第37話 パーティ戦開始



 噴水広場目がけて一直線に向かったシロたちは、目的地に到着すると異様な光景が飛び込んできた。無数のプレイヤーたちが横たわる広場でただ一体の影だけが立っていた。人のような形をしたそれは、まるで周りからの干渉を受けていないかのような態度でプレイヤーを見下している。


「……なんだこれ」


 その異様な光景に思わず呟くシロ。同様にユキとフィーリアは言葉すら出てこない。すると、ユキの視界にある人物が映し出された。


「ホックさん!?」


 広場のはずれで横たわっているホックを見つけたユキはそちらに駆け寄る。つられるようにシロとフィーリアも動く。

 広場には騒ぎを聞きつけて来たのか他のプレイヤーが続々と現れては異様な光景に目を見開いた。 ホックの元へたどり着いたユキは横たわるホックの傍で膝を地面に着けると顔を覗き込んだ。


「ホックさん! 大丈夫ですか!?」

「うぅ、おぅユキちゃんじゃねぇか……」


 呻き声を上げながらユキを見るホックは満身創痍という言葉を思わせるほど弱っていた。シロはホックのHPを見るがHPバーの色が徐々に黄色から赤へと変わり、減る速度も衰えない。このままでは死ぬリタイアは確実だ。


「何があったんですか?」


 シロは情報を得ようとホックに喋りかける。ホックもシロの存在を視認すると震える手で広場の中央を指した。


「あれだ」

「質問を変えます、あれは何なんですか? 全員あれにやられたんですか?」

「あぁ、そうだ。俺らも騒ぎを聞きつけてきたらよあれがいてな、いきなり襲い掛かってきやがったから応戦したんだけよ全く歯が立たなかったぜ」

「……なるほど、分かりました。情報感謝します」


 シロはホックに礼を述べるとおもむろに立ち上がった。ユキは急いで白狐ホワイトフォックスを出して支援魔法である【ヒール】をかけようとする。しかし、その腕を突如ホックが掴んだ。

 驚いてホックを見るユキ。彼女の腕を取ったホックは首を左右に振らす。その行動にユキは思わず異議を唱えた。


「ホックさん!? なんで止めるの、早く【ヒール】を……」

「ダメだ」

「何で!!」


 珍しく怒号を飛ばすユキ。その姿にフィーリアは思わず体をびくらせた。

 興奮するユキに対してシロは冷静な眼差しでユキを見つめる。


「ユキ、お前がホックさんに【ヒール】をかけるのは別に構わないがそれをホックさんが望んでいるのか?」


 言われてユキはホックの顔を見る。三人に見られるホックはシロの言葉に顔を歯を見せるように笑いかけた。


「ガハハ、シロは分かってるじゃないか。あぁ、男が全力でぶつかってやられたんだ情けは無用だぜ」

「そ、そんな……」

「ヒーラー泣かせで悪いね。でも、これだけは譲れねぇよ」


 そう言い切るホックの目は熱く燃えているようにユキには見えた。そうしているうちにホックのHPバーはどんどんと減り、やがて数値が0になるとホックの体が光に包まれていく。

 光に抱かれながらホックは遠い目をして一言呟く。


「わ、わが生涯に一遍の悔いなし……」


 セリフを最後まで言い切るとホックの体は完全に光に包まれて、シャボン玉が弾けるように消えた。


「……ねぇ、シロ君」

「なんだ?」

「もしかしてあれがやりたかっただけじゃないよね?」

「……さぁ、何のことかな?」


 名台詞と呼ばれるセリフを吐きながらリタイアしていったホックを何故か冷めた目で見るユキはどこかとげとげしかった。

 気を取り直してシロは中央に目を向ける。そこでは駆けつけたプレイヤーたちによる悲鳴と怒号が行き交う空間へと様変わりしていた。


「う、うわああ! なんだこいつ!」

「く、来るな、こっちに来るなああああ!!」


 駆けつけた数多くのプレイヤーたちに対して無双状態を誇るそれは、人間と変わらない大きさで全身を青い衣で包み、首に同様な色の長いマフラーのようなもので顔を覆っていた。手には太刀を逆さで持ち、周囲に注意を向ける。わずかに見える顔からは緑色の皮膚があらわになっていた。


「カエルだ」

「カエルさんですね」

「というより、カエル忍者だな」


 三者三様の言葉を呟き、相手を見る。しかし、そのカエルは次々に自分に挑みかかるプレイヤーたちをなぎ倒していく。まったく歯が立たないプレイヤーたちの様子を見てシロはカエルの頭上にあるアイコンを見る。そこにはカエルの名前とHPバーが浮かび上がっている。



