第33話 作戦会議



 ゴールデンウィーク最終日、《ガウス街》にいるプレイヤーたちがやけに息巻いているのをシロはひしひしと感じていた。それもそのはず、今日は前々から告知されていたイベントが行われるからだ。

 ムンムン、と熱を帯びる街を急いで歩いて、集合場所であるホックの酒場に向かう。今日は混雑が予想されるからとシロが提案していおいたものの、この規模はシロにも予想外で集合場所を変えておいて良かったと思った。


「ちわーす、ユキ、フィーリアいるか?」

「あ、シロ君! 遅いよ!」

「こんにちはシロ君」

「おう、揃ってるな。ていうか、別にイベントは三時からだ。まだ十分大丈夫だろ」

「え~、こういう大きなイベントはワクワクしてしまうのがゲーマーの性だよ」

「俺はゲーマーでもないし、そう興奮もしない」


 集合場所に到着するとすでにユキとフィーリアがいた。到着早々にユキからブーイングが飛ばされたが気にせずシロはフィーリアの隣の席に座る。

 

「さて、全員揃ったところで作戦会議といきますか」


 まだ時刻は午後2時、イベント開始まで一時間あるためシロたちは作戦会議を行うことにした。というのもイベント初参加のフィーリアのための説明会なのだが。


「んじゃ、ざっくりとイベントの説明をするぞ。今回のイベントは告知通り、防衛戦だ。防衛戦とは街にある四つの門の外からモンスターが攻めて来る、そして俺らプレイヤーはそれらを狩るっと言ったところかな」


 防衛戦のルールとしては街に設置されている四つのクリスタルをモンスターに壊されればプレイヤー側の負け、制限時間までモンスターを全滅またはクリスタルを守れば勝ちとなる。勝った場合、モンスターの討伐数に応じてプレイヤーたちにそれぞれ報酬が与えられる。


「なら、門の外側にいればいいんですか?」

「いや、それは違う。防衛戦とは言っても門の外にいるのは周辺を指揮するギルドか高レベルのプレイヤーたちだろうな。俺たちは街の中でモンスターを倒すことになるだろう」

「え? でも、モンスターが街に入ってこないと私たち活躍出来ないよ?」

「という訳でもない。たまに街の中にモンスターがポップすることがあるんだ。門の外側にいるのが陽動なら、街中でポップする奴らは別動隊ってところかな」


 今回のシロたちの作戦としては今いる街の南側を中心でモンスターがポップするまで待機。シロの【察知】範囲内でモンスターが現れたらそれを三人で倒すこととなる。

 倒したモンスターの経験値はしっかりと入るので、ここいらでひと稼ぎする者も多い。シロたちの参加目的もそこにあった。なので、他のものと鉢合わせしないように注意しないといけない。まぁ、そこはシロが意識しておけば問題ないだろう。


「ここまで説明はいいか?」

「ハーイ」

「はい」


 シロの説明に異論を唱えない二人を見て説明を続ける。


「で、今のそれぞれの戦力の確認をしたいけど、聞いていいか?」

「いいよ。私はレベルは50でスキルは【火魔法】、【水魔法】、【支援魔法】の三つだね」

「私は、今レベルは26で、スキルは【弓矢】スキルだけです」

「ふむふむ、なるほど」


 シロはレベル53でスキルは【察知】、【危険回避】、【番狂わせキリングジャイアント】の三つだ。全員の能力を確認したところで、それを基に陣形を考える。


「ま、考えるまでもないけど、もし強いモンスターが出てきたら俺が前衛、ユキとフィーリアが後衛になるな」


 この中で近接武器を扱うのはシロだけだし、ユキは魔法しかスキルを会得していない。レベルの低いフィーリアはユキのさらに後ろから援護射撃と言った感じだろう。


「二人はそれでいいか?」

「分かった、シロ君に任せるよ」

「わ、私は何も分からないのでお任せします」


 あっさりと承諾を得たシロ。フィーリアはともかくとしてお前はもうちょい考えろよ、と言いたくなったがユキが緻密で効率のよい計画を立案出来るとは思わなかったので黙っておいた。


「三人は一緒に行動するのか?」


 何とも頼りないパーティに悩まされているとホックがシロにジュースを出しながら訊いてきた。


「そうですね。基本、一緒に行動しますけどほぼほぼソロ狩りです。めちゃくちゃ強いモンスターでも出ない限り、連携は取りません。というか、とれません」


 シロたち自身は一緒に行動をしているがパーティとしての連携などの練習はしていないので、二人がフィーリアのサポートをしつつモンスターを倒すと言った寸法になるだろうとシロは予測していた。


「ホックさんは参加するんですか?」

「おう、俺もそろそろ店閉めて準備に入ろうと思ってる」

「あ、それじゃ、俺らも店から出るか」


 ホックも参加するということでシロたちは邪魔すると悪いので店を出ようと席を立つ。ホックも「悪いな」と言いながら苦笑いを浮かべた。

 ホックの店から出たシロたちはこれからどうするか話し合った。


「これからどうする?」

「まだ時間あるしな、ポーションとか買いにでも行くか」

「そうだね、急がないと混むかもしれないし」

「フィーリアもそれでいいか?」

「あ、はい、大丈夫です」


 ささっと決めてしまうシロとユキにフィーリアは呆然としながらも頷いた。それを確認するとユキがテンション高めに移動を開始させる。そのテンションの高さにシロはため息まじりに眺めながらついて行く。シロの後ろをフィーリアも黙って歩き出した。



