78 レイアの両親とアンデット軍団の実力

 撤収の合図がでた、と言ってもすぐに撤収できる訳ではない。


 広げた翼を元に戻してから、部隊毎に街を大きく迂回して東の門に向かう。実際に撤収が終わったのは合図から二時間後だった。


 綿飴のようにべたつかれた……もとい、綿のように疲れた。もう、何もやる気が起きない。



「ルーク、お疲れ様です。無事で良かった……」


「ミャ~」



 レイアからさくらが飛びついて恒例の顔ペロ。さくらもペロペロしちゃうぞー。


 レイアの後ろには見知らぬふたりが立っている。誰だろう? 渋メンの男性と、レイアの妹と言われれば見えなくもない可愛い系の女性。



「こちらは、私の両親です」


「マジですか! お父さんにお母さん……妹さんかと思った」


「君にお父さんと呼ばれる覚えはない……」


「妹さんだなんって……もっと言って良いのよ。ホホホ……」



 渋メンの父親は苦り切った顔で、妹と言われた母親は疲れ切った自分の体をバシバシ叩いている。どうやら中身はおばさn……バッシィ! 強烈な張り手が背中を襲う。い、妹さん? を見れば表情は笑っているが、目が笑っていない。怖っわぁ。


 取り敢えず、どこかで休ませてとお願いしたら、コリンさんの家に連れて連れてかれた。コリンさんの家には何故かアルファが居て、コリンさんの代わりにせっせと働いていた。


「どうして、アルファが居るんだ?」


「お嬢様方が日頃からお世話になっておられますコリン様宅に、当面ご厄介になられるとお聞きしましたのでお嬢様のメイドとしてはお手伝いせねばと、罷り越した次第でございます」


「そうなの?」


「ミャー」


「ルーク、勝手に決めてごめんなさい」


「いや、俺は良いんだけどね。ご迷惑じゃありませんか」


「良いのよ。こんな時だから、大勢いてくれた方が心強いわ。アルファちゃんもとっても気の利くお嬢さんだしね」


「恐れ入ります」


「ハァ……よろしくお願いします。好きなだけこき使ってください」


「あらあら、アルファちゃんは信頼されているのね」


「「……」」



 どこをどう見ればそう見えるのだろうか……。


 いつもなら洗濯物が干してある場所に大きなテーブルが置いてあり、既に【優雅高妙】の皆が座ってお茶を飲んでいる。



「アハハ……死に戻ってしまったぜ」


「このっ! 馬鹿兄貴!」


「「「……」」」



 スイッチに失敗したらしい……ダイチが調子に乗って切り込み過ぎて、戻れなかったみたいだ。そう言えば途中から彼ら三人を見てなかった。まあ、人を気にする余裕もなかったけどな。


 作戦本部からの情報で先程の戦いでの死に戻りは三千強だったそうで、一班は全滅だったそうだ。当たり前か。


 全員がテーブルの席につき、アルファがお茶を配り終わった所で話を続ける。



「戦闘前の歌って、もしかしてレイアのお母さん?」


「はい。母の固有スキルです」


「じゃあ、あれレイアもできるの」


「レイア! まさか話をしたのか!」


「お父様、ルークは鑑定スキル持ちです。最初から知ってました」


「ぐぬぅ……」


「そう、なら仕方ないわね。でも、他言無用よ。レイア、あなたがちゃんと責任を取りなさい」


「はい。お母様」



 せ、責任ってなんですか! レイア、寝てる間に濡れた革ひもを首に巻いたりしないよね。信じてるからな。



「さっきの攻撃で結局、どの位減らせたんだ」


「作戦本部は二割程度と見てるらしいわ」


「あれだけやって、たったの二割かよ」


「もう今日のような正面からぶつかる戦いはできないでしうから、ゲリラ戦になるでしょうね」


「ルークもそう見てるんだ」


「近接戦闘ができるプレイヤーで小隊を作って、東門から出てモンスター達の側面から攻撃って所でしょうね」


「夜のあれはどうなの?」


「さぁ? 日が暮れればわかるんじゃないですか」



 今日は、もう外に出て戦う事はない。代わりに弓職や魔法職が持ち回りで防壁上から攻撃する事になる。さくらもレイアと一緒に参加するそうだ。無理は駄目だよ。



 レイアやまりゅりゅの当番は夜中なので、せっかくなのでみんなで食事する事になった。何せ昼食抜きだったので腹が減っている。庭の一角にバーベキューセットを設置して火を起し、肉やソーセージに野菜を焼いていく。もちろん野菜はうさ子提供だ。恨めしそうな顔はやめなさい。うさ子。



「この状況化でこれで良いのか……?」


「良いんじゃない。みんな楽しそうだし」



 レイアの父は何か納得がいってないようである。気にしない。


 お腹も一杯になり、そろそろ日が暮れ始めてきた。



「これから面白いものが見れると思いますが、一緒に来られますか?」



 一応、礼儀としてレイアのご両親を誘ってみる。よくわからない顔をしているが来るようだ。うさ子とペン太、まりゅりゅとコリンさんはお留守番。


 防壁の上に上がり攻撃してる人達の邪魔にならない場所で、その時が来るのを待つ。完全に日が落ち辺りが闇に支配され、モンスターの赤や青の目の光だけが浮き上がる。


 待つこと少し、真っ暗な空の上空から炎に包まれた無数の流星がモンスター達に降り注ぐ。


 攻撃していた者達、いや、モンスター達もおそらく凝視した事だろう。



「な、何ガあった!」


「わ、わかりません! 急に空から……」



 作戦本部に居たセイさん達、ガレディア達NPCの代表達も何ガ起きたかと防壁の上に上がってきた。


 流星が降り注ぐのが止み終わると、肉眼ではよく確認できないがモンスター達の最後尾辺りで戦闘が起きているのがわかる。



「何をしている、攻撃の手を休めるな!」



 セイさんの声で我に返った人達が攻撃を再開する。



「何が起きてるんだ。王国軍の騎兵隊が間に合ったのか……」


「そんな報告は受けてない。それにこんな暗闇の中、戦える訳がない」


「斥候を走らせるか」


「馬鹿な! 自殺行為だ。認められん!」



 ガレディアが自分達に気付き声を掛けてきた。



「何故、お前達がここに居る?」


「いや、俺達は……」


「久しぶりね。ガレディア」



 俺達ではなくレイアのご両親に声を掛けたようだ。さぁ、良いもの見れたし帰って寝るか。明日も早いからガレディアに捕まる前に撤退。


 明日も頑張ろう。



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