 アサシンフロッグ Lv94



「レベル94だと!?」


 浮かんでいるアイコンを見た瞬間シロは驚きの声を上げていた。カエルことアサシンフロッグのレベルがあまりに高すぎるのだ。このくらいのレベルだと街でポップするのはおかしい、普通門の外でラスボスくらいの位置にいるはずだ。街に残っているプレイヤーたちの平均レベルがおよそ70くらいと仮定してもこのレベルはチート並みに異常である。


「シ、シロ君!」


 考えにふけっているところをユキの声で我に返るシロ。見ると、先ほどアサシンフロッグに挑みかかっていたはずのプレイヤーたちの姿が無くなっていた。広場にいるのはアサシンフロッグとシロたちのみとなった。


「ど、どどど、どうするの!?」


 慌てふためくユキを差し置いてシロは後ろにいるフィーリアに目を向ける。レベル差と経験値的な差を見てもシロたちに勝ち目などほとんどないのは目に見えていた。

 しかし、シロはここで退くつもりは毛頭なかった。


「……ユキ、フィーリアつれて逃げてろ」

「え? シロ君は!?」

「……時間を稼ぐ」

「無理だよ、皆やられちゃったんだよいくらシロ君でも勝てないよ!!」


 必死にシロを止めようとするユキ。だが、彼はその言葉に逆らうように背中の両手剣を引き抜く。アサシンフロッグもシロたちの存在に気付いたようで敵意に塗れた視線を向けて来る。

 

「……シロ君」


 いつでも飛び出せるように足腰に力を加えているシロに不意に後ろから声が聞こえて来た。顔だけ振り返えさせるとフィーリアが真っすぐにシロの目を見て来る。シロはその表情に目が離せなかった。

 フィーリアは続ける。


「どうしてそんなに強いの?」


 よく分からない質問にシロは首を傾げた。このタイミングでどういう意図があってそんなことを聞くのか、シロは再度フィーリアの顔に注目する。だが、フィーリアの表情は変わらず真剣そのものである。だからだろう、気づけば自分が思っている言葉を並べていた。


「俺は別に強くないよ」

「…………」


 フィーリアは口を閉ざして、シロの言葉にだけ集中する。シロは続けて言葉を紡ぐ。


「ただ、逃げるのは嫌なんだ」

「どうして?」

「そうだなぁ、別に逃げることは恥じることでもないし、時には必要なことだってある。でも……」

「……でも?」


 シロの言葉にフィーリアだけではなくユキも黙って聞いていた。


「逃げているだけじゃ、いつか自分を苦しめることになるって俺は思う」


 やけに重みがあるその言葉はフィーリアのなかで溶けていくように沁み込んだ。

 シロがそれだけ言うと今度こそアサシンフロッグと対峙する。だが、その横にはフィーリアが並ぶように立つ。隣で立つフィーリアを見てシロは呆然とした。当の本人はシロの視線などおかまいなく弓を準備する。


「おい、フィーリア? どういうつもりだ」

「私もシロ君と戦う」

「勝てる見込みは少ないぞ?」


 三人の中で一番レベルの高いシロでもレベルは53、アサシンフロッグとの差は41と絶望的な数字である。いくらシロがシンバに勝てたと言っても人とモンスターでは違いが生じる。それに、今目の前にいる敵は幾千の猛者たちを凌駕している。正直、シロは勝てるビジョンが浮かばなかった。しかし、それでもなおフィーリアは退こうとはしなかった。


「……はぁ、ま、好きにすれば?」


 隣から動こうとしないフィーリアにシロはため息を吐いて言った。すると今度は反対側から人影が伸びる。


「……無理しなくてもいいんだぞユキ?」

「ううん、ここで私だけ逃げるのもねぇ」


 フィーリアに続いてユキも手に白狐ホワイトフォックスを握りしめ前を見据える。流石に、フィーリアが戦う意思を見せているのに自分だけ逃げるなんて選択をするほどユキも無情ではない。 その様子にシロは、諦めに似たため息を漏らす。これ以上言っても無駄のようだ。

 シロは両隣で立つ二人の空気にどこか懐かしさを感じながら標的を睨みつける。

 アサシンフロッグはまるで彼らの準備を待っていたかのように三人が対峙するのを確認すると逆さに持つ太刀を構えた。


「行くぞ」


 シロは二人にそう呟くと無謀と呼ばれる戦いに身を投じた。

 





 

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