 だが、ふと、シロが足を止め振り返る。いきなり振り返ったシロの視線とすぐ後ろを歩いていたフィーリアの視線が交差した。急なことにキョトンとするフィーリアに対してシロは真剣な目をする。


「シ、シロ君?」

「フィーリアさ……」


 訳が分からず見つめられるフィーリアがシロに呼びかけるとほぼ同時に彼も口を開く。そして、そのままシロは言葉を続けた。


「三倉芳って知ってる?」

「っ!?」


 突然、シロの口から発せられた言葉にフィーリアの目は見開いた。その反応をシロは見逃すことなく観察する。

 ほんの一瞬だけ、硬直したフィーリアであったがすぐに口を動かした。


「……名前だけだったら」


 帰って来た言葉はそれだけだった。その反応にシロはしばらくフィーリアをジッと見つめる。彼女はシロの視線から逃れるように顔を俯かせて、表情を見せなかった。

 だけど、その姿はまるで以前、BGOについて尋ねられた時の自分のように見えた。


「……そうか、ごめん。変な事聞いて」

「い、いいえ、別にいいんですけど。どうして急にそんなことを?」

「実は父親の職場の人が三倉芳の演じているキャラクターの腕時計を父親に渡したみたいで、父親が持っているのもなんだから俺に渡されたけど、俺そういうの詳しくなくて……」


 フィーリアの言及にシロは用意していた言葉をスラスラと述べる。その答えにフィーリアはどこか釈然としない様子であったが結局は納得した。


「お~い、二人とも何してるの? 早く行こうよ!」


 後方数mでついて来ないシロとフィーリアに気づいたのかユキが大声で二人を呼ぶ。


「ったく、うるさいな。行こうかフィーリア」

「は、はい……」


 ユキの呼びかけにシロは先ほどの真剣な目とは打って変わって柔らかい目をしてフィーリアに言う。フィーリアは不信感が消えることはなかったがシロのその顔にどこか安心感が芽生え、再び足を動かした。



☆☆☆☆☆☆



 必要なものを買い集め、準備を整えたシロたちは噴水広場にいた。噴水広場にはイベントを今か今かと待ちわびているプレイヤーたちの姿があちらこちらで見られる。広場の端のほうでイベント開始を待っているシロも幾分か落ち着けなかった。


「いよいよだね!」


 しかし、隣でハイテンションなユキを見ていると気持ちが楽になる。自分よりテンションが高い人を見ると冷静になる法則は本当にあるようだ。

 

「…………」


 シロはさらに隣のフィーリアを横目で見ると分かりやすく緊張していた。人の多さにあてられたのか顔色がよろしくない。


「おい、大丈夫かフィーリア?」

「だだだ、大丈夫です。ちちち、ちょっと、ききき、緊張しているだけです」

「うん、とりあえず深呼吸して落ち着こうか」


 シロがそう言うと言われた通りにフィーリアは空気を深く吸っては吐いて、吸っては吐いてを繰り返した。数回そうしていると効果が表れたのか顔色が良くなってきた。


「落ち着いたか?」

「は、はい、何とか……」

「そう、なら一度ログアウトして水でも飲んでくれば? イベントが始まったら死ぬまでログアウト出来ないから」

「え? で、でも」

「イベントまであと少し時間あるし、大丈夫だよ」


 イベントが始まってしまえば二時間は潜りっぱなしになるため、水分補給やトイレなどは済ませておいた方がいいだろう。イベントのルールとしてイベント開催中はログアウトは不可となり、制限時間が終わるかモンスターにやられないといけない。なので、体のケアなどは慎重に行うのがVRMMOを嗜む者の基本である。


「……じゃ、ちょっとだけ」

「おう、いってらっしゃい」

「また後でね」


 フィーリアはシロの助言を素直に受け取るとメニューを開いてログアウトしていった。


「ユキ」

「なぁに?」


 フィーリアがログアウトしたのを確認してからシロはユキの方を向いた。時間はあまりない。


「お前、三倉芳って知ってるか?」


 急な問いにユキは首を傾げる。だが、その名前に聞き覚えはあった。


「あれでしょ、今人気の声優さん。前、テレビに取り上げていたよ」


 それがどうした、とばかりにユキはシロの顔を覗き込む。だが、シロは構わずに話を続ける。


「あくまで、俺の考えであって何の証拠もないが聞くか?」


 やけに真剣な顔をするシロにユキは自然と背筋を正してしまう。恐らく彼は今から真面目な話をするだろうと思った。

 ユキが静かに頷くのを確認してシロは口を動かした。




「三倉芳はもしかしたら、フィーリアかもしれない」





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