第51話 発見
ファングの実力を目の当たりにしたシロたちは再び殺風景な山道を歩くこと三十分、ようやく《オルス山脈》の三分の二ほどの距離まで登り詰めていた。道中、幾度となくロックゴーレムやウミュードルたちに襲われそうになったが空の敵はファングが地上にいる敵はシロが前衛として戦い、ユキとフィーリアはサポートする形で難なく倒して来た。そして今、シロたちは休憩タイムへと入っていた。
「はぁ~、それにしてもどこにいるんだろうね鬼の住処って」
「どうも、この辺りにあるはずなんだけどなぁ」
シロたちがエイミーの救出に向かった村人の一人から聞いた話だとどうやら鬼は《オルス山脈》のどこかに洞窟があってそこを住処にしているらしい。しかし、シロたちは今だに見つけられないていなかった。
「……元々、この辺に洞窟なんてないからすぐに気づくかと思っていた」
このフィールドを熟知しているファングでさえ、洞窟が見つからないのは想定外だったようである。ここまで来る途中で洞窟らしい穴は発見出来ていなかった。、見落としてはいないはずなのだが。
「そうですね、一体どこにあるんですかね?」
フィーリアも顎に手を当てて疑問を述べる。
「こうなるんならもっと詳しく話を聞けばよかったか?」
「……かといって、あれ以上の情報は聞き出せないと思う」
「ま、そうかもですね」
「え? 何で?」
シロとファングの会話にユキが意外そうな顔を向ける。だが、二人はさして当たり前かのように続ける。
「いや、だって洞窟を探して鬼を倒すまでがクエストだろ」
「……だったら簡単に見つかるような情報は与えられないはず」
「というわけで、必要最低限の情報で俺らは洞窟を探さないといけない」
「へ、へぇ~」
流れるような繋ぎでシロとファングが考えを言うとユキは引きつった笑みを浮かべた。さすがは元ギルメンというべきか息がぴったりである。
「でも、これ以上進んだら頂上に着いちゃいますよ?」
「……ちなみにここは火山って設定だから火口が見られる」
「え! 何それ見てみたい!!」
「いや、今それどころじゃないだろうが」
ユキにツッコみをしながらシロは改めて村人からの証言とクエスト内容を頭に並べる。
まず、鬼が村から金品を強奪し、さらにエマの姉を奪い逃走。村人たちで《オルス山脈》にあると言われる鬼の巣にエイミーを救出しようとするが失敗。鬼の住処は今シロたちがいる場所に近い所に存在する。そして、今現在シロたちはその住処を見つけられずにいた。
「……前提条件が違うのか?」
小声でぶつぶつと考えを唱えるシロの顔をユキとフィーリアが覗き込むのが視界に入った。ついでに二人に質問をしてみることにした。
「お前ら、洞窟ってどんなと思う?」
「ん? そりゃあ、暗くてジメジメしたとこ?」
「でも、鍾乳洞みたいに綺麗な所もあると思いますよユキちゃん」
二人の応えを聞いてシロはなるほど、と頷く。それを見て三人は首を傾げた。何も特別なことを言っているわけでないと思ったからだ。
「何かおかしいこと言った? 私たち」
「いいや、ユキとフィーリアの考えが一般的だろう」
「それなら、何か気づいたのシロ君?」
「あぁ、まず村人たちがエイミーを助けようと鬼を襲撃したのは聞いたよな?」
「うん、でも失敗したって」
「そうだ。だけど、その後鬼はどうしたと思う?」
「どうした?」
「えぇと、シロ君、よく話が分からないんですけど……」
シロの話に混乱を隠せないユキとフィーリア。シロの質問の意図が分からない、だがそんな二人の傍でファングは細い目をわずかに見開かれた。
「……なるほど」
「え、何? ファングさん、何が分かったんですか?」
何かに気が付いたようなファングにユキとフィーリアが彼の方に顔を向けた。
「……もしもオレが鬼の立場なら、人に気づかれないように洞窟の入口を隠す」
「あぁ! なるほど、確かにそうですよね!」
ファングの一言にユキがポンッ、と拳を手のひらに叩いて納得顔をする。そんなユキに対してフィーリアがさらに疑問を投げかける。
「でも、それなら洞窟見つからないですよね?」
「それを探すのがこのクエストの難しさの一つだろう」
「そ、そうなんだ……」
「ま、策はある」
シロの言葉に少し顔を引きつらせるフィーリアであったがその対策を考えていた。シロはファングのほうに顔を向けて訊いた、彼自身にとっては分かり切っている質問であったが。
「ファングさん、感知系スキルって持ってませんか?」
「……持ってる」
シロの質問に首を縦に振るファング。シロが持っている【察知】も感知系スキルに入るがあくまで範囲内にモンスターやプレイヤーがいないのかが分かるだけだ。
「……【看破】を一応持っている」
「おぉ、それなら安心ですね」
ニコッと笑みを浮かべてシロが安堵のため息を漏らした。まぁ、演技なんだが。
