31―3


 クシミには〝いが三石〟というパワースポットがある。

 北西に位置する森の中、それはある。

 森の入り口から歩いて三〇分ほどだが、道は狭く、足場も良くない。

 バイオレットにしてみれば、行くだけで疲れが出そうな場所である。

 疲労回復の為に疲労するとは本末転倒…… だが、そこはクシミ随一のパワースポット。 回復どころか、能力の開眼もあり得ると言われるほどの場所なため、訪問者は多いのだ。


 浜辺を後にしたザックは、今まさにいが三石を目指し歩いていた。

 緑の色が次第に増える道を、人と時々すれ違いながら、急いで進む。

 パワースポットが近いからか、何かを予期したものなのか、どこか陰鬱とした予感も増していく様に感じられた。

 いが三石の周りには、どれくらいの人が居るだろう。

 その中から、あみをどうやって見分けようか。


(やるしかないか)


 ザックはすでに、手を打っていた。

 人には普段話さない、隠している能力…… いや、感覚というべきか。ザックには〝敵意を感じる力〟が備わっていた。

 ワンダラー同士が衝突しあえばすぐに反応できるのも、この感覚の所為(しょい)にあった。

 だが、それは普段用いていない。

 ワンダラー衝突の場合は、世界中どこにいても数日前から予期できるが、それ以外ではそこまでの効果は期待できないのが現状だった。


(感覚を研ぎ澄ます…… 意識して見れば、なにか違和感を覚えるはずだ)


「あ! あなた、ちょっといい?」


 やや俯いて歩く頭に、元気の良い声が注がれる。

 頭を上げて見る前方、ブロンド色の髪を左右に束ねた少女がいた。


「いが三石に行くのよね? なら、今は止めた方が良いかも!」


 語るや否や、少女は空を見上げてきょろきょろし出す。


「空の方で光の動きに変化があるから、降るのは確実。あ、雨の話ね!」


 得意げに話す少女は、占術師。

 といっても、天気の予知はしないらしい。

 あくまで予想。雲や空の色を見て感じ取るのが趣味だという。


「雪だって降ってくるかも。だからあたし帰るんだけど、あなたはどう?」


 少女の言うことが本当ならば、雪は確かに危険だろう。

 が、好機でもあった。

 これから自分が警告をして件の場所から誰も居なくなれば好都合。仮に、その時あみを逃しても、拠点となる三つ巴の石に張り付いてさえ居れば、必ず会える。

 予定に変更は無い。ザックは、このまま進む旨を少女に告げた。


「そう…… まあ、気をつけてね!」


 少女はふてくされたように、帰り道を歩いていく。

 せっかくの親切心だったが、仕方が無い。

 それにしても、今日は少女に縁がある…… ザックがそう思った時、鼻先に一粒の雫が触れた。

 それは見る間に数を増やし、葉や土を湿らせていった――

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