62 スキルを買いに行きクマに会う
何度も言うが朝風呂は良いものだ。俺の身も心も癒してくれる。
朝一にオメガと訓練し、何度も足元に這いつくばされ新兵の如きに罵られる。豆腐メンタルの俺はゲームの中とはいえ涙がちょちょぎれそうだ。
朝起きて、そういえばオメガ出張から戻ってたよなと思い出しながらごろごろしていたのだが、重い、立ったが、骨折……もとい、思い立ったが吉日と訓練をしてしまった……あのドSと。
風呂に入って心の異常状態も回復したし、危ない入り口のドアにも鍵をかけ直した。風呂サイコー。ゆっくりと堪能していたせいで、風呂を上がると皆さんは既に朝食が終わっていたようだ。
「ルークはお風呂が好きなのですね」
「えぇ。訓練の後の風呂は格別です」
「訓練ですか……」
「修行とも言います」
「私もご一緒させて頂けませんか」
「あ、あれは女性にはお勧めできない……かな?」
「お願いします! どんなしごきにも負けません!」
「わ、わかった。後でオメガに聞いてみるよ。取り敢えず、今日は王都に行こうと思う」
レイアのご両親に報告が必要だろうし、ハンターの登録も王都ですれば騒がれないだろう。ついでにもう一度スキル屋に行きたい。
「オメガ、お金ちょうだい」
ガキが母親にお小遣いをねだるように言ってみたが、軽くスルーされる。
「どのような用途にお使いですか」
「う、うちってそんなに貧乏なの……」
「そういう訳ではございません」
「スキルを買いに王都に行ってくる。さくらに魔法とレイアにも一通り使えそうなものが欲しい。できれば俺も……」
「いかほどご用意いたしますか」
「魔法(闇)が金貨七十枚だったから、金貨千枚位あれば問題ないかな」
「お待ちくださいませ」
オメガがクリスタルを操作していると
「ルーク。私には、ひ、必要、な、ないですよ!」
「お金の事を心配してるなら気にしないで、これは必要経費だから。なっ、さくら」
「ミャー」
「ですが……」
「買えるかどうかも行ってみないとわからないし、取り敢えず、行って聞いてみよう」
オメガから金貨の入った袋をいくつも貰いストレージにしまう。ペン太の入ったリュックとさくらをうさ子に渡して、俺とレイアが転移魔法で王都に飛んでから五分後にゲートで来るように言っておく。
転移魔法で王都の転移ゲート前に着く、しばらくするとゲートからうさ子達が出てきてキョロキョロしてる。当然、周りの目がゲートから出てきたうさ子に集中する。自分が見ても異質な光景である。面倒な事になる前に中央の広場に移動した。
「レイアのご両親が居る所はわかる?」
「中央区の旅人のヤドリギという宿に居ると、手紙に書いてありました」
「中央区といっても相当広いよね」
「そうですね……」
途方に暮れていると、うさ子が誰かを連れてきた。いつの間に。
「ヤッホー。ルーク、おひさー」
シャングリラのパステルだ。暇人か?
