第43話 旅立ち 29

くしゃみは出なかった。



岩に囲まれた谷はしばらく続いた。



地面から岩がむき出しになったような険しい道を荷車をひいて進むのは、数多くの旅を経験しているリヌクでさえ過酷なものだった。



荷車の車輪が石に引っかかって動かなくなることが何度もあったが、そのたびに、リヌクとパドスは車を後ろから押さなければならず、この作業が二人の体力をひどくすり減らしていった。



そのうち、いくつもの尖った岩が地面から突き出している場所までさしかかった。



この場所はいままでよりもさらに複雑な道だった。



道というより、岩の上を進んでいるような感覚を覚えた。



もちろん、こういう場所では、まともに進むことができないことはわかりきっていて、案の定、荷車はすぐに尖った石に引っかかってしまった。



このような状態に陥ったのは、一度や二度ではない。



車が止まっては、それを後ろから押すという同じ作業が何度も続き、リヌクは肉体的にも精神的にも限界を超えて狂気の世界に入り込もうとしていた。



リヌクは、この先がどうなるかわからない状況で、その場に立ち尽くし身震いを始めた。



「なななぁあああーーー!」

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