124 ルークの見せしめとオールの命乞い

 風呂に入って一旦、全てをリセットする。


 真夜中までにはまだ時間があるが出掛けよう。


 夜風が肌寒い。今は秋、冬になれば雪が降るのだろうか? リアルで東北に住んでいるが、仙台はほとんど雪が降らない。シーズン中に二、三度大雪が振る程度だ。ニーニャと雪だるまを作りたいな。などと考えながら北側の平原に向かった。


 既にデルタは陣を敷き終わっていた。何故か一番後方にお立ち台が組み上げられており、オールが俺に手を振っている。ニーニャに手を振られるならいざ知らず、オールに手を振られても嬉しくも何とも無い。


 お立ち台に上がると、絶景だった。オール曰く、ゾンビと中ボス達は留守番で、それ以外の者達がここに居る。およそ五千の軍勢だそうだ。


 こんなに居たの? 多くない? 


 普段は四千のアンデット達は待機しているらしい。土の中とか、土の中とかに……。寝てるのか?


 向こうを見れば、徐々にアンデットらしき影が集まり始めているが、統制が取れているようには見えない。



「ランツェってどんな奴だ」


「今のクルミナ聖王国に、滅ぼされた国の騎士団長だった男ですのう」


「性格は」


「真面目で部下からも慕われる奴でしたのう」


「何故、ダークナイトに」


「クルミナ……いや、ゾディアックに嵌められたのですのう。忠誠を誓った祖国から裏切り者の汚名を着せられ、家族諸共処刑されましてのう。子供達もまだ幼く不憫でしたのう」


「五百年もの間、何をしていたんだ」


「復活したのは、ここ二百年ですのう」


「まさかとは思うが、オールが復活させたんじゃないよな」


「……」



 何故、そこで黙る。オールくん。



「で、弟子はおりましたが、普通に話す相手がおりませなんだ。……寂しくなりましてのう。勿論、相手の承諾を得てから召喚しましたのう」



 こ、こいつら、あとどれくらい隠し玉持ってるんだ。もう、お腹一杯だぞ。



 どうやら、相手方も揃ったようだ。


 中世のイギリスなどでの戦争を彷彿させる。戦争とは名ばかりのチャンバラ戦争だ。殺し合いではなく、人質の取り合い合戦。


 こんな間近での睨み合い。戦術のせの字も無い。阿保らしい。


 誰かが馬に乗ってこちらに向かってくる。我々の陣を堂々とまっすぐにお立ち台まで向かってきた。


 頭がない……。いや、あった腰の辺りに抱えられている。不気味だ。



「オール様にては、ご機嫌麗しゅうございます」


「久しいな、シルト。何故に帰参せなんだ?」


「これはしたり、オール様が命に代えても、お守りしろと仰せになったではありませんか!」


「帰参せよと命じたはずぞ」


「聞いておりませぬな」


「オール。いつまで茶番劇を続けるつもりだ……」


「あ、あるじ殿。お、お待ち……」



 ライトアローをデュラハンの足に打ち込んだ。



「ガッハ……」



 デュラハンは馬から転げ落ちる。



「貴様。馬に乗ったまま口上を述べるとは、宣戦布告の意思あっての事と受け取って良いんだな」


「くっ……」


「オール。どういう事だ、手綱は握っていたと言ってなかったか」


あるじ殿! しばし! しばしお時間を頂きたいのう!」


「仕方ない。少し待ってやる。ちゃんと教えておけ、裏切ればどうなるかをな」



 なんとなく予想はしていた。だってオールだし。面倒臭いからさっさと光に還しても良いんだけど、オールの立場もあるから、少しだけ待ってやろう。



「シルト! 控えよ。おぬし如きではあるじ殿にかなわぬ」


「くっ。これはどう言う事ですかオール様。何故、あなた程の方がヒューマン風情に従っているのですか!」


あるじ殿は我らが真のあるじの代理で来ておられる。勘違いするでない」


「なれど、何故ヒューマン風情にオール様が従っているのですか!」


「こちらにおるルーク殿は、我らが真のあるじの最も信頼熱きお方。我らの参謀でもある。確かにヒューマンではあるが、アンデットに対し偏見も持たず皆平等に扱ってくれるお方じゃ」


「納得がいきませぬ!」


「だから帰参せよと命じたのじゃがのう。おぬしならわかってくれると思っておったのじゃがのう……」


「くっ、既に手遅れです……」


「何故じゃ……シルト? お前を信頼していればこそ、ランツェに預けたのじゃぞ」


「オール様は我らデュラハン族に良くしてくれました。されど、やはりどこか遠い存在。ランツェ様は我らに親身に接してくれました。今さら裏切るなどできませぬ」


「なんという事じゃ……」



 犀は投げられた! ってやつか。なんかぁ、某テレビ局の安っぽい大河ドラマを見ているようなんだけど……そろそろいい? 三文芝居に飽きちゃった。



「じゃあ、消えろ。さくらの敵は俺の敵。さくらの眷属の敵も俺の敵。この世に居る価値は無い」



 ライトジャベリンをデュラハンに向け放つ。デュラハンに当たると思われたライトジャベリンがダークシールドによって防がれた。



「なんの冗談だ。オール」



 オールはデュラハンの前に移動して、土下座をしてきた。



「オール様!」


「何卒、何卒。光に還すはお許しください……」


「言ったはずだ。さくらの敵は消す。機会は与えた。それを活かせなかったのは自らの所業」


「されば、魔王様の敵全てを抹殺するつもりですかのう」


「そうだな。それも良い考えだ」


「……」


「……冗談だ。だが、こいつらは見せしめになってもらおうと思っている。第十三魔王に手を出せばどうなるかってな」


「狂ってる……」



 ほう。言ってくれるじゃないか。デュラハン。俺から見れば生と言うものを捻じ曲げ存在している、お前らの方が狂ってると思うがね。



「お、お待ちくだされ、何卒説得の機会を頂きたい!」


「えぇー、もういいだろう。パッパッと終わらせようぜ。面倒臭い……」


「この者達は、これでも我の眷属、このオールに免じて説得の機会を……」


「そうだな、何度免じてきた? 馬鹿者共に、馬鹿者共に、馬鹿者共に、自称魔王。言っておくが俺の許容範囲はそれ程大きくはないぞ」


「……」


「ハァ……良いだろう。但し一度、完全に叩き潰す。説得するならその後だ」


「あ、あるじ殿ぉ~」



 いやー、俺も甘いね。しかし、ここでぐうの音も出ない程、叩き潰しておきたい。必ず、今回の事は噂などで広がる事になる。気付く奴は気付くだろう。第十三魔王の事に。なので、できれば他の魔王達への牽制になって欲しい所なのだ。



「デルタ! 攻撃開始! 完膚なきまで叩き潰し、自称魔王を俺の前に引きずって来い! 己の愚かさを、その身で味あわせてやれ!」



 さあ、闇の軍団の初陣だ。派手にいこうぜ!




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