第41話:ポルトン攻略戦10

 キン!カン!キンッ!


 くっくっく、慣れるに連れて、相手の剣に対応出来るようになってきたぜ。

 奴が言ってた通り、俺の剣は荒い。

 元の世界の自分なんてこんな大剣なんぞゲームで扱った事があるだけだ。幾ら上手く再現してあったとしても重量やそれを振り回した時の体の重心とかそういうのは再現されない。パラメータが細かくなりすぎるし、遊ぶ奴にも不評になるだろうからな。だから、自分の中にいるもう一人の自分の剣がそうだった、って事なんだろう。

 

 (まあ、分からんでもないがな)


 虎の獣人は獣人族の中でもパワーとスピード双方に優れた獣人だった。

 反面、魔力関係には弱い、って設定だったけどな!

 だからこそ、そんな荒い剣でも何とかなってたんだろうな。王族って立場ならそこまで精密な剣技要求されなかった、ってのもあるだろうし。ぶっちゃけ、普通は王が自分で剣振って戦わないといけないような状況なんて負け戦か、余程の奇襲喰らったかのどっちかだしな。

 歴史の中では日本でも双方の王にあたる領主同士が戦場で直接戦ったなんて事もない訳じゃないが、そんなもんは例外中の例外。それこそ動かせる兵士が百といったごく小規模な田舎領主なら自分達で剣を振るうなんて事もあっただろうが、双方が万を超える兵士を動かすような戦で王同士が互いに剣を交わすなんて滅多にあるようなもんじゃない。だからこそ、そうした戦いは歴史に残る訳だし。


 「ぜえ……ぜえ……ふう。きっついねえ……」

 「そろそろ限界じゃねえのか?……武器の方がな」

 「まあ、ねえ」


 そうゴットフリートって奴に声をかけると割かし素直に苦笑した。

 体力だけなら何とか出来るかもしれん。

 しかし、武器はそうそう代わりが見つかるようなもんじゃない。数打ちの一山幾らな剣ならそこらに転がってるだろうが、俺の大剣と打ち合いが出来るような名剣の類となれば普段は宝物庫だの倉庫だのにしまわれていたとしてもおかしくない。

 かといって、折れた後、そこらに転がってる剣を使った所で意味はない。剣ごとぶった切られるだけだ。それを理解していないとも思えんが……。


 一瞬、自身の大剣に視線を向ける。

 ……ゲーム時代からの長年の相棒。

 『ワールドネイション』の中でも名工と呼ばれるドワーフのプレイヤーにかなりの対価と引き換えに作ってもらい、以後強化し続けて愛用してきた剣。オリジナル故にゲーム世界にも一品しかなく、故に命名権が生じてつけた名は【覇王剣フウシャオ】、うちの騎馬軍団とかモンゴルっぽいと思って中国語から虎と咆哮を組み合わせて考えた造語だ。

 もちろん、問題はある。

 整備出来ない事はまあ、何とかなる。一定レベルの武具には大抵、【自動修復】のスキルがついていた。これがない装備なんてそれこそレベルは高くても使い捨て、って武器ぐらいだ。例え、折れても鞘に納めて、時が経てば元に戻るという有難いスキル。こいつのお陰で、最低限手入れさえしておけば問題はない。

 ただ、新たな強化は出来ないだろう。

 このレベルの武具になってくると強化には鍛冶の腕もそうだが、素材も貴重なものが多数必要になる。生憎、そのどちらも今の俺達にはない。

 『ワールドネイション』というゲームを始めたばかりだった子に、長年そのゲームで遊び続け、名を馳せた生産職と同じ事を望むのは無理ってものだ。

 そして、伝説級の素材なんてそれこそゲームでなけりゃ手に入らない。

 ゲームなら特定のエリアに行けば、自然とモンスターが湧いてくるし、特定の採掘ポイントを発見すればまず確実にツルハシ一本でも短時間で素材が確保出来たりする。

 この世界ではそうはいかない。

 珍しい鉱脈があっても、それを掘るには大規模な採掘施設に、それを製錬する設備が必要で、鍛冶にも時間がかかる。ましてや、伝説級の金属や生体素材を多数使った剣になんて対応不可能だろうな。


 「分かった、降伏しよう」


 そんな事を考えている内に、相手が降伏した。

 後方の連中もざわめいている。


 「もうこれ以上は無理だ。あと一撃か、そこら。それで剣が折れる。お陰で武技も発動出来なかった」

 

 一命と引き換えに一撃。

 それなら、武技とやらも発動出来たんだろうけどな。あの時のように。

 生憎、今回、このおっさんは優先順位を時間稼ぎを一番につけた。降伏するにせよ、逃げるにせよ、自分の主君である辺境伯が考える時間を稼いでみせた訳だ。その為には自分が華々しく戦って散るのではなく、例えみっともなくても時間を少しでも稼ぐ事……。

 いいね、こういう優先順位をつけれる奴はいい。

 

 「それに、なあ」

 「どうした?」 

 「そちらのお仲間まで来たみたいだし、これ以上は無理でしょ」

 

 おや。

 確かに、こちらに近づいてくるのは常葉の気配だ。距離的に俺からは背後は見えんが、ゴットフリート副団長とやらにはもう姿が見えている頃か。

 ……なるほどね、それもあって降伏したか。


 「さて、それじゃあそっちの上司にお伺いを立ててくれるかな?降伏するかどうするか、ってな」

 「はいはい。おい、誰か行ってきてくれ」


 さて、これで戦いもそろそろ終わりかね。

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