第27話 いざ、駿河へ

 遠江に戻った俺たちは、飯尾豊前守さん、さらに松下嘉兵衛さんから、改めて褒美を貰った。

 川中島まで兵糧を運んだ手柄と、武田軍の食糧事情を改善した功績、その両方が認められ、金500貫を貰ったのである。



《山田弥五郎俊明 銭 3285貫0文》

<最終目標  30000貫を貯めて、銭巫女を倒す>

<直近目標  今川領に潜入し、情勢を探る>

商品  ・火縄銃       1

    ・パームピストル   1

    ・甲州金      10



 と同時に、先日、尾張に送っていた硯と陶器についての知らせも入ってきた。

 硯は、やはり多くは売れない。しかし質が良いので一定の需要はあり、わずかだが儲けは出たとのことだった。

 硯がひとつにつき、7貫。それが30個売れたので、210貫。

 俺は、硯の売上を嘉兵衛さんと折半する。これで105貫の収入。



《山田弥五郎俊明 銭 3390貫0文》

<最終目標  30000貫を貯めて、銭巫女を倒す>

<直近目標  今川領に潜入し、情勢を探る>

商品  ・火縄銃       1

    ・パームピストル   1

    ・甲州金      10



 なお、陶器のほうは売れなかった。

 尾張には安くて質の良い陶器が大量にあるので、なかなか金にならないのだ。

 陶器はいま、神砲衆の屋敷の土倉に眠ってしまっているらしい。


「まあ、腐るものでもないし。気長に売っていこう」


 と、嘉兵衛さんは言ったが……。

 なんとかできないかなあ、これ。




 ともあれ、商売は順調であった。

 このころになると一定の交易ルートが出来上がったのだ。


 まず、尾張と美濃で針と鋏を仕入れ、三河で岡崎城の鳥居さんに売る。

 次に鳥居さんから味噌を仕入れて、浜松で売る(浜松は味噌の相場が少し上がっていた。俺が川中島でへぼ五平のレシピを武田軍に提供した結果、おおいに受けたので、武田軍が味噌を大量に同盟国の今川家から仕入れたためだ)。

 そして浜松では塩が安いので、これを仕入れ、再び尾張と美濃まで持っていき、これを売る。


 俺は神砲衆のメンバーに命じて、この交易を繰り返させ、銭を稼いだ。


【針 20文】を1000仕入れ、【針 24文】で売却。4貫の儲け。

【鋏 220文】を1000仕入れ、【鋏 660文】で売却。440貫の儲け。

【味噌 64文】を1000仕入れ、【味噌 98文】で売却。34貫の儲け。

【塩  18文】を1000仕入れ、【塩 41文】で売却。23貫の儲け。


 これで501貫の儲けだが、これを3回繰り返させることで、合計1503貫の儲けになった。



《山田弥五郎俊明 銭 4893貫0文》

<最終目標  30000貫を貯めて、銭巫女を倒す>

<直近目標  今川領に潜入し、情勢を探る>

商品  ・火縄銃       1

    ・パームピストル   1

    ・甲州金      10



 さらに、だ。


「梅五郎、鉄砲は調達できぬか」


 飯尾豊前守さんが、ある日、俺に依頼してきた。


「甲斐の屋形(武田晴信)が鉄砲と弾薬をお求めだ」


「武田の殿様が?」


「うむ。先日、川中島のほうで大きな戦があっての、武田軍の武器がずいぶんと痛んだらしい。特に鉄砲はなかなか調達できずに困っておるとのことだ」


「それはひょっとして、さい川の戦いではありませんか?


「おう、よく知っておるな。さすがは梅五郎、耳がはやいの」


 飯尾さんは目を丸くした。

 俺は褒められて、ちょっと顔を赤くした。


 1555(弘治元)年、7月19日。

 長尾景虎の軍が犀川を超え、武田晴信の軍と衝突。

 これを犀川の戦いと呼ぶ。――この戦いには決着がつかず、引き分けだったという。


「しかし武田軍のほうが、やや優勢だったという報告が多い」


「そなたのへぼ五平のおかげかもね、梅五郎」


 嘉兵衛さんが、ニコニコ顔で言った。


「……それで、話は最初に戻る。武田軍と長尾軍の、川中島におけるにらみ合いはまだ続いている。武田軍は今回の川中島の戦いにおいて、最初のうちに鉄砲隊を使って戦ったりしていたが、使いすぎていよいよ鉄砲にガタがきた。弾薬も尽きてきている。再び、鉄砲と弾薬を補給しなければならないのだ。そこでこの飯尾豊前守が、甲斐の屋形に代わり鉄砲と弾薬を仕入れると、そういうわけだ」


