第二章 CHILDHOOD FRIEND&EVENT

第18話 双銃



 夢を見た。



 近所の公園でランドセルを背負っている男の子三人が女の子を取り囲んでいる。囲まれている女の子の顔は涙で濡れていた。男の子たちは口々に女の子に何か言ってくる。


「や~い、お前変な声なの」

「「変なの変なの」」

「うぅ、ひっくひっく」


 所詮は子供の言うこと、だが言われている女の子の心には多大なる傷がつく。女の子が泣こうが構わず男の子たちの口は止まらない。

 女の子はただ執拗な男の子たちの声が止むのを待たなければならなかった。


「何やってんの?」


 すると、そこに一人の男の子が現れた。女の子が顔を上げるとそこには男の子たちと同じような黒のランドセルを背負った彼女のよく知る人物が映った。



 女の子を囲んでいた男の子たちは突然現れた男の子を見ると罰が悪そうな顔をした。男の子は三人に囲まれている女の子を見ると大体の状況を把握したようだ。


「女の子相手に男が三人でいじめるなんて、かっこ悪」

「なんだと!?」

「お前には関係ないだろう!」

「どっかいけよ!」

「いや関係あるし、同じクラスだし」


 現れた彼の一言に三人組は各々、威嚇するように声を出すが男の子は冷たい目で言い返した。

 そう、彼らは同じ小学校の同じクラスという共通点を持っていたのだ。


「なんだよ、事実言ってるだけだ」

「そうだ! こいつの声が変だから悪いんだ!」

「そうだそうだ」

「………」


 所詮は小学生、自分の非を認めずそんな言い訳をしてくる。そこで、変わらず冷たい目をして三人を見る男の子はこう告げる。


「そっ、じゃあ、明日先生に言っといてやるよ。お前らが三人がかりで女の子一人を泣かせていたって、でも、悪いのは変な声をしているその子だって、それでいいの?」

「なっ!」

「「………っ」」


 男の子の言葉に一人は驚きの声を出し、他二人は言葉すら出なかった。そんな脅しを言う男の子の表情は無を貫いていた。


「くそ、行こうぜ」

「「………」」


 小学生とは思えない迫力と脅しに怯んだのか三人は男の子を一睨みすると走って去って行った。去りゆく三人を確認すると男の子は涙が止まらない女の子の元へと駆け寄った。


「大丈夫?」

「うぅ、ひっくひっく…」


 男の子は声を掛けるが長く泣いていたのか女の子はしゃっくりが止まらず、涙で目を赤くしていた。見かねた男の子はズボンのポケットからハンカチを出し、それを差し出すと女の子は素直に受け取った。

 受け取ったハンカチで涙を拭きながらしばらくすると落ち着きを取り戻した女の子は再度男の子の顔を見る。


「…落ち着いた?」

「う、うん、ありがとう…」


 泣き顔を見られたことへの恥ずかしさと何もできなかった情けなさで顔を赤くしながら女の子はお礼を言う。


「まったく、ひどいよね女の子を泣かせるなんて」

「で、でも本当の事だし…」


 男の子が同意を求めるように言うとなぜか予想していた反応の反対の言葉が出てきた。男の子が首を傾げると女の子は続けた。


「そ、その、私の声、へ、変だし……」


 言って視線を下にする。自分の声が人と違うことでよくからかわれることが多かったがその度何も言い返せずにいた。

 そんな女の子の言葉になおも首を傾げながら男の子は言った。


「どうして? 俺、桜香ちゃんの声可愛いくて好きだよ」

「えっ…」


 なんでもないかのように言い遂げる男の子に女の子は唖然とした表情で顔を上げた。そこにあったのは先ほど男の子たちに向けていた冷たい顔ではなく、優しく温かそうな微笑みであった。









 そこで目が覚めた。

 随分と長く寝ていたみたいでしばらく、ボーっとしていたが段々と冴えていく頭にすっと焦りが舞い降りた。



 ハッと電車の車内電子板を見るとまだまだ降りる駅が先にあることが確認でき、一安心する。窓を見ると次々に景色が変わっていく。眺めながら考えるのはさっき見ていた夢である。