ファングの言う【看破】はシロが持っている【察知】スキルの最上級スキルであり、これを取得すると通常では分からない罠や隠し部屋の位置などが分かるようになるのだ。
「それじゃあ、お願いしてもいいですか?」
「……もちろん」
そう言ってファングは壁のほうに体を向けて、目を閉じた。どうやら【看破】スキルを発動させたようである。習熟度がマックスまで上げると目を閉じていても罠が分かるらしい。
しばらく、ファングが目を閉じて道を行ったり来たりしているとある地点で足を止めた。
「……ここ」
岩肌のある部分を指差すとそこは何の変哲もない壁だった。ファングが指差した所をシロが代表して触ってみる。ごつごつとした感触がするだけで特に何か仕組みがあるわけでもない。
「特に何かあるわけではないみたいだが」
「……しかし、ここに反応が見られた」
「ふむ、なら壊すか」
「何気に物騒な発想だね」
ユキの小言を無視してシロは両手剣を背中から出した。上段構えで握る力に入れる、その雰囲気に周りも静まり返った。狙いを定めたシロは思いっきり両手剣を振る。
「はっ!」
カキンッ、と甲高い金属音が木霊す。弾き返された両手剣の反動でシロはほんの少しだけ退けられた。
「っと、ダメか」
「……次はオレ」
シロが失敗に終わったところでファングと交代する。ファングは岩肌に立つと拳を握りしめて構えた。足腰に力を蓄え、それを徐々に下半身から上半身、そして握られた拳に力を伝えて解放させる。
「……ふん!!」
ドゴン! とシロとは違い爆発したような音が轟き、わずかに土煙が舞った。シロたちは顔を手で隠し、土煙が晴れるのを待つ。やがて、土煙が去り彼らの視界が徐々に拓けて来た。
「……ダメか」
ファングの目の前の壁には傷が一つもない状態のままであった。
「ファングさんでも壊せないって」
「破壊不可能オブジェクトってところか」
驚愕するフィーリアの横で冷静に考えを述べるシロ。オブジェクトとなるとプレイヤーの力では壊せないように仕組まれているのだ。
壁を見つめるファングの横に移動したシロは再び壁を触ってみる。
「う~ん、変な所はないけどな」
どこかに壁が開くスイッチがないかと思ってみたがどうもその線はなしのようである。すると、今度はユキが元気よく手を上げた。
「ハイハイ! 次、私やる!」
勢いよく挙げた手をさらに上にあげながらユキは声を出す。だが、シロは訝し気な顔をする。こういう場合、あまり良くないことが起こるのが彼自身の経験が語っていた。
「……何か考えがあるのか?」
「まあまあ、私に任せてみて」
軽い口調でそう言って見せるユキの顔をジッとシロは見る。その顔はいつもより自信があるように見えた。なので、ここは一つユキに任せてみようと思った。
「じゃあまぁ、やってみれば」
ため息を一つ吐いて、シロはそう告げた。シロの言葉を受けてユキはよしっ、と気合を入れてから壁の前に立つ。
「ユキちゃんどうする気だろう?」
「さぁな、変なことしなければいいが」
シロとフィーリアの小さな話声を後ろにユキは大きく息を吸い込み。ユキの挙動に三人が注目し、しばしの静寂が場を包み込む。
そして、ユキは自信満々と口を開いた。
「ひらけ~ゴマ!」
ズコッ、あまりに幼稚な発想に三人はその場でズッコケた。当の本人はなぜかやり切った顔をしている。
「それで開けば苦労しねえよ!」」
「え、だってこういうのって合言葉があれば開くんでしょ?」
キョトン顔でシロを見るユキ。その顔は自分の行いが間違っているとは微塵も思っていない様子である。いい加減、シロはユキの言動に呆れを通り越して心配になってくる。
「だとしても、その合言葉で開くわけ……」
ないだろう、とシロが言葉を紡ぐ途中で四人は足元が微かに揺れるのを感じた。
「え、なに?」
「……地震?」
「お前余計なことしたんじゃ」
「失礼な! いたって普通の合言葉だよ!」
「普通じゃないのを合言葉にするんだよ」
シロがユキに合言葉っていうものがどういうものか教えていると音がどんどん大きくなる。シロとファングは何が起きてもいいように周囲に気を配る。だが、その心配は杞憂に終わった。
ゴゴゴゴ……
重々しい音を鳴らしながら、ユキの前の壁がゆっくりと開き始めた。両開きに開いて行く壁を見てユキを除く三人が驚愕の表情を浮かべる。そして、数秒かけて扉が開き、暗く真っすぐな道の傍らには数メートルおきに松明が置かれて道を照らしていた。
「「「…………」」」
「やったー! 開いた!!」
ピョンピョンと飛んで喜びを表すユキ。シロは何故だか納得がいかなった。
「さあ、行こう!」
げんなりとしたシロの視界には学校の男子を虜にする笑顔が映し出されていた。
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