第12話 ユニークウェポン



 映し出される攻防にユキは開いた口が塞がらなかった。まず、ゴングの合図と共にユキは黄色の和服少女のミルフィーの姿を見失った。かと思ったら、いつの間にかレオンの目の前にミルフィーは現れ、目に見えないレイピアの攻撃を繰り出すがレオンはそれを盾で防ぎ、代わりに自分のバスターソードを大きく振った。ほぼカウンター気味に振られたソードだったが、ミルフィーは難なくレイピアで受け流す。



 その攻防の時間はまさに数秒、一瞬の出来事であった。それだけでもすごいのに二人は普通に試合を続行し今度は相手と距離をとったミルフィーがレイピアから光を放ち、相手に向けた。

 画面越しでも分かるその威力。ユキは勝負は決まったものだと思った。だが、画面には盾でそれすらも防ぎ堂々と立つレオンの姿が映し出されている。


「うそ……」


 呆然と画面を見つめ、呟くユキ。反対に周りの客は盛り上がりを見せた。隣のシロを見ると真剣な眼差しで画面を眺めている。そこにユキのような驚きなどはなかった。


「ハハハ! ユキちゃん、口が開いてるよ」

「はっ」


 ホックの指摘にユキは慌てて口元を手で隠す。だが、今だに驚きの感情が抜けなかった。


「まぁ、あれを最初に見たらそうなるわな。逆にシロはあまり驚いてないようだけど? どっかであの二人の試合でも見たことあるのか?」

「……いや、これでも驚いている」


 ユキの分かりやすく顔に対してシロは無表情のまま。それを不思議に思ったのかホックは話を彼に向けた。だが、あれで一応驚いていたみたいである。

 驚いているといったわりにはあまりに冷静過ぎるとユキは思ったがシロの言葉に嘘はないだろうと判断した。それよりも目の前で行われている試合に意識が集中していた。


「ねえ、今の見た!? すごい速さで移動したかと思ったらあっさりと攻撃を防いじゃったよ!」

「見ればわかるから、落ち着いて一旦席につけ」


 興奮のあまり椅子から立ち上がっていたユキをシロは嗜める。言われた通り椅子に座るユキだが興奮が止むことはなかった。息つく間も与えずシロに喋りかける。


「さすが【閃光スピカ】に【絶対強者シャークヘッド】だな、常人の域を超えているぜ」

「化け物だな正に」

「すごいすごい!!」

「お前それ以外に言葉知らないのか?」


 シロの辛辣な突っ込みも興奮状態のユキには届いていないようだ。ため息をついて再び試合を観戦する。

 それからも二人は互いに攻撃を繰り出し、相手の攻撃は避けたり受け流したりしている。実力はほぼ互角。しかし、時間が経過するにつれHPの差に変化が生じて来た。

 残り時間が半分となった時点で勝負はミルフィーの優勢となっていた。


「ほう、【閃光スピカ】が優位か」


 ホックも意外そうに呟く。ミルフィーは得意の高速の突きで攻撃しており、レオンもそれを盾で防御しているがいくら防御しても攻撃を受ければ小さいながらもダメージを受けることになる。それの積み重ねで彼女のHPの残量が多い展開となったのだ。


「ホックさんはどっちに賭けてんだ?」

「俺はレオンに賭けてるよ。今のPvPのチャンピオンと称されているやつだからね、大金つぎ込んでいるんだから勝ってもらわないと困るんだよね」

「…ご愁傷様」

「でも、この赤い人さっきから防御ばかりで全然攻撃してないね」


 シロの呟きにはユキの言葉によってかき消された。だが、シロは特に気に留めることなく彼らの会話に耳を傾けた。

 ユキの疑問ももっともである。レオンは先ほどからミルフィーの攻撃を受けるばかりだ。たまにソードを振るがただの牽制のようで威力に欠けている。

 ユキのその疑問にホックは口を開いた。


「それがあいつの戦い方ってやつだよ。あいつの防御力は並みのプレイヤーの比ではないからね」


 そもそもレオン以外のプレイヤーがミルフィーの突きを三回も受けたら即刻でPKされるらしい。


「レオンは前半に防御に徹し、後半相手が疲れて来たところを狙って勝つってのが常套句だよ」

「へぇ~、でもその前に負けたら意味ないじゃん」

「それが出来るから今の地位にいるわけだよ」

「なるほどな…」


 そんな会話をしていると店の客が画面を見て沸く音が聞こえた。


「えっ……」

「ほう…」


 突然沸いた歓声に反応して、画面の方に視線を向けると二人は困惑したような声を上げた。

 二人の視界に映し出されたのは、レオンの前方でうつ伏せになって倒れたいるミルフィーの姿だった。



☆☆☆☆☆☆



「ほらほらほら~、どうしたの~? そんなんじゃ私には当たらないよ~」

「ちっ、ちょこまかと…!」


 レオンのソードをかわし、自分のレイピアを突き出すミルフィー。

 刃先がレオンの喉元を貫こうとするが__


「っと、あぶな」


 紙一重でレオンが盾で攻撃を防ぐ。カウンターにソードを突くがレイピアでそれを受け流された。一旦、距離をとる二人。残り時間をチラッと確認する。残り時間は半分となり、HPの残量はややミルフィーの方が多い。このままでは彼女の勝利となるだろう。

