19 ドルグの店と六三亭

 ログインしたらルグージュの街は夕暮れ時だった。うさ子はちゃんと俺の横に居る。


 ステータス画面を見るとメールが届いていたので確認する。こんちゃんからで精算が終わったので来て下さいとある。ログインしているようなので、さっそくチャットで今から行くことを伝え店に向かった。


 店の扉を開け中にはいると、ドスの効いた声で声をかけられた。



「何がほしいんだ、さっさと言え」



 白い粉か葉っぱ……錠剤でも? なんなら黒い星でも構いません。


 声をかけてきたのは、見た目どこぞのマルボーロさんですかって感じ。やばいです。目で人を殺せると思われる程の威圧感。



「こんちゃん……さん、いらっしゃいますか?」


「こんに何の用だ」



 てめぇーうちの娘に手ー出したら。どたまカチ割って仙台港に沈めんぞ!


 おかしい……幻聴が聞こえる。頭痛が痛い、腹痛が痛い、腰痛も痛い、発汗で汗をかいている。自分で何を言ってるか理解できない。これは異常状態? 何かのスキルか?



「師匠! 何やってるんですか! ルークくん大丈夫!」



 はっ! 俺は今まで何をしていた?



「あれほど、お店に来た人に幻術を使ったら駄目って奥さんに言われてますよね! このことは報告はさせて頂きますからね!」


「ふんっ! 勝手にしやがれ!」



 やはり異常状態だったのか……客に幻術を掛けるなんって非常識極まりない。



「ルークくん、ほんとにごめんね。私の師匠、偶にやるのよね」



 偶にやるんかい! 


 この店のオーナードルグさん、こんちゃんの師匠でタヌキール(狸獣人)のハーフで幻術は種族固有スキルだそうだ。クッ、羨ましくなんかないんだからな。



「なんだ、てめーが素材を売りに来たって奴か。可愛い奴って聞いてから女と思ってたぜ」


「何言ってるんですか! 師匠ちゃんと見て下さい! こんなに可愛い子滅多に居ませんよ!」


「キュッ?」



 こんちゃんがうさ子を抱きかかえドルグさんに見せている。うさ子をね……。


 少しの間だったがこんちゃんはドルグさんに、うさ子の可愛さを懸命に説明してた。ドルグさんは面倒くさい顔をしてすぐに退散したけどな。


 こんちゃんはうさ子とのスキンシップに満足したところで、この間の精算をしてくれた。渡したアイテムに結構な数のレアがあったらしく良い金額になった。一気に懐に余裕ができたので良い装備品がないか聞いてみる。


 今の装備を見たいと言われたので、渋々怪しい人装備を見せた……。



「すごく良い装備ですね。この装備の上位互換の品はうちでは無理です」



 やはりそうか腐っても鯛、課金で手に入れたレア装備のことはある。



「なので、それ以外の装備を考えてみましょう」



 そう言って何やらごそごそして、幾つかの服と靴をだしてきた。その中から、水風船綿の服とレイントードのブーツと言う品を渡してきた。



「今、私が作れる物で一番良い品です」



 水風船綿の服は防御力は大したことはないが、熱耐性がついている。常時涼しいらし。


 レイントードのブーツは特殊な効果は無いが、防御力がそこそこありレイントードの性質で水を弾くので悪天候の時に重宝するらしい。



「それとこれをうさ子ちゃんに……お、お代は結構です!」



 赤いリボン 火中蜘蛛の糸を利用して作られおり、火耐性効果がある。


 こんちゃんは嬉しそうにうさ子の左耳にリボンを結び頬ずりしている。


 おっ! うさ子がとっても女の子っぽく見える。リボンひとつでこうも印象が変わるのか。


 お代を支払い、またお願いしますと伝えると二本のブラシをくれた。普通のブラシと仕上げ用ブラシらしい。これもくれると言っている。


 何度もお礼に頭を下げて店を出た。もちろん、うさ子の頭も下げさせた。



 一旦、宿に行こうと思ったらボイスチャットの着信音がなった。【優雅高妙】のひなさんからだ。


 街に戻って来たので夕食のお誘いだった。こないだの六三亭で待ってると伝えておいた。


 六三亭に着き席を確保すると。



「あらぁ~。うさ子ちゃんとっても可愛いくなったわねぇ~」



 と言って店員さんと女将さんはうさ子を連れて行ってしまう。俺には一言も無しかい!


