第11話 どうせやるなら祭りは派手に
その夜、バリザードの町には血の雨が降った――
と、のちにいわれるこの夜、おれはなんとも爽快な気分で腕を振るっていた。
弱い者いじめという意味では気が引けるが、悪党を始末するのに彼我の実力差なんか関係ない。一人の殺人犯を追うのに十人の衛兵を動かすことを誰も恥とは思わないだろう?
それと同じだ。それに数では向こうが遥かに上なんだから遠慮することはない、派手にやっちまえばいいのさ。
ただ、鬱憤晴らしがなかったといえば、嘘になる。
なんせこいつらは、どんなに効果的だとわかっていてもおれにはできなかったことを、平気な面でやってやがったんだ。だから被害者を代表しておれたちが意趣返ししたって構わないだろう?
なんて、誰に言い訳するでもなくそんなことを思いつつ建物の中を練り歩き、武装したやつを片っ端から殺して回った。
この商工会事務所、いろんなギルドの本部と物理的に接続されていて広いのなんの。絶対に市長の館よりでかいね、間違いない。
だからここには武装した冒険者崩れや兵士崩れ、場合によっては山賊や盗賊をやるようなごろつきどもがうじゃうじゃいやがる。どうも宿舎も兼ねているようだから当然っちゃ当然だ。
すぐに騒ぎを聞きつけて各所から応援がやってくるが、話にならん。おれ一人でも充分そうなのにゼルーグたちも乗り込んできたからもう一方的だ。
もちろんクレアもいる。
ぶっちゃけ、一番派手だったのがクレアだ。
あらかじめ血は使うなといっておいたが、それでも真紅の魔力を炎のように波のようにぶちまけて回る姿はもはや悪魔に等しい。
まず回収すべきは店舗の購入に支払った為替手形だ。つい数時間前のことなんでまだ換金はされていないだろう。されていたとしてもその金を回収するだけの話だ。
案の定そいつは商業ギルドに保管してあり、そこで第二のお目当ても発見した。
いやあ、われながらえげつないことを考えたもんだと恐れ入るね。ゼルーグがいうように、前職にあったときもこういうことをやっていればまったく違う人生になってただろうな。その代わりあいつらはおれのもとを離れたに違いないが。
おれがほしかったものとは、各ギルドや商工会が管理している為替や証文、契約書の類。
知ってるか?
こういうのってな、ある意味じゃあ命より重いんだぜ?
なにせこういう書類はほとんどが持ち主のものだからな。サインなんか簡単に真似できるし、拇印だって誤魔化しようはある。特に血判の場合はこっちにゃクレアがいるからな。
つまり、本来ならギルド相手に交わした契約が、おれを相手に交わしたことにすり替わっちまう。そのおれがギルドよりあくどい方法で搾取したら、どうなる?
下手すりゃ一家心中だ。
もちろんそんなことはしないが、開店資金を増やすためにもこの町に秩序を取り戻すためにも、ここで灰にしちまうよりきちんと回収して所在を明らかにしておいたほうがなにかと都合がいいのさ。
当然、むかつくやつには吹っかけてやるけどな!
そんなわけで、おれは腰を抜かして逃げ遅れた事務員たちのケツを蹴って手伝わせた。ゼルーグたちはともかく、クレアのことだ、どうせとっくにあちこち火をつけてるに決まってる。そうなりゃあとは時間との勝負、持ち出せるだけ持ち出してとっととおさらばよ!
「綺麗ねえ……」
「ああ、まったくだ」
おれとクレアは腕を組んで燃え盛る悪の総本山を見上げていた。
持ち出した書類はすべてギルド内にあった荷車に詰めて運び出し、手伝わせた事務員たちは既に解放してある。
この火事は、おれの仮店舗が燃えたときとは比べ物にならないほど多くの野次馬を呼び、彼らに衝撃を与えている。
感動という名の。
「やったー! ざまァ見ろーッ!」
全員が口々にそう叫ぶのだ、拳を突き上げて。
消火しようという者は一人もいない。
ただの一人もだ。
燃えている建物があまりに広いというのも理由のひとつだろうが、それ以上にそれだけこの町の住民がやつらに苦しめられていたということなんだろう。
この一ヶ月バリザードの情報を集めながらやってきて、ゼルーグたちの情報を聞いて、それがよくわかっていた。だから徹底的に叩かなければだめだと判断したんだ。
バックには各国の大物がついているという話だが、知ったこっちゃないね。
もうおれは誰の顔色も窺うことなく生きていきたいんだ。
ここをそのための、第二の人生の拠点と決めた。
邪魔してみやがれ、誰だろうとどんな手を使ってでもブッ潰してやる!
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