第59話 探索7



 ユキが持つ白狐ホワイトフォックスから水色の光が溢れるとそこからシロたちを隠すように巨大な水の壁が現れた。


『GEEEEEE!!』


 突如現れた津波に驚いているのかロックゴーレムたちの叫び声が部屋に木霊す。しかし、津波はそんなロックゴーレムたちを覆いつくすように取り囲むとその体躯を叩きつけた。


「走れ!」


 シロの合図に一斉に駆け出す四人。先頭をファング、シロとしてわき目も触れず奥にある扉目がけて足を進めた。

 ユキの持つ攻撃範囲魔法、【津波ビックウェーブ】を受けてロックゴーレムたちは津波に飲み込まれ、奥の壁へと押しやられた。しかし、防御が高いロックゴーレムたちの半数は一撃では倒せずにいたが体勢を崩すことには成功した。シロは再び、ロックゴーレムたちが襲い掛かる前に扉に辿り着くことが理想だが__


「……リポップ」

「そう簡単にはいかないよな」


 目の前に出てきた光と共に複数のロックゴーレムがシロたちの前に現れた。シロは両手剣を構え、刃先を相手に向ける。横のファングもシロ同様、拳を固め相手に駆け出す。

 一気に間合いを縮めたファングは間髪入れずに相手の体に風穴を開けた。シロも攻撃を仕掛けられる前に相手を斬りつける。


「ユキ、フィーリア! 絶対に離れるなよ!」

「うん、分かった!」

「離れません!」


 斬撃を決めたシロは振り返らず走りながら叫ぶ。一度でも立ち止まればこの集団に捕まる。生憎とシロとファングでさえ、この数を相手にするのは分が悪い。ユキとフィーリアを助けながらなど論外である。二人には自分の力でこの苦境を乗り越えてもらわないといけなかった。

広い部屋を駆ける四人を襲い掛かるロックゴーレムたちをシロとファングが殴る、斬ると繰り返す。一撃で決まるならまだしもシロみたいに一撃で決まらない場合は構わず先を進む、じゃなければここは突破できないのだ。

 扉まであと数メートル、もう少しで手が届く所まで来たシロたちをロックゴーレムの壁が立ちはだかる。


「くそっ!」

「……あれは、一撃じゃ難しい」

「でも、ここで立ち止まったら」


 後ろのほうに視線をやり二人を見るシロ。その視線を受ける二人は力強く頷いた。どうやら覚悟は出来ているようである。シロはその意志を感じ取るとファングのほうを見た。


「ファングさん、このまま行きます」

「……いいのか?」

「はい!」

「問題ありません」


 ファングの言葉に威勢よく返事する二人を見てファングも決心を固めた。


「……よしっ」


 三人の強い意志に当てられたファングは深く息を吸い込むと一気に前へ飛び出した。扉の目の前にいるロックゴーレムの集団に立つとファングは全身に力を加える。


「【制御解除オーバーヒート】」


 スキル名を口にしたファングの体からオレンジ色のエフェクトが放たれ、そのオーラをユキとフィーリアは興味深そうに眺め、シロは人知れず口角を上げた。

 【拳神】スキル、シロの持っている【体術】スキルの最上位互換であるそれは己の体を武器として戦う拳闘士系のプレイを志している者が目指す最高峰である。その技の一つ、【制御解除オーバーヒート】は自身の攻撃力を50%上昇させる攻撃特化のスキルである。ファングはその上昇された攻撃を全力で前に立っていたロックゴーレム一体にぶつけた。


 ズドンーーーッ!!


 強化された拳で集団の一番前にいたロックゴーレムに攻撃を仕掛けたファング。その拳から爆音が木霊し、殴られた味方の後ろに集まっていたロックゴーレムたちを巻き込みシロたちの前で爆ぜた。


「そのまま突っ込め!! 【番狂わせキリングジャイアント】」


 ファングが開いた突破口を駆け出しながらシロも自分の十八番を発動させる。全ステータスを上昇させたシロは愛剣で攻撃を逃れシロたちに襲い掛かる敵を殲滅しにかかる。ユキとフィーリアには敵を無視するように言ってあるのでそのまま二人はシロとファングについて走る。

 そうして、前を走る続けるとファングの前にお目当ての物が視界に映り込んできた。

 

「……扉だ!」

「ユキたちはそのまま走れ!」

「シロ君は!?」

「十秒稼ぐ」


 扉へと辿り着いたシロたちであったがシロはユキたちを先に行かせ背を向ける。辿り着いたのはいいが扉はどう見ても頑丈で重い。開けるのにも時間がかかるのは分かった。瞬時にそう判断したシロはユキたちに扉を開けるように指示を出し、その間ユキたちにロックゴーレムたちが襲い掛からないように殿を務めることを進言した。

 先にユキたちを行かせたシロは剣を構えて気合を入れ、向かってくる敵に逃げることなく攻撃する。だが、数で押し切られてはさすがのシロでも勝てない。時間稼ぎを目的に動き出し、相手からの攻撃を出来るだけ避け、必要ならば隙をついて剣を振るった。


「シロ君!!」


 きっちり10秒後、シロの背後から聞き慣れた透き通る声が耳に入る。振り返ると人一人が入れるくらいまで開けられた扉の前でユキがシロを呼んでいた。扉の向こうでは先に入ったのだろうファングとフィーリアの姿があった。相手の攻撃を防いでいたシロは剣を押し体勢を崩させると横一線で剣を振った。

 相手から一気に距離を離れたシロは全速力でその場から離脱を試みる。背後からはロックゴーレムたちが追いかけてきており、地面が激しく揺れる。先に扉に入ったユキとフィーリアはシロを援護するように遠距離攻撃をシロに当たらないよう配慮して繰り出し、追っ手の足止めを図った。


「おおぉぉぉぉ!!」


 とにかく全力で地面を蹴るシロは扉に近づいた瞬間、開いている空間にヘッドスライディングした。


「閉めろ!」


 シロが扉に入ったのを確認するとファングが声を張り上げる。片方をファング一人がもう片方にユキとフィーリアが扉を押して閉めようとする。その間にもロックゴーレムの集団はシロたちへと走り込んでくる。そして、集団の先頭があと数歩で扉に辿り着くという所で。


 バタン!


 重々しい閉鎖音が鳴り、扉が完全に閉められた。扉が閉められさっきまでシロたちに敵意を向けていたロックゴーレムたちの姿がシロの視界から消え去った。残ったのは荒い息を吐く四人の男女だけとなった。


「「「「はぁ〜」」」」


 閉められた扉を前に呼吸を整えた四人が発した第一声は見事なまでに完璧にハモッたのであった。

 

 

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