96 この世界の深き闇
今日は忙しく動いている。
オーロラの所に行き仕事の依頼をしたり、カジノの支配人ともやっと会う事ができた。
既に闇ギルドが接触を持って来てるらしいが、全てオメガが始末しているらしい。始末って一体何やってんの? オメガと話をする必要がありそうだ。だが、闇ギルドだけで済むと思えないな。
カクテルバーも大盛況。新しいレシピも幾つか渡し、ドール二人に実演もした。ここに来るプレイヤーもレシピを置いていくらしく、知らないカクテルも既に幾つかあった。後はパフォーマンスだがどうしたものか……プレイヤーでできる人を探してみるか。そこまでやる必要無いと思うかもしれないが、そこは譲れないこだわりなのだから仕方がない。
レゲエパンチを一杯飲んでから帰った。宮城県仙台市発祥だからな。もちろん、旨かった。
降魔神殿に戻るとさくらとレイアしか居ない。うちはフリーダムだな
。
帰って来たのは良いが落ち着かない。さくらをなでなでチュッチュしていても心ここに非ず。
「ルーク。何か心配事ですか?」
「そういう事じゃないんだけど……」
「何か時間を気にしてるような、誰かと待ち合わせですか……?」
レイアが少し悲しそうに言ってくる。そうじゃないんだレイア……。
気になっている。ずっと頭から離れない。見なければ良かったのに、でも見てしまい聞いてしまった。
レイアとさくらを連れて王都のハンターギルドに来てしまった。
居た。まだ毛布にくるまっている。するとモゾモゾと毛布からあの子が出て来て、ギルド前でまた消え入りそうな声で呼び始めた。
「まみゃ~。まみゃ~」
ふと、となりを見ると知らないお爺さんが立っていた。
「あの子の母親はハンターじゃった。しかし、依頼に失敗でもして命をおろしたのじゃろうて。ああしてこの時間になると、決まって母親を呼んでおる。不憫よのう」
ハンターらしき大男が女の子にぶつかった。女の子は吹き飛ばされ倒れてしまう。
「汚ねぇガキが触るんじゃねぇよ!」
倒れている女の子に対して大男は蹴りを入れた。流石に見てられなくなり飛び出そうとした時、自分よりレイアが先に動いた。
大男の顔をこれでもかという勢いで平手打ちしたのである。
辺りにバッチーン! っと小気味よい音が響く。周りに居た人々が一斉にレイア達を見た。
「あなたはそれでも人ですか!」
「なんだてめぇ!」
「こんな小さな子を足蹴にするなんてありえません!」
レイアが大男とやり合っているうちに女の子を抱きかかえ、ヒールと浄化を掛ける。どうやら気を失っているだけのようだ。さくらが女の子のほっぺをペロペロしてる。
レイアと大男の方もヒートアップしてきて、大男がレイアに手を上げようとしたので、さくらと女の子を抱えたままだが大男の横に移動し、大男の脇腹に氣を纏わせた手をあて氣を放つ。ドン! という衝撃と共にうめき声を上げ大男は崩れ去さる。あばらが何本が逝った事だろう。
レイアが寄ってきて女の子を抱き寄せた。
「ヒールは掛けた。気を失っているだけだよ」
「どうして、こんな子が……ルークはこの子の事が気になっていたのですね」
「そうだな……しかし、どうしたものかね。関わり合いを持った以上このままって訳にはいかないけど、単なる偽善じゃないのかなって思っている自分が居る」
そう、単なる偽善なのだ。孤児などいくらでも居る。王都のスラムに行けば、そこらじゅう孤児だろう。この子だけを救ってどうなる? 根本的な事は何も変わらない、この国の役人でもなければこの世界の人間ですらない。
『infinity world』はリアルすぎる。こんな負の部分まで再現しなくても良いんじゃないか……。
「ルークは本気で言ってるのですか! 偽善だろうと目の前に助けを求める者がいれば、手を差し出すべきです」
「「「おぉー」」」
「俺も女に困ってるんだ助けてくれ」
周りが煩い。馬鹿な事を言った男はレイアに睨まれ、コソコソ逃げて行った。
「ごもっともなご意見です」
「この子は私が育てます。良いですね!」
「……はい」
事情を聞く為、先程のお爺さんを探したが見つからなかった。仕方なくハンターギルドの受付で話を聞く事にした。
この子の名前はニーニャ、母親の名前はケイト、父親は不明。
モンスターの討伐依頼を臨時パーティーで受けたが、依頼期間の最終日になっても誰も帰って来なかった事から依頼の失敗と断定。ギルド規約により五日間の予備期間を持った後、ニーニャを孤児院に収容したと語った。
その後、あの時間になると孤児院を抜け出して来ていたが、五日前からはあの場所でずっと待ち続けていると言う。何度か孤児院から迎えに来たが結局あの場所に戻って来るらしい。
次は孤児院だな。孤児院とも話をつけないと不味いだろう。
ギルドの受付嬢から孤児院の場所を聞き、孤児院に来て院長の部屋に通された。
院長と言う方と話をしてニーニャを引き取ることを告げる。本気ですかと言われたが、冗談でここに来るとでも思いますかと言ったら黙り込んだ。
ニーニャの母親の遺品を返却願うと、ほとんど売り払い無いと言われた。取り敢えずある分だけ引き取り、金貨十枚を置いて孤児院を出る。外に出ると十四、五歳の女の子がニーニャの母親の遺品を売った場所を覚えているので、連れて行ってくれると言う。
案内してくれてる彼女は後、数ヶ月で孤児院を出て働きに出なければならないそうだ。そんな時に入って来たニーニャを心配していたそうで、俺達が引き取ると聞いて自分の事のように嬉しかったらしい。
彼女のお陰で売られた店で、七割方の遺品を見つける事ができた。彼女はそのまま帰ろうとしたので、お礼と称して広場で飲み物を買い座って話をする。
まだ働く場所が決まってないなら、自分達の知り合いの所で働かないかと言ってみた。しかし俯いたまま喋らない。しばしの間沈黙を続けポツリポツリと話始めた。要するに働きに出るとは口実で、売られて行くらしい。全てがその手の場所ではないらしいが、女性はほとんどその手の場所に売られ、自分を買い戻すまで働かせられると言。
レイアは顔を真っ赤にして憤慨している。ニーニャが起きるから抑えて。
致し方無いと言えばそれまでだが、ハンターギルドがそれを知っていて容認しているなら問題だな。身を粉にして依頼を受けて働いたハンターの遺児達を、そんな境遇に追い込むなんて許されない。いや、許すべきではない。かと言って何ができるだろう……。
「今回孤児院を出る子で君と仲の良い子は居るかい?」
「ふたりいます」
「ルーク!」
「明日、孤児院に行って君達を引き取る事にする」
「本当ですか!」
「折れ掛かった骨……もとい、乗り掛かった舟だ。面倒みよう」
「みゃ……」
「あ、ありがとうございます!」
明日迎えに行くので孤児院を出る準備だけしておくように伝える。
どこの国も同じなのかもしれないが、この国の闇も相当に深そうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます