まおある ある日のひとコマ その四


 さくら編



 さくらは探検に出るのにゃの。


 優しいあるじさまが居ない時はこの部屋から出たことにゃいの。


 うさちゃんは自由に出入りしてるにゃのに、さくらは出ようとするとアルファに止められるにゃ。ずるいにゃん。


 今、アルファもうさちゃんもいないにゃの。チャンスにゃん。


 扉の取っ手にぴょんと飛ぶにゃけど、届かないにゃ……。


 ちょっとペン太こっちに来るにゃ。


 ペン太はさくらの臣下じゃないにゃいけど、あるじの臣下でもないみたいにゃ。ペン太は何者にゃ? まあ、言う事は聞いてくれるから問題にゃいにゃ。


 ペン太を扉から少し離した場所に立たせたにゃ。


 助走をつけてペン太の頭にジャンプにゃ! 更に取っ手に向かってジャーンプにゃの。


 にゃ、にゃんとか届いたにゃ。届いたけど取っ手にプ~ラプ~ラにゃん……どうすればいいにゃのー!


 体をフリフリすると取っ手が動いたにゃ。やったー成功にゃん!


 飛び降りて廊下を確認するにゃ。誰もいないにゃのね。探検に出発にゃ。


「くぇー」


 えっ! ペン太も行きたいにゃん?


「クェッ!」


 仕方ないにゃ。さくらが隊長だからにゃん。ぺんたは隊員にゃの。


 にゃー! 出発にゃー!


 さくら探検隊はこうして、秘密結社ピーマンの詰め秘密基地を探検することになったのであった。


 放送未定! 骸骨に従属させられた美女達。こうご期待!






 ひなさん編



 私達【優雅高妙】は今ノインスに居ます。


 本当なら既に王都に向かっているはずなのですが、予定通り工程が進まず頭が痛いです。


 ルークと約束した通り、なるべく早く王都に着きたいのに。


 そう、私達が王都に急いでいるのは、ルークとの約束だからです。


 私は最初、彼の事が余り好きではありませんでした。言葉遣いは丁寧なのですが、すかしてるというか、どうでも良い的な態度が嫌でした。


 事あるごとに、どうでも良いよ別に、が口癖でイラッとするし。


 どうせこれはゲームなんだからというオーラが彼から感じられる時が多多あり、人間味に欠ける奴と思っていました。


 ですが、あるクエストを切っ掛けに彼が私が思っていたより、人間味に溢れた人である事がわかり、彼と彼の大事なさくらちゃんを手助けしたいと思うようになったのです。


 その為に王都に行ってクランを設立しようとしているのに、こいつらときたら次から次へと余計な事に首を突っ込む……。


 今、私達はノインスから少し離れた山の奥に来ています。


 事の発端はコッコの兄であるダイチがノインスの街で、美人局に引っ掛かった事からチェインクエストが始まり、六つ目のクエストの真っ最中です。


 クエスト内容は街のワル共に囚われたお爺さんと孫娘を助ける為に、山の奥の木になるというアポンジと言う果物を取ってくる事。


 ついでに、この山に珍しいウサギが居ると言う事でまりゅが俄然やる気になっているのがとても不安です。


 アポンジがなるという木まで来ましたが実がありません。聞いてきた話では、アポンジの実はとても美味で実がなるとすぐにモンスターが来て、食べられるそうなのでモンスターをけん制して実を取るしかないそうです。


