうか、舞子は迷った。間違いなぜ気が付いたのか、上手い言い訳が思いつかなかった。結局本人にも誰にも言わないまま日が流れた。
検査の検体はID番号で示されていて、自分たちが患者の情報を知ることはない。だが、その間違いのあった患者のIDを舞子は無意識に記憶していた。中崎の試験でミスがあったということが、潜在意識に働きかけていたに違いなかった。そして舞子はそのIDを再び目にすることになった。中崎が試験シートを医師への送信ファイルに入力している最中に後ろを通り過ぎようとした時、ふと目を動かすと中崎が違う数字を入力していた。
舞子は驚き、とっさにつまずいたふりをした。謝りながら、中崎の横に手をつき、いかにも偶然というようにPCの画面を覗いて「主任、ここ間違っていますよ」と小さな声で囁いた。中崎は一瞬顔をひきつらせた後「本当だ、ありがとう。助かったよ。さすがだね」とほほ笑んだ。シートの右上に目を動かすと、この間と同じID、つまり同じ患者だった。舞子は軽く礼をして中崎のもとを離れたが、動悸が治まらなかった。
―――どういうこと? 偶然ミスが重なったの?
舞子は心のすみに居着いた疑惑を消し去ることができなかった。
次の日の昼休み、検査室に誰もいなくなってから、舞子はその患者の試験結果をすべて確認した。ミスは昨日とその前の2回だけで、他は正しい値が入力されていた。ほっと溜息をついた。
やっぱりただの偶然だったんだわ。
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Subject Re11: 無題
ユカさん
やっぱり酷かったんだよね。
女の人にそう言われると、改めて実感というか、思い知る感じだ。
もちろん謝ったよ。懸命に。でも会ってくれないし、メールの返事もない。
そしてある日メールが送信不能で戻ってきた。つまり彼女がアドレス変えたんだね。
もちろん全面的に俺が悪いんだけど、ちょっと厳しすぎると思わないか?
結局俺のことをそれほど好きじゃなかったと思うようになった。
相手の誤りを許して歩み寄るってことが全くできないのは、もともとたいした愛情がなかったんだよなって。
今思うと、思い込むことで振り切ろうとしたんだけど、
それでも思い切れないって、かなり女々しいというか、情けないよね。
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