 夢に出ていたのは昔の光景。

 彼女にとって面白いものではなかったがそこに映しだされた優しい男の子。彼のことを思い出すと自然と口元がほころんだ。



 そうやって電車の中から景色を眺めているとやがて懐かしい光景が見え始めて来た。そして、車内アナウンスが流れ、彼女は降りる支度を始める。

 やがて、電車はゆっくりと速度を落とすと停車した。開いた扉から電車を降りると風が吹き抜ける。なぜかその風すら懐かしく感じた。荷物を持ち直すと彼女はホームを歩き出したのであった。




☆☆☆☆☆☆




「キャー――――!! シロ君助けて!!」


 シロとユキがあの日出会った《神様》について調べ始めて十日が経過していた。主に情報収集を重点的にしているが未だ有益な情報は掴めていない。

 そんな最中、二人はレベル上げの為街の北の方にある《ロンデル平野》に訪れていた。そして、今現在ユキは多数のイノシシ型モンスターに追われながらシロに救援を要請していた。


「はぁ…」


 その姿にシロはため息を漏らしながらも走り来るユキとすれ違うようにイノシシたちに向かって行った。


「BRUUUUUUUUU!!」


 先頭を走っていた一匹のイノシシがシロの存在を確認すると速度を落とすことなく直進してくる。シロは背中に背負った両手剣を抜いて、こちらも速度を落とすことなく真っすぐ走っていく。そして、互いの距離が数メートルとなった時、シロは急にその場で停止すると向かってきたイノシシの突進を闘牛士のごとくかわした。


「BRU!?」


 このまま突っ込んで来るだろうと予測していたイノシシは自身のスピードを落とすことが出来ず、シロを追跡することが出来なかった。

 イノシシの突進をかわしたシロは両手剣をイノシシの横腹目がけて縦に振り下ろす。振り下ろされた両手剣はイノシシを真っ二つに斬り、斬られたイノシシは光の粒子となって消えた。

 ここで一息入れたいところであったが……。


「「「BRUUUUUUUUUUUUUUUUU!!」」」


 仲間がやられたことに怒りが湧いたのか、他のイノシシもシロ目がけて突進を仕掛けて来た。見た目派手な光景に関わらず、シロは冷静に向かってくるイノシシの数を数える。


「ひい、ふう、みい、…五体か」


 シロと余裕があった距離が段々と縮まり、イノシシたちはすぐそこまで来ていた。しかし、そんな状態でもシロは慌てることなく両手剣を背中にしまうと静かに口を動かした。


「チェンジ、【双銃ダブルガン】」


 コマンドを唱えると背中にあった両手剣は消えて、代わりに両サイドの腰に白銀色と漆黒の銃が現れた。シロは素早くそれらを持つと照準を向かってくるイノシシらに合わせる。


「真っすぐくる物体なんてただの的だ」


 シロはそう呟くと引き金を引いた。


 バンバンバンバンバン!!


 交互に撃たれた五つの青い弾丸は見事イノシシたちの頭に命中、イノシシたちは瞬く間に絶命し光となって消えた。


「ふぅ、こんなもんか」


 シロはまじまじと自分の武器を眺める。右手には白銀色の綺麗な銃、左手には黒一色のテレビなんかで見る銃がシロの手に納まっている。


 

 UWユニークウェポン、【双銃ダブルガン】。シロはその性能について大体のことが分かってきた。まず、この銃の種類はデザートイーグルと呼ばれるもので主に大型の獣を相手にするために開発されたと言われている。そのため現実では威力が高く、女性や子供が撃つと肩が外れるとされている。しかし、ここではそんな心配はない。



 そして、この銃は普通の銃ではなく魔法銃というものにカテゴライズされる。普通の弾丸はいらず【双銃ダブルガン】は所有者のMPを消費することによって弾丸を発射することが可能なのだ。シロはいつか、《イジイの森》で熊を大量に虐殺したのを思い出す。銃の性能を確かめるために向かったのだがそこで一発撃つとMPが1減る事も確認された。よってシロが【双銃ダブルガン】で撃てる弾の数は現時点で680発、結構な数を撃つことが出来る。これによって弾切れで弾を詰め替える必要もなくなる。


 しかし、シロはここで一つの疑問を抱えた。



(何故、STRに補正がかかっているんだ?)