「なるほど。そして仕入れには、この梅五郎の出番というわけですね」


「そういうことだ」


「わかりました、やりましょう」


「やってくれるか!」


「然るべき代金さえいただければ、それはいくらでも」


 俺は笑みを浮かべて言った。

 さて、代金の件だが――


「ふむ。……それぞれの相場は尾張ではいかほどかな?」


「【鉄砲 90貫】【鉛弾 40文】【黒色火薬 980文】といったところですね」


「さすがに鉄砲はなかなかの金額じゃな。ううむ、どうしたものか」


「お金を払うのは武田側でしょう? 飯尾さんが悩むこともないのでは?」


「おう、それもそうか。そうだったそうだった」


 飯尾さんは、ぽんと手を叩いた。


「では梅五郎、相場の2割増しで鉄砲と弾薬を買い取ろう。それならば、そちもなかなか儲かるのではないか?」


「お心遣いありがとうございます。それではそうします」


 飯尾さんの言う通り、2割増しなら充分だ。

 それに……黒色火薬、俺たちなら安く自作できるしな!


 こうして俺は、津島の神砲衆屋敷に使者を飛ばし、火縄銃と鉛弾、火薬を用意して運んでくるように依頼した。

 鉄砲を300丁、鉛弾3000発、火薬1000袋を武田晴信は求めているということだ。

 けっこうな量だったが、しかし神砲衆の面々が尾張や美濃を駆け回った結果、依頼は実行され、鉄砲と弾薬は用意された。


【鉄砲 90貫】を300仕入れ、【鉄砲 108貫】で売却。5400貫の儲け。

【鉛弾 40文】を3000仕入れ、【鉛弾 48文】で売却。24貫の儲け。

【黒色火薬(自作) 216文】を1000仕入れ、【黒色火薬(自作) 1176文】で売却。(火薬は本来の相場・980文の1.2倍で売ったのだ)960貫の儲け。


 合計、6384貫の儲けになった。



《山田弥五郎俊明 銭 11277貫0文》

<最終目標  30000貫を貯めて、銭巫女を倒す>

<直近目標  今川領に潜入し、情勢を探る>

商品  ・火縄銃       1

    ・パームピストル   1

    ・甲州金      10



 えらい一気に金が増えた。

 大名を相手に取引をすると、やはり儲かるなあ。

 それに部下がいるのも大きい。神砲衆の面々がよく働いてくれるので交易でどんどん儲かるのだ(なお神砲衆の面々の生活費や経費は、津島に残しているメンバーが稼いでくれている。炭団たどんの作り方とか、火薬の作り方を彼らには教えたので、それで生活を成立させているのだ)。


 数年前、炭を売るだの売らないだので苦戦しまくっていたのが嘘のような金儲けぶりだが……

 まあ世の中、そういうもんだ。0から1にするのがなにより大変なんだ。一度、勢いがつけば、物事はどんどん進んでいく。金が金を産んでいく。そういうもんだ。

 21世紀の富裕層が、株の配当や預金の利息だけで億単位の金を得たり、あるいは商売をやっても大量仕入れで安くものを購入できて、並の小売業を一蹴できたりするようなものだ。古今東西を問わぬ真実、それは一度金持ちになったら、より金儲けが容易になるということだ……。


 さて、俺たちが仕入れた鉄砲は、予定通り飯尾さんが買い取って、今川家の兵たちと一緒に武田領へと運んでいった。

 前回は兵糧の運送だけだったので、俺たちに任せられた仕事だが、今回は鉄砲や弾薬など貴重な品が多数あるので、今川義元自身が万事ぬかりなく手配したということだ。

 というわけで今回は、俺たちの出る幕はなさそうだ。


「しかし、今川義元か……」


 どんな顔をしているんだろう。どんな人物なんだろう。

 できれば、会ってみたい。俺はそう思った。


 今川義元といえば、織田信長に桶狭間の戦いで敗北してしまったため、暗愚な武将というイメージがある。

 しかし当然、そんなことはない。この時代のこの時点において、駿河、遠江、三河の三国を掌握し、政治、外交、戦争において常に結果を出し続けている東海一の弓取り、それが今川義元だ。いまは、駿河の駿府城にいるはずなのだが。

 どんな大名なのか。……武田晴信のときのように、遠くからでもいい。一目、見てみたいもんだな。




 そんな風に思っていると、ある日、嘉兵衛さんが俺に声をかけてきた。


「梅五郎。また仕事をしてもらいたいんだけど」


「なんなりと。なにをしましょうか?


「うん。……某、ちょっと旅に出るからね。ついてきてほしいんだよ」


「旅ですか。いったいどちらまで?」


 尋ねると、嘉兵衛さんはいつものニコニコ顔で言った。


「駿府城」

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