奇妙な同行者

 

 この世界には物語が多く存在する。


 童話に昔話、歴史書やSF、ファンタジーものまで、その種類は様々だ。


 私たちに人生があるように、物語の人々にも人生がある。

 物語が終わったとしても、それは永遠と続く。


『物語に私情を持ち込むな。登場人物に関わるな。俺たちは傍観者だ』


 私は師にそう言われた。


 私は傍観者。

 物語を見守る者。

 登場人物たちに干渉するわけにはいかない。


 人には分岐点があり、物語ではルートが決まる。


 それにより、表に立つか立たないかが決定する。


 私や師は表に出てはいけない。


 側で見る傍観とは違う。


 だって、私は――私たちは『物語の傍観者』なのだから。


   ☆★☆   


「うーん、三人かぁ」


 次の街に行くために、馬車に乗ろうと一人の旅人が御者に話しかける。


「何か問題でも?」

「いや……ただ、相乗りになるがいいか?」


 首を傾げる旅人に、御者は申し訳無さそうに言う。


「構いませんよ。なぁ」


 旅人は二人の同行者に確認を取る。


「私は構わない」

「俺も」


 二人の返事に頷き、旅人は御者に告げる。


「では、お乗りください」


 御者に勧められるが、旅人は尋ねた。


「あの……」

「何ですか?」

「相乗りについて、聞いてきたって事は、すでに誰か乗っているんですよね?」


 旅人の問いに、御者は思い出すように言う。


「ああ、良いんですよ。本人からも『スペースがあれば相乗りさせろ』って言われていますんで。あと、少し寝るようなことも言っていましたね」

「そうなんですか……」


 御者の言葉に、旅人たちは苦笑いしつつも、馬車に乗り込んだ。

 奥を見ると、確かに誰かが壁にもたれて眠っている。


「本当に寝ていらぁ」


 同行者の言葉に苦笑いしつつも、旅人たちは座る。


「出発はもうすぐですから」


 御者にそう言われ、扉を閉められる。


「はい、ありがとうございます」


 旅人は礼を言う。

 数分後、馬車は出発した。






「……すげぇな、これだけ大声で話しているのに」


 同行者が言うように、かなりの大声で話しているにも関わらず、相乗りしている人物は起きる気配はない。


「最初はヒヤヒヤしていたけど、何か心配になってきた」


 もう一人の同行者もそういうが、本当にその通りである。

 いつから居たのか知らないが、はっきり分かるのは、自分たちが乗ってから今まで眠っているという事実だけだ。

 そんなこんなで、一行が進むうちに外は暗くなっていた。


   ☆★☆   


「本日はここまでです。明日の朝、また出発いたしますので」


 道のりが長いため、所々に止まるらしいが、次の街まではまだ遠い。

 空にはすでに月が出ている。

 そのため、御者がそう告げてきた。


「夕飯はそれぞれお願いします」


 と、付け加えて。


「お前ら、どうする?」


 御者が居なくなったのを見て、旅人は同行者二人に尋ねる。


「そうだね~」

「まぁ、昼間のサンドイッチもあるし、それで良いんじゃね?」


 そう返ってきた言葉に頷き、旅人たちはサンドイッチを取り出す。


「いただきます」


 そう言い、三人はサンドイッチを食べる。

 そして、食べ終わると、休憩を入れ、その後は三人で街に着いた後について話し合い、


「おやすみ」

「ああ、おやすみ」


 三人は眠りについた。






 面々が眠りについたのを確認し、一人が目を開けた。

 そして、三人に目を向け、外に出る。

 外に出ると、馬車の周囲にある気配がはっきりとした。


(気配だけでも、大人数だな……しかも、これは盗賊か?)