「いやー。びっくりしたよ。歩いてたら急にお尻をつんつんされたから、痴漢かと思っちゃったよ」
「アハハハ……すみません」
「いーのいーの気にしないで。でもルークのテイムした子達ってフリーダムだよねぇ」
ははは……テイムなんてしてねぇし。そういえばペン太とも何もしてないよな。まぁいっか。
「それでどうしたん。そっちの美人も誰さぁ。もしかして彼女!」
「好奇心猫をも殺すと言うぞ。パステルはドギールだけどね」
「ミャッ!」
「さくらは良い子だから大丈夫だよー」
「って、私は悪い子かい」
「まぁ、漫才は置いといて。こちらはレイア、自分のパーメン」
「レイアです。よろしくお願いします」
「堅い。堅すぎるー。もっとラフにいこうよ。レイアだよーって」
「軽い。軽すぎる。人間挨拶は大事だぞ。パステル」
「お久しぶりです。更紗さん」
「やぁ、ルーク。さくらも元気か」
「ミャー」
「それは良かった」
さくらを更紗さんに渡してあげると、嬉しそうにさくらと鼻同士をつけあっている。
「レイア。こちらはクラン【シャングリラ】のクランマスターで、更紗さん」
「初めまして。レイアと言います」
「よろしく、レイア。それで今日は何の用事で王都に来たんだい」
「旅人のヤドリギって宿を探しているのですが、中央区にある事までしかわからなくて困ってました」
「旅人のヤドリギと言ったら、この王都でも相当な高級宿だな」
「へぇ、場所わかりますか」
「わかるも何も、この大通りを城に向かって歩けばすぐ見つかるぞ」
「「……」」
まさか大通り沿いにあるとは思わなかった。流石、高級宿だな。そんな場所の宿を定宿にしているレイアの両親って結構凄いハンターじゃないのだろうか。
「そういえば、スキル屋の件ありがとうをございました。無事、買う事ができました」
「えっ。スキルを買ったのかい」
「はい、買いました。更紗さんが言ってた通りハンパなく高かったです」
「そうだろう。まさか買うとはね、諦めると思っていたよ。なにを買ったか聞いても良いかい」
「魔法は高くて断念して、次点の釣りを買いましたよ」
「釣り……なのかい。君らしいといえば君らしいが、なぜ釣りなんだい」
「もちろん! さくらに美味しいお魚を食べさせてあげる為です。残念ながらその恩恵を受けているのは、今の所ペン太だけですけどね」
「ミャッ!」
「クェッ!」
さくらは嬉しそうに、ぺん太はたいして恩恵なんて受けて無いといった顔をしている。フフフ……次こそは食べ切れない程の大物を釣り上げて、浮かばぬアングラーと言われた実力見せてやる。
「アハハハ。君は本当に面白いな」
何が面白かったのか良くわからなかったが、取り敢えず、宿の場所を教えてもらった事にお礼を言って宿に向かった。
旅人のヤドリギは本当に大通りに出て、お城の方に向かって歩くとすぐに見つかった。宿というよりホテルだな。レンガ造りの立派な建物。フロントにレイアが話を聞きに行き戻ってきた。
「お客様の事に関しては話ができないそうです」
個人情報保護法かよ。個人同士頻繁に遣り取りできる環境ならいざ知らず。手紙すら満足に流通していない場所でどうしろと。仕方ないちょっとお話してくるか。
「すみません。彼女の両親が手紙でここにいると伝えてきたんですよ。それでも相手に伝えてくれないのですか?」
「申し訳ありません。それがここの決まり事ですので」
「それ泊まってる客、全てに説明してるのだろうな」
「……」
「遠くからわざわざ訪ねて来た人間を追い返したって客が聞いたら、どうなるんだろうな」
「……」
「おい、どうした。何があったんだ」
「オ、オーナー」
出てきたのはクマでした。デカいマッチョなクマがタキシードを着ている。
「マクモンさん?」
「いや、俺はハクモンだが……マクモンの知り合いか?」
なんという事でしょう。俺とレイアはお互いを見て固まってしまった。
「ガハハハ。そうかいつもマクモンの後ろに隠れてた、あのちっちゃなお嬢ちゃんか」
「すみません。覚えてなくて」
「なぁに、まだガキの頃の事だ仕方ない。気にするな。それよりばーちゃんは元気にしてるか」
「はい。おばさまは特にこの頃はお元気です」
「おばさまって言う柄じゃないが元気ならそれで良い。今度、ひ孫連れて遊びに行くって言っといてくれ」
「はい。必ず」
「それで、ここに来たのはどんな用だ」
「両親がここに居ると手紙で書いていたので会いに来ました」
「名前は?」
「アストライアーです」
「ほう。あの人達の娘だったのか。確かにあの二人はばーちゃんの紹介だったな。残念だが今は居ないぞ。依頼で遠出してる。いつ戻って来るかは聞いてないな」
「ここに戻っては来るのでしょうか?」
「部屋は解約してないし荷物もそのままだからな、戻って来るつもりはあるんじゃないか」
「伝言だけでもお願いできませんか」
「構わないが、ハンターなんだから必ず帰って来るという保証はないぞ」
「わかっています。私も両親と同じハンターになるつもりなので」
「そうか、わかった。帰って来たら必ず伝える」
「おりがとうございます」
「良いって事よ。ばーちゃんの知り合いなら尚更、断れないしな」
レイアのご両親に会えなかったのは残念だが、伝ができたので良しとしよう。
さぁ、レイアが言った通りハンターになりにギルドに行こうか。
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