第62話 ボス戦3



「凄い……」

 

 シロたちの戦闘を見て、ユキは思わず呟いていた。

 シロが異常なのは今に始まったことではないが、今目の前で繰り広げられている戦闘を見てユキは驚きを隠せなかった。相手の巨大な金棒を二人とも難なくと避け、どちらかが攻撃をして反撃にあえばすぐにスイッチしてどちらかが再び攻撃を仕掛けるという戦法でシロとファングは徐々に鬼王のHPを減らしていった。その息の合った連携はシロとパーティを組んでいるユキたちから見ても凄まじいものである。

 さすがは元ギルメンという訳なのか、シルバーがBGOから姿を消して三年。その時間の経過を感じさせないコンビプレイをユキは感嘆と共に、どこか虚しくなってしまう。

 シロと一緒にBGOで行動を共にすること約二ヶ月、最初は二人共邪魔にならない程度のプレイを心掛けていたがフィーリアの加入したことで最近はパーティらしく出来ていた気がしていた。しかし、自分は彼の足手纏いにしかなっていないのではないだろうか、シロとファングの戦闘を眺めながらユキはそう思った。


「ユキ! バフ!」

「え? あっ、は、はい!」


 考えにふけっていると意識の外からシロの声が聞こえ、慌ててユキはシロに【支援魔法】を掛け直した。ユキから支援を受けてシロは再び、鬼王の元へと駆け出した。


(結局、私ってシロ君の役に立ててないのかなぁ)


 ただ【支援魔法】をかけて時たまに【ヒール】で味方のHPを回復させる。それだけしかできない自分がユキはとても歯がゆかった。

 ならば、ここから攻撃しようか、いやヘイトが止まることなく移り変わっている今の状況で自分が魔法を放てばヘイトがこちらに向く。接近されてしまえばユキにはどうしようも出来ない。その事実にユキは苦い顔をした。

 そんなユキの思いとは関係なく鬼王とシロたちの戦況は進んでいった。



☆☆☆☆☆☆



 真上から迫る金棒を紙一重で避け、ファングと入れ替わるシロ。入れ替わったファングは相手の懐に飛び込み、ジャブジャブ右スレートのコンビネーションを決め、鬼王のHPを減らす。攻撃を喰らった鬼王は顔を歪める。


 戦闘が開始して御分が過ぎた。シロとファングの息の合ったプレイで鬼王のHPバーは3割ほど減っていた。中々、相手の防御力が高いらしくシロの攻撃を受けても特段ダメージを受けず、ファングの攻撃がクリティカルヒットすれば1割減るといった具合である。

 なんとも歯がゆい思いをしながらも辛抱強く攻撃を続けるシロとファング。しかし、相手もシロとファングの速度に慣れてしまったのかさっきからシロたちの攻撃を喰らいつつも被害を最小限に抑えるような動きが目立った。非常にまずい空気をシロは肌に感じ取った。


『クラエッ!!』

「っと、くそ、一撃が早くなってきてる」


 両手剣を構えて突撃を試みるシロは視界の端から来る金棒を冷静に避け、一旦相手と距離を取る。鬼王の攻撃の変化にシロは舌打ちしたくなる。勘違いなのかシロの目には鬼王の行動が素早くなり、かつ一撃の重みも増しているように見えた。

 シロが考えていることをファングも感じており、ファングはシロと目を合わせ意思疎通を図る。シロもファングの視線を受け、頷く。


『ドウシタニンゲン? オマエラノ実力ハコノ程度カ?』


 シロたちの表情から何を感じたのか鬼王は最初とは打って変わって余裕そうにそう言い放つ。だが、シロは鬼王の言葉が聞こえていないのかまるで反応を見せなかった。それを見て鬼王は興味を失くしたのか『フンッ』と鼻息を吐くと一気にシロたちの間合いを詰めた。その瞬間、シロは大声を放った。


