120 うさ子の家出

 うさ子が家出!


 置手紙ってこれか? 紙にうさ子の手形、足形が無造作に押されている、勿論読めない……。


 同族のファル師匠なら読めると思う。聞いてみよう。


 クリスタルの部屋に行くと、既に訓練が始まっていた。


 オメガにファル師匠を呼んでもらう。



「なんじゃ、急ぎの用か」


「うさ子がこれを置いて居なくなりました」


「ふむ。貸してみよ。ラッシュラビット族の隠し文字じゃな」


「なんて書かれているのですか?」


「さくら様、少しの間自分を見つめ直す旅に出る事お許しください。じゃな」


「帰って来る気はあるみたいですね」


ハオ。丁度良い、少し世間の荒波にもまれると良い。馬鹿弟子は少し根性を叩き直さねばならぬと思っていた所じゃ」



 ファル師匠はたいして心配していないようだ。


 取り敢えず、みんなに置手紙の内容を伝えよう。レイアはまだパニック状態。メイド隊も集め置手紙の内容を伝えた。



「ファル師匠はさほど心配していないから大丈夫だろう。帰って来る気はあるようだし、そっとしておくべきだろう」


「でも、何かあったらどうするのですか。ルーク」


「そもそも、うさ子に勝てる相手を見つける方が難しいと思う。何気に神経図太いから心配要らないと思うけどな。それこそ、うさ子の悲しみは時が解決してくれるか、何かきっかけが必要だと思う。寂しいけどうさ子を信じようじゃないか」


「ミャー」



 ニーニャもコクコク頷いている。意味わかってるのかなニーニャは?


 メイド隊の面々は三者三様だ。ハンカチで涙を拭っている者もいれば、うさ子を信じてるて顔をしている者、何を考えているかわからない無表情な者、色々だ。


 ペン太がくちばしに何か紙の束を咥えて歩いてきた。なんだ? 手に取るとくじ引き券が二十枚あった。うさ子が置手紙と一緒に置いていったようだ。


 うさ子……お前、意外と冷静だな……。更に心配ないと言う確信がもてたな。


 レイアも落ち着いたのでクリスタルの部屋に戻り訓練に参加する。昨日の続きをやってみる。


 光属性スキルで身体を覆い攻撃すると、光属性攻撃になるがMPの消費が無い。が、攻撃力の上乗せが全く無い。魔法(光)でMPを消費して纏うと内功スキルとまではいかないが、身体能力が向上している。それなら、光属性と内功と併用できないかと試してみるが、できそうでできない。要訓練が必要と言う事かもしれない。


 今度は別の検証を行う。左右の手で別々の魔法、或いは同じ魔法を同時に使うのは、右手に円を描き、左手にドルを描く……もとい、右手に円を描き、左手に方を描くと言われそうだが、楽器のドラムを叩いてる人はそれをこなしているのだから、できるんじゃないかなと思っている。なんか、もうちょっとで実際にできそうな気がする。



ハオ。面白い事をしておるのう」


「光属性スキルを得たのですが、内功スキルと併用できないかと思いまして」


「できるぞ。深く考えぬことじゃな」


「深く考えない?」


「属性スキルとは、普段の攻撃に属性を乗せるだけじゃ。内功スキルで氣を纏った状態を普段の攻撃と考えれば簡単なことじゃ」


「成程、それにはまだまだ内功の練度が足りませんね」


「瞬時に氣を練れるようになるか、常時、氣を保てるようになれば自ずとできるようになるであろう」


「氣を保つですか……」


「瞬時に氣を練る事と氣を保つ事、どちらが難しいと言えば瞬時に練る方が難しいじゃろう」


「魔法と内功の併用は可能でしょうか」


「可能じゃ。考えてみよ、氣を纏った者にも回復や強化魔法は効くであろう。只、それをひとりでこなすとなれば話は別じゃろう。相当な修練が必要であろう」


「どのように修練すれば良いのでしょうか?」


「左右の手に別々に氣と魔力集める修練をせよ。先ずはそこからじゃ」


「ご教授ありがとうございます」


ハオ。励むが良い」



 訓練を終えてからクリスタルから、ハイドール・ハウスキーパーを一体を召喚する。


 基本メイド隊で事足りるが、アルファが居なくなりメイド隊を制御する者が居なくなった事により無秩序状態。アルファの代わりになる訳ではないが、まとめる者は必要だろう。


 着物姿の切れ長の目、黒髪の狐ミミな和風なハイドールが現れる。


 名前はどうするかな? 死者の都のセーフティーエリアに補充したドール達に、イプシロンを使ったからな。



「お前はゼータ。主はさくら。俺、ルークとこっちのオメガがゼータの上司だ。この降魔神殿の秩序を保て、その権限を与える。と言ってもやり過ぎるなよ。ギスギスしたのは好きじゃない」


「承りました」



 ゼータを連れて部屋行く。



「そちらは?」



 レイアが聞いてきた。



「アルファの代わりに全体を仕切ってもらう」


「さくら様、皆様、ゼータと申します。以後良しなに」


「ミャー」



 メイド隊がブーブー言ってるが、お前達が元凶だからな。ゼータがニコッと笑顔を見せメイド隊を見た。背筋にゾクっと悪寒が走る。周りを見れば皆黙っていた。ファル師匠でさえ緊張している。ゼータ、何者! 怖いわぁ!


 みんなと朝食を取っているとメールが届いた。弟子ふたりからだ……てんで忘れてたな。二人はイーリルに着いたようだ。どうしようか?


 みんな笑っているが、精神的には参ってるだろう。ここはひとつリフレッシュといきますかね。



「今日はみんなで珊瑚に囲まれし島に行こうと思う」


「ですが、うさ子ちゃんの事を思うと……」


「だからこそだ。みんな精神的にやられてる。リフレッシュが必要だ」


「わかりました」


「ゼータ。用意を頼む」


「承知しました」



 にゃんこ共とメイド隊が一緒に踊っている。そんなに行きたかったのか……。リンネとユウに定期船に乗って島に来るようにメールし、ひなさん達にもメールしといた。


 水着は各自持参でお願いしますよ。レイアとニーニャの分は用意してある。こんな事もあろうかと舞姫に作成依頼を出しといたのだ。


 さあ! 準備が整い次第出発だ!



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