 魔法銃として扱うのであれば普通、INTにだけ補正がかかりSTRにはかからないはずである。しかし、説明ではきちんとSTRに補正がかかっていた。そこでシロはある仮設を浮かべた。


(もしかしたら、普通の弾も撃てるのでは?)


 STRは物理攻撃の攻撃力に関わるステータスである。そのSTRが備わっているのであれば物理攻撃、すなわち一般的な射撃が可能なのではないだろうかとシロは思っている。

 しかし、BGO内で弾を作っているという者が果たしているのか…、シロはそんな懸念を残したまま他の性能を確認することにした。



 この銃最大の特徴である固有ユニークスキル、【無効化アンチスキル】。シロは【無効化アンチスキル】についての詳細画面を凝視する。



 【無効化アンチスキル】:撃った対象の持つスキル及びアイテムの効果を無効化することが出来る。時間に変化あり、一日三回まで使用可能。



 何とも曖昧な説明を読んで首を傾げる。説明がどことなく適当な気がしてならないがまさか運営が手を抜いていることなんて………あるか、とどこか納得したが要するに自分で何とか検証しないといけないのである。

 面倒なことが嫌いなシロはため息を吐いて、二つの銃を見る。二つの銃はご主人に使われて嬉しそうに輝きを放っている気がした。





 シロはイノシシが消えたのを確認すると【双銃ダブルガン】をしまい、再び両手剣を装備した。振り返ると激しく呼吸しながら地面に座っているユキの姿があった。


「ハア―、疲れたー」

「……ほとんど俺が倒してるんだけど?」


 どことなく達成感を出しているユキに冷たい視線を浴びせるシロ。ユキは冷たい視線に苦笑いを見せながら頭に手を置いた。狩りを始めて約一時間経つがユキが倒したモンスターは25体、対するシロはその三倍は倒していた。そのほとんどが先程のみたいに連れて来たモンスターである。おかげでシロのレベルはもうユキを追い越し、50を超えていた。



 BGOではレベル50まではモンスターの討伐やNPCのクエストなどの経験値で簡単に到達できるが50以上からがレベル上げが難しくなってくるのだ。BGOでは自分よりレベルの高いモンスターを倒すとより高い経験値が入るので皆、より難易度の高いフィールドを求めて駆け巡る。

 と言っても、始めて一ヶ月足らずでレベル50を超えるというのはとてつもないスピードである。

 まぁ、シロが効率のよい狩り方や経験値がおいしいフィールドを知っていることもあるのだが。 


「さて、もう今日はやめておくか」

「え~、まだまだやれるよ」

「お前が良くても俺はもう疲れた。どうしてもやりたかったらお一人でどうぞ」

「むぅ~」


 むくれるユキの方を見ず、シロはメニューを開きアイテムから透明な結晶の形をした【転移石】を取り出した。これを使えば街に転移することが出来るため多くのプレイヤーたちに重宝されるアイテムである。



 このゲームではその場でログアウトしたらまた始める時にログアウト地点から始まるのだがセーフティエリア以外の場所でログアウトした場合、開始早々にモンスターに襲われるということが多々あるためログアウトする時はセーフティエリアか街に戻る必要があるのだ。


「んじゃ、さっさと戻るか」

「は~い」


 シロの言葉にまだやり足りないだろうがユキも【転移石】を取り出し、二人は街に転移した。

 転移した二人は二、三言言葉を交わし、最後にお休みの挨拶をするとログアウトした。








 アバター名『shiro』 所持金73000E

 レベル:52  HP:1700  MP:680

 STR:120 INT:80 VIT:120 AGI:110 DEX:80 LUK:60 TEC:30 MID:70 CHR:30


 装備:両手剣、ジョウの防具、冒険者の服


 控え装備:【双銃ダブルガン

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