情報と秘密の話

 情報屋の朝は早い。


 璽壱じいちは朝日とともに目覚め、顔を洗い、歯を磨き、郵便受けに乱雑に突っ込まれた大量の手紙と新聞に目を通しながら朝食の支度をする。

 璽壱の住む地区は陽が落ちるとにわかに雲行きが怪しくなり大粒の雨が降り注いだと思えば、丑三つ時を過ぎた辺りから雨足が弱まり、夜明けには快晴になる、というのが常で、だから彼は毎日、活動を日の出と共に始めるのだった。


 情報屋といっても情報を売っている訳ではない。情報と情報を交換しているのだ。

 璽壱がまず客の持つ情報を受け取り、その情報の重さに応じて求められた情報を渡す。相手からもたらされた情報が既に璽壱の知り得る事であったりすると、客は殆ど求める情報を得られないのだった。

 その場合、璽壱は客に秘密を求めた。本人しか知り得ない、本人だけの抱える秘密を。

 秘密は直接聞く事はせず、書簡に記して封をし、専用の棚に収められる。その書簡は基本的に開封されることはないが、当人への脅迫材料になる事は間違いない。それ故、璽壱を自らの下に置きたがる組織は腐るほどあった。勿論それら全ての申し出を、一蹴しているのであるが。

 客の中には当然、書簡の中身を確認しないのならばと自身の秘密を書かない、もしくは秘密と呼ぶに値しないような秘密を書いて情報を貰おうとする輩が出てくるのだが、なんの対策もしていないとでも思っているのだろうか。

 書簡自体にも、墨にも特殊な仕掛けを施してある。記された秘密の重さが、そのまま書簡の重さとなるようになっているのである。璽壱は秘密の記された書簡を受け取ると、それと同じ重さになるまでの情報を相手に渡すのだった。


 璽壱は一度見聞きした事は絶対に忘れない記憶力の持ち主だった。だから璽壱は自身の持つ情報をどこかに書き記しておく必要がなく、広い家を圧迫しているのは大量の個人の秘密を記した書簡と、まだ何も記されていないまっさらな書簡の山だ。

 そして璽壱は病的な程の強迫観念でもってその記入済みの書簡を五十音順に整理するのだった。その秘密の記された年月日と時間順に並べていた事もあったが、それだとどうにも気になって眠れない日が続き、色々な整理順を試した結果、五十音順が一番寝付きが良かったのでそこに落ち着いた。


 勿論、塵の一つでも棚に付着しているのも許せない質であったから、掃除も欠かせない。

 整理や掃除などを代わりにやってくれる者を募集しなかった訳ではない。むしろ現在も絶賛募集中なのであるが、応募してくる者が悉く長続きしないのである。

 璽壱は仕事の時以外では殆ど無口に近く、整理や掃除の出来についてもぐちぐちと言う訳ではないのだが、作業中に一挙手一投足監視するかのように見つめられてはやりにくいにも程がある。お陰で仕事を始めて数日で何も言わずに来なくなる者が続出し、その評判が広まったのか応募者が全く来なくなったのであった。


 璽壱は今日も新たに増える書簡を一人整理しながら、この世界について考えを巡らせるのだった。


 そんな璽壱の家に、璽壱の視線など欠片も気にしないお手伝いさんがやってくるのは、また別の、話。

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