142 第二魔王アイトからの接触

 こいつは第二魔王アイトの配下と言った。直接、魔王が接触してくるのは初めてだな。



「失礼だが、何を言ってるかが理解できないんだが」


「これは第十三魔王のストラタジストのお言葉とは思えないのですね」



 情報収集済みのようだな。どこから漏れた?



「何か考え違いをしておられるようだ。私は一介のサージェント程度ですよ」


「ご謙遜を……。サージェント如きが軍の上に立ち、ダークナイトやリッチを顎で使いますか?」



 あの時か、認識阻害は使っていたが、フールマスクは装備していなかったな。よほど目の良い間者だったのだろう。それとも本人か? デルタとオールを鑑定できていないところを見ると、ただ目が良いだけとも考えられる。



「おやおや、あの時の逃がして差し上げた生き残りでしたか。運の良い人ですね」


「お陰様で我が主に情報を持ち帰る事ができました」


「それで、第二魔王殿はたかだか一介のサージェントにどのようなご用件ですか」


「我が主は第十三魔王様と一度お会いしたいとお申しでございます」



 ほう、会ってどうする気だ。第十三魔王の力量を見極めるつもりか?



「こちらとしては興味ないんですがね」


「我が主は第十三魔王様と争う気はありません」


「北方で暴れてる魔王との関係は?」


「魔王としての知り合い程度でしょうか」


「倒しても問題はないと?」


「ございません」


「ならば第二魔王殿の目的とは?」


「時が動く事」



 ふむ。北方の魔王とは関係ないようだな。時が動くとは、どうゆう意味だ?



「これを我が主より、第十三魔王様にお渡しするようにと、預かって参りました」



 大きな厚手の紙を巻いたもののようだ。開いてみる。ダイチが覗き込んでくる。



「地図だな」


「結構、細かく調べられてるな。どこのだ?」


「クルミナ聖王国より北のものです」



 まあ、そんなところだろう。ひねりがないな。



「第十三魔王にくれてやるってか?」


「漁夫の利、狙いとも考えられるな」


「我が主はそのような方ではありません!」


「まあ、それはさておきこの地図はいらん。持って帰れ」


「えっ!? そ、それはどういう意味でしょうか?」



 断られるとは思っていなかった顔だな。どこまで先を見ているか知らないが、他人の駒になるのは好きじゃない。他人を駒として使うのは好きだけどな。


 時が動くか……やるなら勝手にやってくれ。正直、上から目線が気に食わない。何様のつもりだ。魔王様だけどな……。



「我が主は、必ず必要になるものと仰っておられました」


「ふん。では聞くがそんな大事なものを見ず知らずの者から受け取って、全幅の信頼を寄せるとでも? それにこちらで用意していないとでも思ったか? 第十三魔王も侮られたものだな。出直してこい」


「……」



 リートゥスという魔族は二の句が継げず押し黙り、下を向いてしまった。ダイチ慰めは必要ないぞ。それも手の内かもしれないからな。



「それでは我が主とお会いになって頂けないと?」


「何様のつもりか知らんが、上から目線で来る限り敵にしかならない」


「我が主はそのようなつもりは……」


「だから話にならんと言っている。それすらわからぬ阿呆と話をする気はない」


「もう機会は頂けぬと?」


「第二魔王次第だろ。もし来るなら大森林の砦に来い。ここに来るなど迷惑極まりない」


「……承知しました」



 リートゥスという魔族は、トボトボと帰って行った。



「言い過ぎじゃね」


「ダイチは女であれば何でも良かったもんな」


「な、なに言っちゃてんのかな、リートゥスさんは美人じゃないか!」


「お気楽だな……」


「……」



 そろそろ、店じまいしますかね。明日もあるから今日はこの辺で良いんじゃないかな。陳列してある商品を収納して片付けていく。


 表を見れば彼奴等はまだ踊っている。ニーニャもさくらと再参加したようだ。レイアが驚いた目でニーニャを見ている。まあ、そうなるだろうなさくらも加わって、とってもプリティーだからな。


 売り上げ的にはまあまあかな。ぬいぐるみの売れ行きが良くないが、想定済み。こんなものだろう。


 両隣の主人に挨拶して店をシートで覆う。



「帰るぞ」


「「「えぇー!」」」



 周りからブーイングの声が上がっている。


 えぇってなによ? 一晩中踊ってるつもりですか? 別に構いませんよ。俺は帰るけどな。


 リンネ達はもう少し王都を見学して行くそうだ。結構なおひねりを貰えたようでホクホク顔。子守はダイチにお願いしといた、帰りも一緒だからな。


 残り全員を連れて降魔神殿に戻る。


 メイド隊が疲れた、疲れたと言ってレイアとニーニャを連れ、風呂に行ってしまった……。君達、仕事してたっけ? 踊ってただけだよね。違いましたっけ?


 オールにオークションの戦利品を見せる為、メイド隊の一体にクリスタルの部屋に来るように呼びに行かせ、俺もさくらと一緒にクリスタルの部屋に向かった。



「これは素晴らしいですのう」



 オールが宙に浮いた飛行船のおもちゃに釘付けになっている。飛石と呼ばれる鉱石を錬成したものが使われていているらしく、飛石の錬成は既にロストテクノロジーとなっており、もしこれが最近錬成されたものなら大変な事になると騒いでいる。プレイヤーの出品物だから十分にあり得る話だな。だけど、ニーニャのおもちゃなんだからな壊すなよ。


 オーブは全てオメガに渡した。



「三つも確保できたとは……素晴らしい!」



 オーブについてはオールと共同で研究するようにと言っておいた。落札した品もオールに全て渡したところ、泣いて喜んでいた。なかなか手に入らないものが多かったみたいだ。それは何よりだな。


 オメガに使わなかったお金を返してから、今日会った第二魔王の配下リートゥスの事を話す。



「第二魔王でございますか」


「大森林の中央にある。叡智の塔を支配する魔王のようですのう」


「知っているのか?」


「最近、手の者が掴んだ情報でございます」



 大森林の中央って、意外と近いんじゃねぇ?



「確かに距離で言えば近いと言えなくもありませんが……」


「実際に行くには至難の業ですのう」



 大自然の猛威に加えて自然の迷宮、強力なモンスター、アンデットやドールだからこそ探せた場所らしい。普通の人では到底たどり着けない場所。それが叡智の塔。オールの持つ文献から場所を割りだして調査したみたいだ。実際、場所以外なにも情報が得られていない状況らしい。


 元々、始まりの迷宮の魔人騒ぎがなければ、オールの師匠ジルが探しに行く予定だった場所だそうだ。その当時は12の魔王はまだ存在していなかったので、さっさと行って手中に収めておいて欲しかったな。



「ともあれ、情報収集を頼む」


「「承知しました(のう)」」



 目と鼻の先、プレイヤーに北の魔王に注意しろなんて言っておきながら、アキバ来たからマジ……もとい、秋葉山から火事では話にならない。目的がわからない以上。最悪のケースを想定しておいた方が無難。楽観視する事だけはないように注意したい。


 何分、喉元過ぎればなんとやらな性格だからな、俺は……。




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