「そんなに美味しならさくらちゃんにお土産にしたいな」


「プルミー。うさ子ちゃんの分も確保だよー」


 本来の目的を忘れているふたりは放っておきましょう。


「これ、いつなるのさぁ」


「知る訳ないだろ。俺が」


「コッコは敵に注意してて、おそらく実がなる頃にモンスターが来ると思うの」


「お前、罠スキル持ってたろ。仕掛けてこいよ」


「グッドゥアイディア! 兄貴、冴えてんじゃん」


 コッコがあちこちでに罠を仕掛けてますが、私達が自爆しないわよね……。


 罠を仕掛け終わり一時間程経った時。


「来たよ!」


「いつも通りの陣形で行くわよ。コッコは実がなったら確保に回って!」


「待ってろよ。さくらちゃん」


「うさ子ちゃん。まりゅ頑張るー」


「なんか、気が抜けるぜぇ」


「兄貴、シャッキっとしろよ」


 モンスターはロングテイルエイプと言うサルが十匹以上現れました。


 コッコの仕掛けた罠に何匹か掛かりましたが、多勢に無勢。ロングテイルエイプは私達など眼中に無いとばかりに、木になり始めた実に向かって行きます。


「ちくしょう! 何なんだよこいつら。動きが速すぎる」


「このままじゃ。全部こいつらに取られて終わりじゃん!」


 そう。成す術無しとは今の私達の事でしょう。


 私達が諦めかけたその時、それが現れたのです。ムキムキマッチョなウサギ耳のおじいさんが……。


 そのおじいさんはサル達を捕まえては投げ、捕まえては投げを何度か繰り返すと、周りにはサル達が居なくなってました。


「お前さん達、大丈夫か」


「ハッ!? だ、大丈夫です」


 一瞬何が起きているのか理解できず。フリーズしてしまいました。


「助けて頂きありがとうございます」


「お前さん達もアポンジを取りに来たんじゃろう」


「はい。ですがあのサル達に成す術なく先程の有様です」


ハオ。まだまだ修行が足りんなお前さん達は」


 そのおじいさんはそう言うと、木に残っていた六つの実のうち、三つをこちらに寄こしました。


「これは頂けません」


「だが必要なんじゃろう。今のお前さん達ではいつまで経っても手に入れられんじゃろうな」


「何かお礼を……」


「礼ならいらん。その代わり儂に会った事は他言無用じゃ」


「もしかしてー。珍しいウサギっておじいさんの事ー」


「ほう。そんな噂が流れているのか。そろそろ場所の変え時かのう」


 そんな事を言っておじいさんは去って行きました。去って行ってから名前を聞いていない事に気付きましたが、もうどうしようもありません。


「さあ。物は手に入ったから、さっさとクエストクリアするわよ。ほらまりゅさっさと立ちなさい」


「まりゅーショックで立ち直れないー」


「グフフ……。さくらちゃん手に入れたぞ。待ってろよ」


「さっさと帰ろうぜ。腹減った」


「これで、クエスト終りじゃん。帰って寝よ」


 ハァ。このメンバーをまとめる私って……とっても健気よね。


 いつになったら王都に着くのかしら。前途多難だわ。


 この少し後にインフォが流れ、ルークからメールが届き、結局ルグージュに戻る事になるのだけれど。まだこの時はそんな事になるなんて露ほども思っていなかったわ。





 オール編



 オールの愉快な弟子達は暇してなかった。


「師匠! 何故我々はこんなにも忙しいのでしょう?」


「自業自得であろうのう」


「「「「「 …… 」」」」」


 最初はやる気無しだったリッチ達。


 しかし、オールがオメガに頼まれ仕事をした報酬で今のドールをハイドールにクラスチェンジさせたのを見た弟子達は、自分のドールもクラスチェンジさせたくなったのである。隣の芝生は青く見えるである。


 俄然やる気になったリッチ達だが、なにをすれば良いかわからない。


 結局、ブラック企業の元締め……もとい、さくらの忠実なるしもべオメガの所に来たのであった。


「成程、それで仕事が欲しいと言う訳ですね。宜しいでしょう。お嬢様からも頼まれておれば致し方ない。ご協力しましょう」


 この時リッチ達は仕事が貰える事に舞い上がり、オメガの口元が吊り上がり、メガネの奥の瞳がキラリンと光った事に気づけなかった……。


「ゴミ拾いから中ボス代理に至るまで仕事は幾らでもございますが、ご希望は?」


「痛いのやだなー」


「報酬が少ないのもなー」


「「「やんや、やんや」」」


「よし。決めたぞ。一番報酬が良くて戦闘のないものが良い」


「承りました。これから受けて頂く仕事は、定期的に発生しますので仕事にあぶれる事はございません。報酬に関しましても戦闘以外の中では、一番の高報酬でございます。ですが、一度仕事を受けて頂く以上、途中で投げ出される事は許されません。もしも、投げ出された時は、お嬢様にご報告させて頂きますこと、あしからず。それでもお受けになりますか?」


 悪魔の囁きである。メリットを強調して伝え、敢えて強いデメリットをひとつ言い、時間を与えず返答させる。まさしく悪徳商法の手口。


「「「「「受ける!」」」」」


 哀れ……リッチ供。彼らは口を大きく開けたドラゴンに飛び込んで行ってしまった。


 そして場面は最初に戻る。


 彼らの仕事は、迷宮内のモンスターのエサやりに始まり。迷宮内の宿や食堂の風呂、トイレの掃除、側溝の清掃、ゴミ収集から焼却まで。そう。 3Kなのである。いつの時代も3Kは高収入なのである。


「師匠! 助けてください」


「我々は騙されたのです」


「こんなの聞いていません」


「「やんや、やんや」」


「じゃが高収入なのであろう。助けるのは簡単じゃが、魔王様がなんと仰られるか迄は、責任とれぬのう」


 オールはメイドドールの腰に手を回し、引き寄せながら言った。


「「「「「 …… 」」」」」


 こうして愉快な弟子達の辞めに辞められない、苦悩の日々が続いているとかいないとか……。



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