30「凛然凛呼」
30―1
まずは、目を閉じる。
次に、肌で空気を感じ取る。
人が行き交う駅のホーム。
その中で、大きく息を吸い、そして吐く。
瞬間、ザックは確信した。
(間違いない。彼らはここで何かを……)
感じたものは、辺りを包む異様な雰囲気。
間違いなく荒らしの放つ負のオーラによるものである。
かなりの数、もしくは非常に強力なオーラを纏う荒らしの仕業か……
進化派が作り上げたという荒らしを誘い出す旋律の存在が、それら全ての仮説を否定できないものにしていた。
ザックは踏みだし、ホームを去る。
ここ〝クシミ〟へは、モヴァで出会ったスイの協力の元、ジョウントタグを利用し来ていた。
とはいえ、モヴァからクシミへ移動するジョウントタグは無いため、最寄りのボンセクイテンを経由しやって来たわけだが、それでも時間はかなり省かれていた。
その分開いた時間で、ザックはクシミをくまなく調べる事にした。
〝妙な感覚〟という不確かな根拠を頼りに、西へ東へ、来たから南へ。
山中、山間、そして海岸、くまなく探る。 結果、基本的に人の生活圏外の場所に、妙な感覚が残留している事に気付く。
事に、クシミで有名なシブ浜から数一〇キロ離れた、浜辺。あまり観光客も居ないその場所に、色濃く荒らしの気配があった。
計画のメインエリアの可能性が高い。
ここで隠れて待てば、何か掴めるかも知れない。が、流石に危険も付きまとう。
ならば、一旦街に戻り、占術師を確保。過去の透視をして貰う…… 考えたが、流石に部外者を巻き込むのは気が引けた。
(まずは信用出来る人を探す。事情をある程度話した上で協力して貰おう)
ザックの意思は固まった。
いずれにしても、基本はチャットルームから始まる。
ザックは素早く歩き、赴いた。
街が近付くに連れ、赤茶色の煉瓦の家屋が整然と街道を囲む、なんとも美しい景観が広がる。
建造物がすべて煉瓦作りで統一されているのが特徴であるこのクシミは〝大陸五大都市〟に数えられる地である。
建物大半は赤茶色だが、所々、色彩鮮やかな千変万化の姿を見せる。
また、煉瓦にはチャット文字で描かれた絵が描かれており、来る者を楽しませていた。
〝芸術の街〟と謳われる由縁に浸りながら、ザックは街一番のチャットルームに着いた。
入って早々、短いメロディが軽快に出迎える。
よくある呼び鈴では無く、機械仕掛けのレトロな道具を使う辺りにも、芸術の街の一端がうかがえる。
早速、席に座り人材募集。
と、その前に……
市街地で何か変わったことは無いか、一応周りに聞いてみる。
「おう、とっておきの情報があるぜ」
そう言って、空いた席にドガンと座るのは、客の大男。
情報屋というやつか、あまり見ないタイプの職種だが、これも都市故のもの。
ザックは、やんわりと受け答えつつ、情報を路銀で買う。
「これは確かな情報だ…… あのクロンちゃんがこの都市の近くの島で、お忍びのリゾート中らしいぜ」
……完全に得たい情報とは無縁だった。
鳩に豆鉄砲。肩の力が大きく抜ける。
「しかもだ。無防備にも付き添いは新米護衛の一人だけと来た。お忍びだから人目にも付きにくい。後は、分かるな?」
だが、続いた下世話は見逃せない。
何かよからぬ事を考えていそうな男に、ザックは身構える。
「付き合ってるに違いないぜ、その二人! 俺の予想はよく当たるんだ! 全く、うらやましい限りだ」
またしても、ザックは脱力。
拍子抜けをするが、悪意の無い話に安堵する。
(それにしても、新人護衛か…… ビンズさんだな)
覆うと同時、元気にやってそうなビンズにも安堵を覚える。
しかし、ビンズの所属する所は、カニールガーデン。進化派の巣窟である。
いつ利用されるか分からない身といえた。
何か起きる前に、それとなく引き離すのがベストか…… ザックは、せっかく覚えた安心感を、不安感で覆ってしまう。
(今は計画の阻止を優先しよう)
頼んだ紅茶を一飲みし、再び意識をクシミに向けた――
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