第45話:南方

 ブルグンド王国南部。

 その地域には未だ大きな熱帯雨林が幾つも存在している。その森の中、ある洞窟を抜けた先に広がる空間に南方解放戦線の拠点の一つがあった。重要拠点の一つではあるが、いざという時は放棄を覚悟している拠点故に建物自体は簡素なものが多い。まあ、熱帯雨林という土地柄もあるのだが。

 その場所に解放戦線の幹部達が集まっていた。

 通常、解放戦線は一網打尽にされる事を怖れ、ここまで一同が一箇所に集合する事はない。それだけ重要な会議であるとも言えた。


 「既に知っている者もいるかもしれないが、ブルグンド王国が西方の大森林地帯に対して伸ばした攻勢はエルフ達に敗北した」


 おお、と知らなかった者達から喜びの籠った声が上がる。


 「更に、王国の侵攻の拠点とも言える城塞都市ポルトンが先日陥落した」


 こちらは知らなかった者が多かったのか驚きの声が空気を震わせた。


 「それは本当なのですか?」

 「複数のルートから事実だと確認が取れている」


 ざわめきが大きくなった。

 当然だろう。解放戦線はブルグンド王国軍に結局は押され続けて来た。未だ彼らの重要拠点の一つも陥落させていないのがその証拠だ。


 「一体どうやって……」

 「伝え聞く話はあるが……いずれも荒唐無稽だ」


 森が街を呑み込んだとか、騎士団が崩壊したとか。

 はっきりしているのはブルグンド王国の正規軍が敗れ、その重要拠点の一つが陥落したという事だけ。


 「……アルシュ皇国から援助でも得たか?」


 自分達がオターリャから援助を受けているのと同じように。

 そう、自分達解放戦線もオターリャ諸島連合から援助を受けている。無論、相手からすればブルグンド王国が完全に南部を掌握して、海へと出てくればこれまで以上に衝突も厄介なものになると判断して、必要経費としての援助だろう。

 

 「それは分からん。それに……果たして多少の援助を得たぐらいで出来る事か?」


 それは我々が身に染みて理解しているだろう。

 そんな言葉に誰もが口をつぐむ。


 「何かが起きた。それも王国軍を撃破に追い込む程の……そして、皆を呼んだのは他でもない。そのエルフ達から共同戦線の申し出が来ている」

 

 一際大きなざわめきが起きた。

 どうやって突き止めたのか分からないが、彼らの拠点の一つにある日突然、手紙が届けられていた。

 内容は共同戦線の申し込み、そして共同での国家の建設。それによる王国への対抗。


 「……共同での国家建設?」

 「連合国家、連邦、どういう形にせよ以前の我々よりもう少し国家としての枠組みをしっかり取った形で、という事だな。より分かりやすく言えば、統治は各部族、各種族ごとに他国の貴族領と同様に自治を認めた上で、外部には一致団結して立ち向かう、というものだ」

 

 結論自体は早々に出た。

 「悪くない話ではないか?」というのがそれだ。

 無論、その際の戦力供出や資金、物資供出などに関しては今後話し合う必要があるだろうが、現実問題として南方解放戦線は王国を押し返せずにいる。現状ではブルグンド王国に対して、嫌がらせのような戦い方をするので精一杯。

 今でこそ、まだ王国に制圧される前の事を憶えている者が多いから何とかなっているが……十年二十年と経てばどうだろうか?きっと若い者達にはかつて王国と戦っていたという事を知らない者が出てくるだろうし、その頃に中年となった者達の中には「もういいじゃないか」と諦める者も出てくるだろう。

 今しかない。

 まだ、王国に対する反感が民衆に根強く残っている内に、王国に対して南方解放戦線もまたはっきりとした勝利を納めなければならない。その為に、手を結ぶ相手としては最善の相手が彼らエルフである事もまた間違いない。

 オターリャ諸島連合には期待出来ない。彼らは自分達が王国を打ち倒すまでは期待してもいないし、望んでもいない。なにせ、王国が制圧する以前、オターリャと細かな衝突をしていたのは他ならぬ自分達だから。

 アルシュ皇国もダメだ。遠すぎる上、ブルグンド王国内部の反感が一気に自分達に押し寄せてくるだろう。

 

 「……わしは手を組むべきだと思う」

 「俺もだ」

 「俺達にも出来る、それを示さないと……失望が大きくなるかもしれない」

 「いや、うちの若い者達の不満もだ……エルフ達に出来て、何故うちには、と過激な行動に出かねん」


 かくして、南方解放戦線はエルフ達と手を組む事を決定した。

 それがどのような結果を生むか、彼らはまだ知らない。

  

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