「フィーリア!!」

「はい!」


 シロの合図とともにシロの後方、ユキたちがいる方向から一本の矢がシロの横を通過する。矢はシロの横を通ると鬼王目がけて一直線に飛んだ。

 意識の外からの攻撃に鬼王は反応を遅らせた。しかし、矢が刺さる寸前で体を逸らし、急所となる部分を外すことに成功した。


『グッ、小癪ナ。シカシ、ソノ程度ノ攻撃デ……グハッ!?』


 突如、鬼王は全身から痺れるような衝撃を感じた。思わず、その場で膝をつく鬼王。それを見てシロはしたり顔をする。


「おぉ、ここまで強烈とはな、あいつの毒浴びてたらどうなっていたんだろうな?」


 悶え苦しむ鬼王を見ながらシロは遠い目をする。が、すぐに振り返りフィーリアのほうを見ると称賛した。


「ナイスフィーリア。指示通りだ」

「いえ、これくらいお安い御用です」


 ニコッ、と微笑みながら称賛を受けるフィーリア。


『イ、一体ナニヲシタ…』


 苦しそうな表情を浮かべながらシロを睨む鬼王。その視線が向けられていないのにエイミーは体をビクつかせた。


「別に? ただ毒矢で攻撃しただけだぜ?」

『毒、ダト……』


 なんでもないかのように言うシロの言葉を反復させる鬼王。フィーリアが放った毒矢はアサシンフロッグと戦った時の戦利品をモカの所に行ってフィーリア用に制作してもらったものだ。数は10本と数は少ないがその威力はシロの目の前で苦しんでいる鬼王のHPバーを見れば分かる。徐々に毒が効いてきたのか、ファングの攻撃を受けてもそこまで減らなかったHPバーが一気に半分ほどまで減ったのだ。先ほど鬼王が余裕をぶっこいている時にシロはフィーリアに対して『個人チャット』で毒矢を放つように指示と飛ばしていた。それが功を奏して見事に鬼王にダメージを負わせることが出来たのだ。


「……シロ、一気に畳み掛ける」

「了解です」


 いつの間にかシロの横に来ていたファングがシロに呟く。シロは小さく頷くとファングと一緒に鬼王へと駆け出す。苦しそうな顔を浮かべながらも鬼王はそれを迎え撃つ。シロたちが自分の懐に到達する前に鬼王は真上に跳躍した。


「……範囲攻撃だ」


 飛んだ鬼王を首を曲げながら見たファングがシロに知らせる。シロとファングは急いで攻撃の範囲外へと避難する。が、既に重力に従って落下している鬼王が橋の上に着地する瞬間だった。


(やべっ、間に合わない)


 落下する瞬間の鬼王を見て、シロは冷静に判断を下していた。すると、ダメージを覚悟したシロの右手が何かに引っ張られる感覚に陥った。それと同時にシロの体がふわり、と浮かび上がる。


 ズドンッ!


 シロが体に変化を感じたのとほぼ同時、鬼王の巨大な体躯が橋の上に着地する音がフィールドに木霊した。その光景をシロは空中で眺めていた。いや、空中でファングの手を掴んでぶら下がりながら見ていた。


「……間に合った」


 【天駆】でその場でジャンプしながらファングはゆっくりとシロを元いた場所に下ろした。シロは少しばかり呆然としたがすぐに我に返るとファングにお礼を述べる。


「ありがとうございます」

「………気にしなくていい」


シロのお礼に相変わらずの無表情で返すファング。三年経っても変わらない態度にシロは可笑しそうに笑った。戦闘に集中しているファングに愛想よくしろというのは無理な話である。


『グオオオオオ!!』


 またもや攻撃が失敗したのを見て鬼王の咆哮がシロの意識を遮断させた。シロは目の前で怒りの形相を浮かべる鬼王を見る。その顔は、小さい子にはまず見せられないひどいものであった。しかし、そんな顔に怯える様子を見せずシロとファングは自分の得物を構え、鬼王へと地面を蹴った。

 まずは、ファングが高速移動で鬼王との間合いを詰める。だが、鬼王もファングのスピードに慣れたのか間合いを詰めると同時に金棒をファングの横から殴りつける。ファングはそれを軽くジャンプしてかわすと【天駆】で空中を蹴り、鬼王の顔面前まで行く。が、鬼王はそれにも反応を見せ、大きな口を開き、鋭い牙で迫るファングを食いちぎろうとした。


「ていっ!」


 しかし、その攻防の下でシロは鬼王の足元へと辿り着くとその太り足を斬りつけた。慣れた手つきで相手の機動力を奪うとシロは背後に回り、がら空きの背中に連撃をくらわした。


『グオッ』


 それによってバランスを崩した鬼王はファングを食いちぎるために開けていた口が明後日の方へとずれた。障害がなくなったファングは鬼王の顔へと近づくとそのデカい顔へと攻撃を放った。


「【インファイト】」


 スキルを口ずさむとファングの拳と足に光が出てきて、凄まじい速さで鬼王の顔面に連続攻撃を叩き込んだ。一体何発入ったのかわからない攻撃を受け、鬼王は体をのけぞり最後の一発入ったところで地面に倒れた。




 鬼王のHPバーが残り三割を切った。

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