 ここで焦ってはいけない、と二人は集中し直す。互いに相手の動作に目を向け、次の行動を予測した。どれだけ相手の先を読むのかが勝敗を分けるのだ。そのことを熟知している二人の目は鬼気迫るものを纏っていた。



 先に仕掛けたのはミルフィーだった。

 試合開始直後と同様にダッシュでレオンとの距離を縮めると自らのレイピアを突きだす。その高速の攻撃を例のごとく盾で防ぐレオン。その盾は前に突き出され一時的だが彼の視界を覆った。

 ミルフィーはその瞬間、地面から足を離しジャンプ。飛んだ彼女は盾で視界を狭めたレオンの死角だった。


(とった!!)


 勝利を確信したミルフィーは得物を相手に向け止めを刺しにかかる。だが、彼女の視界に盾のほんの少しの隙間からレオンの口角が上がるのが映り込んだ。

 瞬間、自分の失敗に気が付く。


「!? しまっ…」

「【不可視の城壁インビギブル・シールド】」


 突如、ミルフィーの体に衝撃が走る。まるで軽トラックにぶつかったような重く、力強い衝撃によって後方数mまで吹き飛ばされ、空中で一回転してから体はうつ伏せで倒れた。

 刹那、会場の音が止む。

 だが、次の瞬間、闘技場が今日一番の盛り上がりを見せた。傍から見れば何が起こったのかさえ分からないレオンの攻撃。それを受けたミルフィーは倒れた体をすぐに起こし、レオンと向きあう。その表情には先ほどまで見せていた笑顔はなくなり、目を細め明らかな殺意を持って相手を睨んでいた。



 勝負の行方は分からなくなってきた。



☆☆☆☆☆☆



「今の何?」


 画面では先ほどのリプレイが流されている。それを見てもユキには飛んだミルフィーがいきなり後ろに吹っ飛んだようにしか見えなかった。

 その疑問をシロが答えた。


「……【不可視の城壁インビジブル・シールド】」

「へぇ、シロよく知ってるね」

「…何それ?」


 シロの言葉に今だ疑問顔のユキに対してホックはどこでそれを知ったのか聞いている。質問にシロは攻略WiKiで見たと告げると納得したようだ。


「シロ君、今何が起こったの?」

「お前、UWユニークウェポンって知ってるか?」


 シロの口から知らない単語が出て来たので首を振るユキ。まずはその説明から始めることにした。


UWユニークウェポンって言うのは文字通りこの世界に唯一無二の武器、超絶レアアイテムだ。まず、これを手に入れるには運営によって実装された未開拓マップを一番最初に制覇した者だけが手に入れられる可能性を持つ」


 制覇するというのは各フィールドにいるフィールドボスを倒すことだとシロは付け加えて話を続ける。


「ただし、まだ可能性だ。このUWユニークウェポンが手に入る確率は1%に満たないと言われている」

「そんな低いんだ」

「あぁ、だが、UWユニークウェポンを手に入れられたらそいつは相当な力を持つことになる。UWユニークウェポンの大きな特徴は二つ。一つは武器を装備することで使用が可能になる固有ユニークスキル、もう一つは所有者と一緒に武器も成長することだ」

「武器が成長?」

「こいつは人それぞれによる。武器の形状が変わったり、能力が変わったりと様々な変化が起こるらしい」


 「以上、攻略WiKiより引用」と締めくくりシロはナップルジュースを飲み干し、お代わりを頼んだ。


「じゃあ、今のって…」

「今のはレオンの持つUWユニークウェポン、【ガラハッド】の固有ユニークスキルの一つ、【不可視の城壁インビジブル・シールド】だよ。見えない壁を発生させ、攻撃してきたものを跳ね返すスキルだよ」


 シロのジュースを持ってきたホックがユキに説明する。ただし、これには欠点もあり一回のスキル使用に大量のMPを消費するらしい。


「で、今ので形勢逆転だな」

「あぁ、カウンターが決まったからね、これで勝負が分からなくなってきた。やっちまえー!! レオン!!」

「…お金の力って怖いね」

「…さて、どうなるかな?」



☆☆☆☆☆☆



 ゴゴゴゴゴゴゴ!!