 先日、マクモンさんと来た時にうさ子に異常状態【魅了】にされた女将さんが、店に来た時にうさ子を預けてくれたらお代をまけてくれると言うので即決でOkしたのだ。


 うさ子も店に来る女性プレイヤー、NPCにちやほやされてまんざらでもない様子なので気にしない。うさ子のえさ? 代も浮くしな。



「「「「お疲れー」」」」



 そうこうしてるうちに【優雅高妙】の皆さんが到着した。



「えーなんでー、うさ子ちゃんがここにいないのー」


「アルバイトです」


「まりゅりゅショックー。つまんないー」



 まりゅりゅさんや、そんな身も蓋も無いこと言うんじゃないよ……俺泣くぞ!


 店員さんに酒と料理を注文してエールが届き、乾杯するとそそくさとまりゅりゅはうさ子の所に行ってしまった。


 プルミには既に言ったがひなさんとコッコに、こないだの件のお礼を言っておく。ついでに、さっきまでこんちゃんの所にいた事も話した。



「そう。あれをやられたのね……」


「あの親父、気にいらないとすぐやるからなー」


「奥さんにやめる様に言われているんだがな」



 あの親父さんやはり常習犯のようだ。衛兵さんは捕まえてくれないのかな?


 レベル上げの帰りにPKにあったことも話した。どうなったか聞かれたので瞬殺でしたよ、と答えておく。うさ子がですけどね。


 話が進むうちに【優雅高妙】も、そろそろこの町を出て次街に拠点を移すと話してくれた。


 この町からは三つ進むルートがあるので、

どこに行くか迷ってるらしい。近々、コッコのお兄さんが合流するのでその時決めたい言っている。



 町を離れるなら今後被る事も無いと思い、この辺で良い狩場がないか聞いてみた。


『トレインして自爆か? と思わせておいての無双しちゃったよ作戦』がプレイヤーから苦情がきているので、無理にやると目を付けられそうなのであきらめたからだ。精神的に辛いが、結構美味しい狩り方なんだけどな。



「やっぱり西の森の遺跡じゃない?」


「誰でもそう思うからいつも混んでるじゃん」


「東は論外だしな。となると、南西の森か遠いが北のデオン山しかないな」



 東はテオール帝国と言って普人族至上主義の国になり、国境越えた辺りはクルミナ聖王国側のPKと帝国側のPKとの間で紛争状態になっているそうだ。


 南東の森は次の街であるイーリルと言う港街につながる街道にあり可もなく不可でもない場所、北のデオン山は鉱石を採掘できたりするが歩きで三日程掛かる。



「金策はできないが、経験値を稼げる場所なら一つ心当たりがある」


「まさか! あそこの事を言ってるの?」


「なるー。ルークって魔法(光)持ってるからある意味、最高の狩場じゃん」



 うーん。嫌な予感がしてきた。聞けばやはり墓場でアンデット狩りだった。


 この街の門を出て壁沿いに南に行くと大きな墓地があるらしい。過去の帝国との戦争やモンスターとの防衛戦で亡くなった兵士やハンターが葬られた場所で、夜な夜な恨みや無念でアンデットが徘徊すると言う設定らしい。


 プレイヤーに人気が無いのは、夜限定なのとドロップアイテムをほとんど落とさない事、そしてゾンビ系は臭いし汚いので皆敬遠するから誰も行かないとの事。



 お金は今の所、問題は無い。場所はすぐそこだし、相手の弱点属性の一つが使えるから意外といけるか?


 アンデットが出る時間までまだあるので食事しながら考えよう。




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