 そう思いつつ、その人物は、盗賊退治に向かった。


   ☆★☆   


 見える範囲で確認すると、盗賊たちは大体倒したらしい。

 だが、新たな気配を感じ、後ろを勢い良く振り向く。


「誰だ!?」

「おわっ! 危なっ!?」


 剣を向けられ、声の主は、数歩下がった。


「お前は何者だ?」

「ん? 俺か?」

「お前以外に誰が居る」

「確かに、兄ちゃんの言うとおりだ。俺はあんたと同じように、こいつらを倒しに来たんだが、途中でお前が戦っているのを見てな、そのままずっと見ていた」


 おちゃらけるように言う声の主に、旅人は、顔をしかめた。


「答えになってない」

「確かに」


 ここまで来ても、声の主は答える気はないらしい。


「それより、早く仲間の元へ戻った方が良いぞ。盗賊たちが襲っているかもしれないからな」

「忠告は感謝しますが、あいにく、連れはすぐにやられるような奴じゃないから、多分問題じゃないと思います」


 そう告げると、旅人は馬車のある方に戻っていった。


「やれやれ、素直に心配だと言えばいいものを……」


 そんな旅人が進んで行った方を見て、声の主はそう呟いた。


   ☆★☆   


 旅人が盗賊たちと戦闘をしている同時刻、旅人が居なくなり、三人になった馬車では、再び誰かが目を開けた。

 そして、扉を開け、外に出る。

 遠くには小さいが戦闘の音が聞こえてくる。

 次の瞬間――


「なっ……」


 馬車の屋根の上から、無数の鎖が飛び出る。


「くっ……」


 鎖は馬車に向かってきた盗賊たちの動きを押さえる。

 馬車の上を見れば、見たこともない顔がそこにはあった。

 顔はともかく、服装から判断して、相乗りしていた人物だと分かった。

 さらに、相乗りの者が木々に触れると、木々から無数のつたが飛び出し、鎖と同じように、盗賊たちを押さえた。


「すごい……」


 妙なところで感心してしまった。


「ああ、もしかして、起こしたか?」

「あ、いや……」


 呟きが聞こえたのか、相乗りの者に尋ねられ、馬車から出てきた者――旅人の同行者の一人はそう否定した。


「すごいな、その魔法……」


 同行者がいうと、相乗りの者は彼を一瞥し、答える。


「これは……召還魔法と捕縛魔法の応用だ。それと、出来れば、早くこいつらを捕らえてほしい。魔力が持たない」

「あ、ああ。そうだな」


 同行者がそういうと、盗賊たちを順に縛り上げ、相乗りの者は縛られた盗賊から順に鎖を解いていく。

 その後、縛られた盗賊たちは、木々の根元に置いておいた。

 二人は馬車に戻る。


「……何か悪いな、いろいろと」

「?」


 同行者がそう言えば、相乗りの者は首を傾げる。


「その、相乗りを許可してもらったり、さっきみたいに助けてもらったりさ……」


 同行者の言葉に気付いたのか、相乗りの者は、ああ、と口を開いた。


「相乗りについては君たちを限定したわけではないし、先程の件については助けたつもりはない」


 相乗りの者にきっぱりと告げられ、同行者は不機嫌になった。


(せっかく礼を言ったのに……)


「それと――」

「あ?」


 同行者の心理を読んでか読まずか、相乗りの者は小袋を差し出してきた。


「これはやる。連れと飲めばいい。暖まれるぞ」


 相乗りの者はそう言いながら、同行者が小袋を受け取ったのを確認すると、再度寝る準備をし始める。


「あと、言いにくいのだが、街に着いたら起こしてもらえないか?」

「え?」


 相乗りの者にそう言われ、同行者は驚いた。


「無理にとは言わないが、一応、頼んでおく」


 そういうと、相乗りの者は寝てしまったのか、それ以降話さなかった。

 旅人が戻ってきたのも、その後だった。

 同行者の手にある小袋を見て、


「あぁ、湯を沸かさないとな」


 と言ったところを見ると、これがどういう物なのか旅人は知っているらしい。

 そして、朝になり、目覚めた後、朝食を食べ、言われた通りに相乗りの者を起こすなど、何やかんやしているうちに一行は街に着いたのだった。


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