 闘技場のバトルフィールドでは擬音が聞こえるほど殺気ついてきた。その迫力に闘技場全体が慄く。

 当の本人たちは金属をぶつけ合い、重い一撃を相手に与えようと躍起になっていた。


「やってくれたな~」

「はっ、油断するのが悪いんだよ」

「乙女の大事な顔に傷付けた代償は重いよ~」


 一度相手との距離をとってからミルフィーは言う。実際、彼女の顔は無傷なのだが、レオンはそれに突っ込もうとしなかった。

 ミルフィーがレイピアを構えなおすとレオンも合わせて構える。

 己の愛剣を構える彼女の口が微かに動く。


「行くよ、【アウロラ】…」


 ミルフィーの言葉でレイピアから光が発せられ、刃先が伸びる。光の刃となったレイピアはレオンにその牙を向けた。

 

「さぁーて、こっからが正念場だ。気張れよ、【ガラハッド】」


 レオンも自分の盾に檄を飛ばす。それは自分にも向けられているようにも見えた。

 ミルフィーは【アウロラ】を持つ腕を後ろに下げ狙いを定める。そして、まるでパンチを繰り出すかのように腕を前に突き出した。



 ドゥゴーン!!


 

 先ほどの【光の軌道アーチボルト】の比じゃない衝撃の余波が観客を襲った。あまりの衝撃で闘技場周辺に揺れを起こしたほどである。

 腕を突き出したまま、構えを解かないミルフィー。彼女の目は前を向けられており、土埃が立ち込める場所から目を離していなかった。なおも光り輝くレイピアことミルフィーのUWユニークウェポン、【アウロラ】。まるで主人を傷つけたものは誰であろうと許さないように見えた。

 ようやく、土埃が徐々に晴れて、ミルフィーの視界がひらけてきた。


「ゴホゴホ、いやー、今のは効いたぜ」


 不敵な笑みを浮かべたままレオンは嬉しそうに言う。余裕そうな態度とは裏腹に彼の体はバトルフィールドを囲む壁に打ち付けられていた。壁にはくぼみができ、ミルフィーの攻撃の強さを物語っている。


「ふんっ、さっきのお返しだよ~」


 不貞腐れたように言い放つミルフィー。先ほどの攻撃に手ごたえを感じられなかったようだ。

 レオンもレオンで完璧に受け止めたと思ったはずなのにまさか壁に打ち付けられるとは思っていなかったのか悔しそうである。だが、同時に両者の顔に笑みが浮かんだ。

 強者と戦うこの感触、ミス一つできないこの緊張感を互いに楽しんでいた。


 レオンは盾を構えなおすとソードを持つ手に力を加え、一歩前へ出る。


 ミルフィーも武器を握る力が自然と強まるのを感じながら一歩前へ出る。


 その光景に先ほどまで盛り上がりを見せていた観客たちは静まりかえり、皆固唾を飲んで見守っていた。

 雑音が一切無くなった闘技場で聞こえるのは武器を構える音と足幅を広げる音。

 刹那、二人は同時に駆け出す。

 相手との距離が縮まり、二人は互いの武器を突き出す。激しくぶつかり合う金属音。盾を押し、相手にぶつけようと試みるレオン。だが、ミルフィーはそれを身体を回転させて回避する。レオンの横につけたミルフィーはレイピアで三連突きを繰り出した。一、二撃はソードで軌道に逸らすことに成功したが三撃目を喰らってしまった。が、自身の高い防御力に物を言わせ踏ん張った。そして、まだ武器を引き戻せていないミルフィーに盾を喰らわす。

 攻撃体勢から戻しきれなかったミルフィーは攻撃をまともに受けてしまい、地面に足をつけたまま後ろに飛ばされる。


「くっ…」

「はっ…」

 

 苦渋の顔と吐息が二人から漏れる。だが、二人ともそれよりも目先の勝利だけを見ていた。

 間髪入れずにレオンは追い打ちを掛けに来た。ミルフィーも素早く体勢を立て直して、攻撃に転じる。

 二人の剣がすれ違い、相手の顔目がけて飛んでくる。そして__



 ブー――――!!



 試合終了の合図が鳴り響く。

 ピタッと止まった両者の剣は顔数cmの距離に置かれていた。


『試合終了!! 結果は……なんと!! 引き分けにより両者同時優勝だーーーー!!』

『う、うおおおぉぉぉぉぉ!!』


 実況者のアナウンスがそう告げた瞬間、闘技場に爆音の歓声が轟いた。

 そして、戦いに感動した観客たちが両者の健闘を称えそれぞれの名前のコールが巻き起こる。

 そのコールはしばらくの間治まることはなかった。

 


 

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