17 こんちゃんさん?

 あんなに対人戦がきついとは思わなかった。


 レベル差があったとはいえ、あそこまで手も足も出ないとは。戦術を練り直す必要があるな。


 取り敢えず、街に戻ろうか。


 ステータス確認して気づいたんだが、魔法(時空)Lv1 を覚えていた事を先程までてんで忘れていた。これ使えばPKも回避できたんじゃね? 既往は咎めず。そういう事なのでさっそく使ってみる。


 一瞬、視界が歪むと街の中に立っていた。ここはルグージュの町の噴水広場の北にある転移ゲート広場だ。すげぇ超便利! 帰りしか使えないがこの魔法最高じゃねなんて思っていたが、この後に転移石なる物があり普通に使われている事を知り、唖然とした事はまた別の話。


 メニューを開き舞姫さんとパーティー【優雅高妙】の誰かがログインしてないか見ると、まりゅりゅとプルミがログインしていたのでボイスチャットで今から会えないか尋ねると、すぐ近くにいるので噴水広場前で落ち合う事になった。



「さっきぶりー」



 噴水広場前で待ってると、気の抜けた声と共に二人が姿を現した。



「殺気振り?」


「ちーがーうー。さっき別れたばかりだからー」



 あっ、成程、彼女達ログアウトしていたのでゲーム時間と現実時間に時差がでているのだ。


 ゲーム内時間で一日は現実時間で三時間程だ、昨日の夜に別れたので彼女達からみれば、さっき別れたのと変わらない。


 考えて見れば自分も六時間以上ログインしている。連続九時間を過ぎると運営側からログアウトするように警告が来て、三十分以内にログアウトしないと強制ログアウトになる。ログアウト後は連続でログインした時間によってインターバルを取らないと再度ログインできなくなる。


 休み中とはいえ、一度ログアウトするか?



「それで、どうしたんだ? 何か困り事か?」


「すみません忙しい所呼び出しちゃったりして」


「いや、別に忙しく無いから気にしなくていいぞ」


「そーだよー。ひなさんとコッコは今日はログインしないから、二人とも暇なのだー」



 そうか、ひなさんとコッコは来ないのか。



「昨日の件でお礼が言いたくて」



 と言ってるそばから、うさ子をモフモフしている。聞いてないな……。



「うさ子ちゃんって名前付けたんだー」


「付けたというか……勝手に付いた?」


「可愛くて良いと思うぞ、それから礼は不要だ。ルークはうさ子を提供し、我々は飯を奢った。それだけだ」



 なんて男前なんでしょう。が、うさ子は提供したつもりは無いんですけどな。



「ありがとうございます。ついでにドロップアイテムを買い取ってくれる職人紹介してもらえませんか? 知り合いになった職人さん次の街に行っちゃって」


「我々の知り合いで良いのなら紹介はするぞ」


「よろしくお願いします」


「うむ。ちょっと待ってろ」



 どうやらプルミは誰かに連絡してくれている様だ。


 しかし、まりゅりゅさんや、あんた人の話聞いてねぇだろ? どこから持ってきたか知らないが、いつの間にかうさ子にブラッシングしてるし。うさ子も目を細めて気持ち良さそうにしている。ブラシどこで売ってるんだろう?  後で聞いてみよう。



「一人と連絡が取れた。今から来ても良いそうだ。行くか?」



 問題ない事を伝えると相手と一言二言話した後、ついてくる様言われたのでコブの付いたうさ子を引っ張ってついて行ったよ。離れろよ……まりゅりゅ!


 どうやら露店街ではなく、職人街に連れて行かれるみたいだな。程なくして一軒の店の前に着いた。



「ここだ」



 店の名前は『ドルグの店』とある。正直何の店かパッと見分からない。


 プルミが勝手知ったる他人ひとの家とばかりに店に入っていった。



「何してるのー? 入らないのー?」



 入って良いか躊躇していた俺にまりゅりゅが聞いてきたので



「入って良いんですよね……?」


「良いんじゃないー?」



 って、どっちやねん! などとやっていたらプルミが店から出てきて、さっさと入れ! と怒られた。


 中に入ると、武器や防具が所狭しと陳列してある。


 カウンターにプルミと知らない女性プレイヤーが居る。



「こっちがさっき話したルークだ」


「初めまして、こんちゃんって言います」


「こんちゃん……さん? よろしくお願いします」


「さんはいらないので、こんちゃんと呼んでくれて構いませんよ」



 ひなさんといいこんちゃんといい紛らわしい。ひな、こんで良いと思うけど。


 取り敢えず、事情をせつめいして買い取りしてもらえる事になった。


 それからこんちゃん、うさ子をモフモフするのは全て終わってからにして下さいね……。


 先ずはじぶんのストレージ内の肉類等を除いた素材アイテムを渡す。



「えっ? ちょ、ちょっと待って下さい。どれだけあるんですか!」


「うーん、 一杯? うさ子もあるよね?」


「キュ!」



 肯定の様だ。



「あのー今すぐ買い取りは無理です……」



 急いで無いから良いですよ。


 どうやら、一人では捌ききれないのでこの店のオーナーや、職人仲間で分ける事にするそうだ。店の倉庫が使えるそうなので、うさ子のアイテムも一緒に渡しておく。後日、連絡をくれる事になったのでフレンド申請をして別れた。


 二人にこれからどうするのかと聞くと結局する事が無いので、ログアウトして明日の朝からまた四人で行動するらしい。なので、二人に礼を言って今度また一緒に食事をする事を約束し二人とも別れた。



 一度ログアウトしよう。


 ん? ふと、自分がログアウトした場合、うさ子ってどうなるのだ? そんな疑問が浮かぶ。


 うさ子って、テイムモンスターではないよな? パーティーに出たり入ったりしてたけどどうなるんだ?


 考えていても仕方がない。わからないなら、わかる人に聞けば良いだけの事。GMコールを使ってみよう。


 ふと、頭に魔王様ラヴィーちゃんの顔が浮かぶ。


 一抹の不安を抱えたまま、GMコールをする事にした。



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